日本歴史時代作家協会 公式ブログ

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大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第25回 天が望んだ男

 頼朝(大泉洋)は夢を見ていました。お経が聞こえるので行ってみると、遺体を囲んで、政子をはじめとする北条の者たちが座っていました。そして遺体は、頼朝自身だったのです。

 建久九年十二月二十七日。頼朝に死が迫っていました。

 頼朝は弟で僧侶である阿野全成新納慎也)に相談します。

「毎晩同じ夢を見る。今日も、昨日も、おとといも」

「気にされることはないかと」

 と、全成はいいます。

「まだ死にとうない」頼朝はすっかり気落ちした様子です。「どうすれば良い」

 全成は語り始めます。平家の使っていた赤は遠ざける。久方ぶりの者が訪ねてくるのは良くないことの兆し。ご自分に恨みを持つ縁者には気をつける。昔を振り返るな。仏事神事は欠かさぬこと。赤子を抱くと命を吸い取られる。頼朝は全成ににじり寄って、それらを聞くのでした。

 しかし全成は妻の実衣(宮澤エマ)に、でまかせだったことを打ち明けます。

「何かいわないと、兄上も引き下がらないだろう」

 北条一門は、相模川で供養を行おうとしていました。

「わしも行かねばならんのか」

 と、頼朝は乗り気ではありません。しかし頼朝は「仏事神事は欠かさぬこと」との全成の言葉を思い出すのです。頼朝は義時(小栗旬)を見つめます。

「小四郎、北条は信じて良いのか」

「もちろんです」

 と、義時は答えます。頼朝は苦悩の表情で義時から視線をはなします。

「近頃、誰も信じられん。比企のこともある。範頼を焚きつけたのは、比企という噂も聞いた。もう誰も信じられん」

 比企能員佐藤二朗)や大江広元栗原英雄)らが、これからの鎌倉について話し合っていました。大江が、頼朝は、代々源氏の血筋で鎌倉殿を継がせていくつもりのようだ、と、発言します。比企がいいます。次は若君(源頼家)(金子大地)。その次は一幡(いちまん)様か。頼朝が元気なうちに決めておいた方が良い。

 そこへ頼朝が入って来ます。

「何の話だ」

 と、問う頼朝に、三善康信小林隆)が答えます。

「鎌倉殿を先々、どなたが継いでいかれるか」

 頼朝は声を荒げます。

「わしに早くあの世へ行けと申すか」

 義時は頼朝の息子である頼家に相談を受けます。頼家は比企の一族である、せつ、との間に、一幡という男子をもうけていましたが、ほかに妻として迎えたい女性がいるというのです。つつじといって、源氏の血を引いています。

 この場に義時は頼朝を連れてきます。

 怒鳴りつけるのかと思いきや、相手が源氏の血を引いていると知った頼朝は、

「それが真(まこと)なら、まさに好都合。その娘を、そなたの妻とし、比企の娘を、側妻(そばめ)とする」

「よろしいのですか」

 と、問う安達盛長(野添義弘)に、頼朝はいい放ちます。

「相手は源氏の血筋。比企に文句はいわせん」頼朝は頼家に向き直ります。「おなご好きはわが嫡男の証(あかし)だ。頼もしいぞ」

 頼朝は頼家の肩を叩くのでした。

 稲毛重成(村上誠基)の妻は北条時政の四女でした。三年前に病でこの世を去っていました。相模川にかかるこの橋は、重成が亡き妻の供養のために造ったものでした。

 北条の者たちを迎えようと準備をする畠山重忠中川大志)に、義時の息子である頼時(坂口健太郎)がいいます。

「考えたんです。御家人の中で一番は誰なんだろうって。腕っ節の強さでは、和田義盛横田栄司)殿。知恵が回るのは、梶原景時中村獅童)殿。人と人をつなぐ力は、私の父。しかし、すべてを兼ね備えているのは、畠山殿だと私は思います」

 どうやら頼時は、畠山に心酔しているようです。

 橋の供養に、頼朝もやって来ます。

 北条の一族は餅を丸め始めます。仏事で皆が集まると、いつもすることでした。

 頼朝はぼんやりと庭をながめていました。そこへ時政の妻である、りく(宮沢りえ)がやって来ます。りくは聞きます。

「鎌倉殿は、いずれ京へ戻られる」

「そう思ったこともあった。しかし朝廷は、いつまで経っても我らを番犬扱い。顔色をうかがいながら、向こうで暮らすより、この鎌倉を、京に負けない都にすることに決めた」

 しかし、りくはいうのです。

「いけません。あなた様は今や、日の本一の軍勢を持つお方。そのお力を持ってすれば、朝廷だっていうことを聞きましょう」

「そうたやすくはいかん」

 りくは、着物の袖(そで)で口元を隠し、ささやきます。

「臆病なこと」

「今、何と申した」

「野山の鹿を追うのに、足が汚れるのを嫌がる犬のよう」

 りくが笑い、頼朝も笑います。

「都人(みやこびと)は脅しだけでは動かぬ。あなたもご存じではないか」

 頼朝が、りくを見つめます。りくはなんと、頼朝に手を重ねるのです。

「りくは、強いお方が好きなのです」

 頼朝はあたりを見回してからたずねます。

「時政は、わしのことをどう思っておる。わしを殺して、鎌倉をわがものにしようと考えておるのではないか」

「そんな大それたこと、考えてくれたらうれしいのですが」

 りくは手を放します。そこへ時政がやって来ます。りくは立ち去るのでした。時政は酒を持っています。出来上がったばかりの餅を頼朝に勧めます。時政はしゃべります。

「政子に感謝しとるんです。いい婿と縁づいてくれたなあって」

 頼朝は餅をのどに詰まらせるのでした。慌てた時政は人を呼びます。皆が駆け付けます。義時が背中を強く叩くと、頼朝は餅を吐き出します。

「死ぬかと思った」

 と、頼朝は声を出すのでした。

 頼朝は政子と森の中にやって来ます。

「時政がいなければ、どうなっておったか」

 そういう頼朝に、政子が話します。

「父はいざという時に役に立つんです」

「持つべきものは、北条だな」

 義時が水を持ってやって来ます。

「良い折りだ。お前たちにいっておくことがある」頼朝は立ち上がって、義時と政子を見つめます。「頼家のことだ。わが源氏は、帝(みかど)をお守りし、武家の棟梁(とうりょう)として、この先百年も、二百年も続いていかねばならん。その足がかりを頼家がつくる。小四郎、お前は常に、側(そば)にいて、頼家をささえてやってくれ。政子も、これからは鎌倉殿の母として、頼家を見守ってやって欲しい。お前たちがいれば、これからも鎌倉は盤石(ばんじゃく)じゃ」

 政子がいいます。

「まるでご自分はどこかへ行かれてしまわれるような」

 頼朝は微笑んで歩き出します。

「わしは近々、頼家に、鎌倉殿を継がせて、大御所となる」

「大御所になられてどうされるのですか」

 と、義時が聞きます。

「さあ、どうするかのう」頼朝は振り返ります。「船でも造って、唐(から)の国に渡り、どこぞの入道のように、交易に力でも入れるかのう」

 頼朝は笑い声を上げます。政子が去って行きます。頼朝は義時にいいます。

「小四郎。わしはようやく分かったぞ。人の命は定められたもの。抗(あらが)ってどうする。甘んじて受け入れようではないか。受け入れた上で、好きに生きる。神仏にすがって、おびえて過ごすのは時(とき)の無駄じゃ」

 義時がいいます。

「鎌倉殿は、昔から、私にだけ、大事なことを打ち明けてくださいます」

 頼朝は大きく息を吐きます。

「今日は疲れた。わしは先に御所に戻る」

 頼朝は安達盛長と二人、森の中の道を行きます。安達がいいます。

「こうして、鎌倉殿の馬を引いて、歩いておりますと、伊豆の頃を思い出します。いろいろございましたな」

 頼朝は馬上から声をかけます。

「そなたといると、いつも心が落ち着く」

 安達は馬を止めて頼朝を見上げます。

「何よりの、お褒めの言葉にございます」

 頼朝は思い出話をしようとしますが、体が硬直してうまくいきません。やがて木々が迫ってくるように感じ、馬から落ちるのでした。

 

『映画に溺れて』第497回 リトルニッキー

第497回 リトルニッキー

平成十三年六月(2001)
有楽町 日劇プラザ

 

 最初の場面はバードウォッチングならぬ覗き魔。木の枝に腰掛け、窓越しに女性の着替えを覗いていた男、気づかれて落下し、そのまま落命、地獄へ真っさかさま。次々と落ちてくる死者たちを鬼が追い立てている。
 そろそろ一万年の任期が切れる地獄の大魔王サタン。三人の息子のうち、だれを次の魔王に選ぶか。長男のエイドリアンは冷酷で邪悪、次男のカシウスは粗暴、三男のニッキーは気弱で間抜け。結局もう一万年任期を務めることにする。
 魔王の地位をあてにしていた長男と次男は共謀して、地獄の門を凍らせ、人間界へ逃亡。地上を生き地獄にしようと企む。門を閉ざされた地獄では、死者の魂が入ってこなくなり、魔王は瀕死の重体。
 そこで、三男ニッキーが地上へ出向き、ふたりの兄を地獄に連れ戻す役目を託される。地上は恐ろしいところだが、死んでもここへ戻るだけだからと。着いたところが地下鉄の線路。あっという間に電車にひかれて地獄へ舞い戻るニッキー。もう戻ったのかとあきれる地獄の悪鬼たち。
 再び地上へ行き、悪魔犬ビーフィの案内で、売れないゲイの役者とルームメイトになり、デザインを学ぶ女子学生と仲良くなったりしながら、兄を探すニッキー。
 司祭と市長に憑依した兄たち、秩序を無視し、悪事を奨励、地上はさながら生き地獄となる。
 魔王の息子のくせに、なにゆえニッキーは心優しいのかという種明かしもあり。ふたりの兄を瓶に吸い込ませるのは『西遊記』の金角銀角の瓢箪を思わせる。
 際限なく続くギャグ。ニッキーのアダム・サンドラーをはじめ、魔王のハーヴェイ・カイテル、エイドリアンのリス・エヴァンスなど、ベテランのコメディ演技が楽しい。

 

リトルニッキー/Little Nicky
2000 アメリカ/公開2001
監督:スティーヴン・ブリル
出演:アダム・サンドラーパトリシア・アークエットハーヴェイ・カイテルリス・エヴァンス、トム・“タイニー”・リスター・Jr、ロドニー・デンジャーフィールド、アレン・コヴァート、リース・ウィザースプーン、ケヴィン・ニーロン、ジョン・ロヴィッツクエンティン・タランティーノ

『映画に溺れて』第496回 バロン

第496回 バロン

平成元年十月(1989)
池袋 文芸坐

 

 ミュンヒハウゼン男爵はドイツに実在した人物。架空の冒険談を面白おかしく語り、やがてその聞き書きが尾ひれをつけて出版され、世界各国で有名になった。このほら男爵を主人公にテリー・ギリアムが監督。
 十八世紀末、トルコの侵攻を受けるドイツの港町。町の劇場で演じられているのがミュンヒハウゼン男爵の冒険物語。その舞台にひとりの老人が割り込んでくる。われこそは本物のミュンヒハウゼン男爵であり、こんな茶番は許せないと抗議する。そして観客を前に語り始める。トルコ軍が攻めてくる本当の理由、それは自分のせいだと。
 かつて四人の特殊能力を持つ家来を使って、サルタンとの賭けに勝ち、宝物庫の財宝をことごとく持ち去ったので、今もトルコ軍から命を狙われている。
 そこで今回のトルコ軍の攻撃を食い止めるため、二十年前に別れた四人の家来を探し出す新たな冒険が始まる。
 女性の下着をつなぎあわせて作った気球で月へ行ったり、火山に落下してヴァルカンとヴィーナスに出会ったり、怪魚に食われて腹の中で家来と再会したり。
 現実よりも空想を愛するミュンヒハウゼン男爵はテリー・ギリアムのライフワークともいえるドン・キホーテに通じる。
 男爵と行動をともにする座長の幼い娘が子役時代のサラ・ポーリー。貝殻から全裸で登場する美神ヴィーナスがユマ・サーマン。武器製造の神ヴァルカンがオリヴァー・リード。単独で敵地に乗り込み味方を救い出した勇敢な兵士を規律違反で処刑する杓子定規な長官がジョナサン・プライス。その兵士がノンクレジットのスティング。月の王がロビン・ウィリアムズ。そして俊足すぎて足に鉄の玉を鎖でくくりつけているのがエリック・アイドル
 豪華キャストによるファンタジーであり、モンティ・パイソン時代の馬鹿馬鹿しさはかなり抑えられている。

 

バロン/The Adventures of Baron Munchausen
1988 イギリス/公開1989
監督:テリー・ギリアム
出演:ジョン・ネヴィルサラ・ポーリーエリック・アイドルオリヴァー・リードユマ・サーマンジョナサン・プライス、ヴァレンティナ・コルテーゼ、ロビン・ウィリアムズ

 

大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第24回 変わらぬ人

 頼朝が巻狩りから、鎌倉に帰ってきます。

 源範頼迫田孝也)は、安達盛長(野添義弘)と話します。

「うかつでございました」安達盛長は柱に寄りかかります。「まさか生きておられたとは」

 愕然として、範頼がいいます。

「私が鎌倉殿の座を狙ったと疑われても仕方がない」

「蒲殿(範頼)にそのお気持ちがないことは、私はよく分かっております」

「おぬしが分かっていてもな」

「朝廷への使者を、急ぎ呼び戻しております」

「確かに。あの書状を見られては、さらに疑われてしまう」

 しかしその書状は、頼朝に届けられていたのです。

 義時(小栗旬)が書状を読んでいます。

「範頼が朝廷へ送ろうとしていたものだ」

 と、頼朝(大泉洋)が告げます。大江広元栗原英雄)がいいます。

「蒲殿は、ご自分が鎌倉殿になるおつもりだったようです」

 義時が声を出します。

「それは、恐らく、混乱を治めるため」

「範頼を連れて参れ」

 と、頼朝は義時に命じます。

 範頼は、起請文(きしょうもん)を書いて、頼朝に会います。

 頼朝は範頼の持ってきた起請文を読みます。

「そこに書いてあることが、すべてにございます」 

 と、範頼は述べます。頼朝がいいます。

「謀反ではないと申すのだな」頼朝は書状を見せます。「これを都に送ったわけは」

「あの時は、兄上が討たれたと思い込んでおりました。誰かが兄上の後を継ぎ、采配を振るうべきと考えました」

「なぜわしが生きて帰ってくると思わなかった」頼朝は範頼を見すえます。「死んで欲しいという思いが先に立ったのではないのか」

 範頼は懸命に訴えます。

「すべては鎌倉を守るため。これからも忠義の心を忘れず、兄上と鎌倉のためにこの身を捧げとうございます。このたびのこと」範頼はひれ伏します。「どうか、お許し下さい」

 しかし大江広元は、起請文に難癖をつけます。義時が口を挟みます。

「それは、言いがかりでございます」

 頼朝が問います。

「さあ、どう言い逃れする。わしを説き伏せてみよ、範頼」

 範頼は力なくいいます。

「もう、結構でございます」

 範頼は死罪を免れ、伊豆の修善寺に幽閉されることになります。

 後白河法皇が世を去り、王姫(南沙羅)が、帝(みかど)の妃(きさき)となる話は消えました。頼朝は都で力を伸ばす、一条家に王姫を嫁がせようとします。しかし王姫は木曽義仲の息子である義高が忘れられずにいます。

 王姫は和田義盛横田栄司)の家人となっている、巴御前秋元才加)相談します。巴は、人は生きている限り、前へ進まなければならない、と語ります。

 王姫は京に行って、帝の妃となることを決心します。

 頼朝は二度目の上洛をします。

 京に着いた王姫は、母の政子と共に、後白河法皇の愛妾であった丹後局鈴木京香)に会いに行きます。

「もう入内(じゅだい)が決まったような口ぶりですね」丹後局は、政子に近づきます。「頼朝卿はともかく、あなたはただの東夷子(あずまえびす)。その娘が、たやすく入内などできるとお思いか。どこに行き、誰に会うべきか、指南してくれとすがってくるかと思えば。厚かましいにも程がある」

 政子は冷静さを保ち、丹後局に頭を下げます。

「どうかお知恵を、お授け下さいませ」

「そなたの娘など、帝からすれば、あまたいるおなごの一人にすぎぬのじゃ。それを忘れるな」丹後局は座ります。「頼朝卿に伝えよ。武力を笠に着て、何事も押し通せるとは思われぬように、と」

 夜、頼朝と政子は話します。

「言わせておけ。今は敵に回したくない。こらえてくれ」

 と、横になった頼朝はいいます。政子が訴えます。

「王姫が心配です」

「わしも今日は嫌な目に遭った。唐(から)の国の匠(たくみ)に会うはずだったが、かなわなかった。わしが罪深く、御仏に見放されているからだそうだ」

「言わせておきましょ」

「都は好かん」 

 王姫は病に倒れ、入内の話は延期となります。鎌倉へ戻っても、王姫の容体は、悪化する一方でした。そのまま衰弱の一途をたどり、王姫は、20歳の生涯を閉じるのでした。

 頼朝は仏像を前にいいます。

「誰かがわしを、源氏を呪っておる。思い当たるのは、一人しかおらぬ。やはり、生かしておくべきではなかったか」

 範頼はのどかな生活を送っていました。野菜の収穫に喜びます。その姿を善児(梶原善)が見ています。範頼は善児に刺されて死ぬのでした。

 頼朝はこのところ、熟睡したことがありませんでした。天から生かされていたこの男は、気づいているのでした。自分の死が、間近に迫っていることを。

第495回 モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル

第495回 モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル

昭和五十五年二月(1980)
渋谷 西武劇場

 

 私は映画が大好きなので、次から次へと映画を観続けている。中にはつまらない映画もたくさんある。どんなジャンルにもそれはある。低予算のB級映画にもそれはあるし、莫大な予算でベテラン監督で有名スターが出ていても、それはある。が、私はつまらない映画をけなすのは嫌いなのだ。どんなにつまらない映画でも、それは結果であり、作っている人たちはみなつまらない映画を作ろうと思っているわけではなく、一所懸命だと思う。だから、つまらない映画のことはここでは言及しない。
 それとは別に、世の中にはくだらない映画がある。が、私はその手の作品がけっこう好きなのだ。なぜなら、くだらない映画は作っている人たちが真摯に前向きにくだらなさを追求しているからだ。ああ、くだらないと言われたいために。
 学生時代にTVで放送されたモンティ・パイソンに夢中になり、毎週、欠かさずに観ていた。馬鹿馬鹿しいギャグの数々は、相当にくだらなかったが、大好きだった。
 その劇場版、アーサー王と円卓の騎士による聖杯探求の物語を描いた『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』はとんでもなくくだらなかった。
 アーサー王が登場する場面、馬の蹄の音とともに丘を駆けのぼってくる騎士。が、全身が映ると馬はなく、体を揺らして跳び歩いているだけ。後ろで従僕がココナッツの殻を叩いて、パカパカと蹄の音を出している。一事が万事で、この手の幼稚なギャグが延々と続くのだ。
 塔に閉じ込められた乙女を救うため、大殺戮を繰り広げるランスロット卿。が、塔にいるのは乙女ではなく、やたらミュージカル風に歌いたがるゲイの王子。
 淫乱な美女たちに誘惑される寸前、騎士たちに救助され残念がるガラハッド卿。
 アーサー王伝説の解説をしている途中、騎士に斬り殺される歴史学者
 トロイの木馬風の巨大なウサギを敵の城に置きながら、だれも中に入るのを忘れていたり。あまりのくだらなさに爆笑にはならず。でも好きである。

 

モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル/Monty Python and the Holy Grail
1975 イギリス/公開1979
監督:テリー・ギリアムテリー・ジョーンズ
出演:ジョン・クリーズエリック・アイドル、グラハム・チャップマン、マイケル・ペリンテリー・ジョーンズテリー・ギリアム

大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第23回 狩りと獲物

 巻狩りの仕切りを任された、父の北条時政坂東彌十郎)のもとを、義時(小栗旬)が訪ねます。

「父上、私に隠していることはございませんか」

 と、外を見ながら義時は聞きます。

「何の話だ」

 と、時政は応じます。義時は声をひそめます。

「曽我の兄弟。梶原の平三殿が動いております」

「ありゃただの敵(かたき)討ちだ」

「やはり、ご存じないのですね。敵討ちというのは見せかけ。あの者たちは、鎌倉殿への謀反(むほん)をたくらんでおります」

「何だと」

「父上は、利用されたのです」

 巻き狩りに頼朝親子が出発しようとしていました。政子たちにあいさつします。

「万寿(まんじゅ)(金子大地)の初陣(ういじん)じゃ」と、頼朝(大泉洋)は言葉に力を込めます。「みずから獲物を討ち取り、皆々(みなみな)の前で、山の神に捧げる。万寿こそが、次なる鎌倉殿と知らしめるのだ」

 万寿は頼朝にうなずいて見せます。

 巻狩りとは、猪や鹿を仕留める、大規模な狩りのことです。何日もかけて行われる、大軍事演習でもあります。この日、坂東各地から、御家人が義朝のもとに集結しました。

 しかし万寿は思うように獲物を仕留められないのです。義時の息子の金剛(坂口健太郎)は見事な鹿を仕留めます。

 夜、皆が酒を酌み交わす中、比企能員佐藤二朗)が姪(めい)の比奈(堀田真由)を連れてやって来ます。頼朝の相手をさせます。ところが比奈は、一人、作業をする義時のもとにやって来るのです。比奈と義時は、狩りの下見に夜道に出ます。そこに猪が現れ、二人は逃げ出すのでした。

 翌日、弓をうまく扱えない万寿は、金剛にやってみるよう促します。金剛は見事、鳥を射落とします。 

 比企能員安達盛長(野添義弘)は、万寿のために仕掛けを施します。動かない、作り物の鹿を万寿に射させ、それを功績にさせようとします。仕掛けが成功すると、頼朝は叫びます。

「山の神もお認めになられた。万寿こそ我が跡継ぎにふさわしい」

 万寿は金剛と話します。万寿は仕掛けのことを気付いていました。

「私はいつか、弓の達人になってみせる。必ず自分の力で、鹿を仕留めてみせる。必ず」

 そう語る万寿に

「楽しみにしています」

 と、金剛は応じるのでした。

 事件が起こったのは、五月二十八日の夜のことでした。武装した曽我兄弟が動き始めます。

 そんなことを知らない頼朝は、比奈のもとに向かおうとしていました。なりません、と珍しく安達盛長が諫(いさ)めます。しかし頼朝は工藤祐経坪倉由幸)を身代わりに寝かせ、こっそりと出かけていくのでした。

 頼朝は比奈のもとにやって来ます。しかしそこには比奈と共に、義時もいたのです。頼朝は大声を出します。

「わしは征夷大将軍じゃ。側妻(そばめ)を持つのがそんなにいけないことか」

 義時は引きません

「あなたというお人が分かりません。比奈殿と私を結びつけようとされたのは、ご自身ではないですか」

「政子じゃ。あれが勝手にいいだしたこと。それにお前、比奈にはその気はないんだろう」

「そのようなことは申しておりません。良い方を、お引き合わせ下さったと思っております」

「あっそう。お前とおなごを取り合うのは、もうごめんじゃ。帰る」

 頼朝は立ち去ります。それを追おうとする義時を、比奈が引き止めます。

「お気持ち嬉しゅうございます」

「あれは方便」

 という義時を比奈は放しません。

「いいえ、違うと思います」

 義時は完全に頼朝を見失います。

 曾我兄弟は、北条から借りた兵と共に、頼朝の宿舎に向かおうとしていました。そこは畠山重忠中川大志)が警護をしています。曽我兄弟の一団と、畠山の一団が、激突します。曽我五郎(田中俊介)は乱戦を抜け出し、寝ている頼朝と思われる人物を斬りつけます。

 巻狩りを行う坂東武者たちの間に、頼朝が死んだ、との話が伝わります。時政は義時に

「世の中ひっくり返るぞ」

 と、いいます。

 しかしこんな中、万寿は落ち着いているのです。的確な命令を出し、跡取りとしての貫禄を示します。

 義時は寝間着を着た遺体を確認します。そこへ頼朝が現れるのです。

「これは、何事じゃ」

 義時は安堵のため息をつきます。

 混乱の中、襲撃の第一報が、鎌倉にもたらされます。比企能員は万寿のまで死んだと聞き、頼朝の弟とである蒲殿(源範頼)(迫田孝也)を鎌倉殿にしようと画策します。

 時政と義時の親子は話し合います。このまま曽我五郎を殺せば、頼朝が自分への不満の口封じをしたと噂が立つ。兵を貸した時政も罪に問われかねない。

 義時は頼朝に、謀反ではなかったと話します。

「鎌倉殿の身代わりとなった工藤殿は、曾我兄弟とは因縁深き間柄。かつて兄弟の父親を殺(あや)めたのが工藤殿」義時は頼朝に近づきます。「これは、敵討ちを装った謀反ではなく、謀反を装った敵討ちにございます」

 頼朝は納得します。

「確かに。わしの治めるこの坂東で、謀反など起こるはずもない」

 縛られた曽我五郎の前に、頼朝が姿を現します。梶原景時中村獅童)が語ります。父の敵討ちはまことにあっぱれであった。しかし巻狩りの場で、騒ぎを起こしたことは、許すことはできない。よって斬首とする。頼朝が五郎に声をかけます。

「曽我五郎。おぬしが兄弟の討ち入り、見事であった。まれなる美談として、末代までも語り継ごう」

 五郎は立ち去る頼朝に叫びます。

「違う。俺が狙ったのは、頼朝だ。祖父、伊東祐親を死なせたのも、坂東をおかしくしたのも、頼朝なんだ。聞いてくれ」

 五郎は連れ去られていきます。

 頼朝は鎌倉に戻ることにします。義時にいいます。

「時政は、曽我五郎の烏帽子親だと聞いた。此度(こたび)の一件、北条は関わりないのだな。信じて良いな」

 間を開けて義時は答えます。

「もちろんでございます」

「よかろう。小四郎。二度とわしの側を離れるな。わしのためでもあるが、お前のためでもある」

「かしこまりました」義時は原野に目を向けます。「やはり、鎌倉殿は天に守られております」

 頼朝は顔をしかめます。

「そうだろうか。確かに、此度(こたび)も命は助かった。だかこれまでとは違った。今までははっきりと、天の導きを感じた。声が聞こえた。だが昨日(きのう)は、何も聞こえなかった。たまたま助かっただけじゃ。次はもう無い。小四郎。わしがなすべき事は、もうこの世に残っていないのか」

 頼朝は低い声で笑うのでした。

 夜、義時は、比奈のもとを訪ねます。鎌倉へ帰ったら、自分の世話は無用だと言い放ちます。もう少し側(そば)にいさせて欲しいという比奈に、義時は話します。

「私は、あなたが思っているよりも、ずっと汚い。一族を守るためなら、手立てを選ばぬ男です。一緒にいても幸せにはなれぬ。そして何より、私は、死んだ妻のことを忘れることができない。申し訳ない」

 しかし比奈は義時を呼び止めるのです。

「私の方を向いてくれとはいいません。私が小四郎殿を見ていれば、それでいいのです」

 義時は困惑しながらも、比奈に振り返るのでした。

 しかし事はこれで終わりではありませんでした。大江広元栗原英雄)が頼朝に伝えます。蒲殿が、次の鎌倉殿になったかのような振る舞いだった。

「信じられん」と声を出す頼朝でしたが、次第に激昂してきます。「範頼め」

 

ZOOM講演会のお知らせ

「コロナ以降の出版市況 ITが編集者を変える」

日時:6月19日(日)午後3時〜

講師:永田勝久氏(小学館編集者、元徳間書店編集局長)

 

まさにコンテンポラリーなテーマ、これからの出版界、小説界の動向を知るためにも、ぜひみなさま、参加してください。
参加・不参加のメールを事務局・加藤までお送りください。

※会員以外の方で参加希望の方は当会までご連絡ください。
 よろしくお願い致します。

『映画に溺れて』第494回 ゲットスマート

第494回 ゲットスマート

平成二十年十月(2008)
新宿 新宿ピカデリー

 一九六〇年代はショーン・コネリー007の全盛期で、それにあやかったスパイものがたくさん作られ、TVでも『ナポレオン・ソロ』『スパイ大作戦』『それいけスマート』などが人気だった。中学生の私が、その中でも特に気に入っていたのがスパイ映画を茶化したコメディ『それ行けスマート』で、毎週楽しみだった。
 悪の組織と戦う合衆国の極秘スパイ組織。そのエージェントがドン・アダムズふんするマックス・スマート。優秀なのかどうか、とんでもない粗忽者。今でも覚えているのが、迫り来る敵をばんばん撃ち殺す凄腕。でもよく見たら、敵と思ったのが実は味方で、死体を前に平然ととぼけている場面など、かなり過激なジョークだった。
 一九八〇年代にアダムス主演の劇場版も作られており、衣類を消してしまうヌード爆弾というバカバカしい兵器が登場、共演が『エマニュエル夫人』のシルビア・クリステルだったとか。残念ながら未見である。
 そして二十一世紀、スティーブ・カレル主演で装いも新たに『ゲットスマート』が登場した。
 長い秘密の通路の先にある偽装電話ボックスなど、TVシリーズのギャグのセンスは、かなり残しているように思う。そして、コメディではあるが、アクション映画としての見せ場もいろいろと用意されている。
 極秘スパイ組織の裏方である情報処理係のスマートが肥満を克服し、第一線での活躍を希望するが、なかなか叶わない。悪の組織によってトップエージェントたちが次々と消され、ようやくスマートにもお鉢が回ってくる。
 相棒がアン・ハサウェイのセクシーな99号。チーフのアラン・アーキン、大統領のジェームズ・カーン、それに悪の組織のリーダーがテレンス・スタンプと配役も渋い。偽装の樹木の中に潜み続けるエージェントがビル・マーレイという遊びもあり。
 TVオリジナル版の脚本はメル・ブルックスバック・ヘンリーが担当していた。

ゲットスマート/Get Smart
2008 アメリカ/公開2008
監督:ピーター・シーガル
出演:スティーブ・カレル、アン・ハサウェイドウェイン・ジョンソンアラン・アーキンテレンス・スタンプジェームズ・カーンマシ・オカビル・マーレイ

 

大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第22回 義時の生きる道

 妻の八重の死を知り、義時(小栗旬)はつぶやきます。

「天罰だ」

 三浦義村山本耕史)がいいます。

「そんなふうに考えるな」

 夜、義時は、息子の金剛にいいます。

「父が、お前を育て上げてみせる」

 子どもたちが多く暮らす義時の館に、頼朝(大泉洋)がやって来ます。上洛が決まったことを知らせます。一緒に来てくれという頼朝に、義時は良い返事をしません。

「あの子たちを育てていくのが、八重への供養になると思いまして。それで手一杯でございます」

 しかし頼朝は最後にいうのです。

「これは命令じゃ」

 建久元年(1190)十一月九日。大軍を率いて上洛した頼朝は、後白河法皇西田敏行)の御所を訪ねます。法皇と頼朝は、二人きりで対面します。法皇はいいます。

「大軍を連れてきたものだなあ。見せつけておるのなら、大成功」

「ありがとうございます」

 と、頼朝は頭を下げます。

「傲(おご)った武士は皆、滅んだ。我らをなきものとするならば、この日の本はおさまらん。やれるものなら、やってみるが良い」

 頼朝は法皇を見すえます。

「新しい世のため、朝廷は欠かせません」

「新しい世」

「いくさのない世にござる」

 法皇は笑い出します。

「薄っぺらいことを申すのう。誰より業(ごう)が深いくせに」

「命からがら逃げ回るのは、もうまっぴら」

「我が身かわいさ」

「いくさがなくなり、喜ばぬ者などおりません。ただし、武士どもは別。あの者どもを、おとなしくさせねばなりません。ぜひとも、お力をお貸し願いたい。私が欲しいのは」

「朝廷の与える、誉(ほま)れ」

 その後、頼朝は、公家の頂点に立つ九条兼実田中直樹)と話します。頼朝は自分の娘を、帝(みかど)に嫁がせようとしていましたが、九条の娘が、すでに帝の妃となっていることを知らされます。

 坂東武者たちが酒を飲んでいます。和田義盛横田栄司)がいいます。

「せっかくの祝いだってのに、なぜ鎌倉殿は来ないんだ」

 大江広元栗原英雄)によれば、頼朝は歌会に出ているとのことでした。その席に工藤祐経坪倉由幸)も行っているのです。工藤は最近、頼朝に気に入られているようでした。  

 和田が大江にからみます。

「あんた、こういう所、珍しいね。俺たち田舎モンと飲んでも楽しくねえだろう」

 大江がいいます。

「私は、頭の固い都人(みやこびと)に見切りをつけて鎌倉に下ったのです。都落ちとあざ笑った奴らの、鼻を明かすことができ申した。坂東の勇者のおかげにござる」

 和田は声をあげます。

「気に入った」

 風に当たるために、宴の席を抜け出した義時に、畠山重忠中川大志)が近づいてきます。

「お耳に入れておきたいことが。今宵(こよい)、我らとは別に集まっている者たちがいます。鎌倉殿への不信がふくらんでいるようです。上総介殿の一件が、繰り返されなければ良いのですが」 

 別に宴をしていたのは、三浦義澄(佐藤B作)や岡崎義実(たかお鷹)など、年配の者たちでした。頼朝の弟である源範頼(蒲殿)(迫田孝也)の姿もあります。

「京に上るんだって、財がかかるんだ」

 と、三浦義澄がいいます。岡崎義実もいいます。

「それなのに一向に所領は増えん。どうすりゃいいんじゃ」

 千葉常胤(岡本信人)がいいます。

「鎌倉殿は法皇様に取り入るために、わしらを利用したのではないのか」

「とどのつまり、鎌倉殿と、身内の者だけがいい思いをする」岡崎は完全に酔っています。「そうじゃねえのか」

 範頼が落ち着いた声を出します。

「兄は、安寧(あんねい)な世をおつくりになりたいのだ。そのためには、大きな力を持たなければならないのだ。分かってくれ」

 京から皆が帰ってきました。政子(小池栄子)や実衣(宮澤エマ)らが話しています。

「兄上(義時)、いまだに引きずっているみたい。京から戻っても結局、御所に行かずじまいですって」

 と、実衣がいいます。政子がたずねます。

「家で何しているの」

「みなし子たちの世話に決まっているでしょう。それが結構、大変なことになっているみたいよ」

 とりあえず様子を見に行く、という政子に、実衣の夫である全成(新納慎也)がいいます。

「それはどうだろう。ここは放っといてあげませんか。小四郎殿はそうやって忙しくして、悲しみを紛らわせているんだと思うな。向こうから相談にやって来たら、力になってあげればいいんじゃないですか」

 そこへ北条時政坂東彌十郎)がやって来ます。時政は伊東祐親の孫である、曽我十郎(田辺和也)と曽我五郎(田中俊輔)を連れていました。二人は今、時政の家人になっています。五郎は時政が烏帽子親でした。時政は二人を御家人にしてもらおうと、頼朝に会わせようとしていました。

 時政たちが行った後、全成がいいます。

「難しいような気がするな」

御家人にはなれないってこと」

 と、政子が聞きます。

「ええ。近頃、鎌倉殿は、京ゆかりの者ばかりを好んで側(そば)に置かれていますから。あの兄弟、今さら取り立ててもらえるとは思えないな」

 頼朝との対面からしばらくして、後白河法皇が倒れました。法皇は愛妾の丹後局鈴木京香)にいいます。

「守り抜いた。わしは守り抜いたぞ」

 法皇後鳥羽天皇を呼びます。

「守り抜かれよ」

 との言葉を残します。乱世を、かき乱すだけかき乱し、日本一の王天狗といわれた、後白河法皇が死にました。

 建久三年(1192)七月。法皇の死を待っていたかのように、頼朝は、みずからを大将軍とするよう、朝廷に要求します。数ある将軍職の中で、朝廷が任じたのは。

 政子は渡り廊下で、頼朝がやってくるのを待っていました。官位束帯姿の頼朝に政子は、

征夷大将軍。おめでとうございます」

 と、呼びかけるのです。

「たいしたことではない、御家人どもを従わせる、肩書きに過ぎん」といかめしい表情をつくっていた頼朝でしたが、こらえきれなくなり叫びます。「征夷大将軍じゃあ」

 と、はしゃぎます。

「おめでとうございます」

 と、政子も応じます。

「わしは日の本の武士の頂(いただ)き、お前はその妻じゃ」

「恐れ多いことにございます」

「政子、呼んでくれ」

征夷大将軍

 二人は笑い転げるのでした。

 八月、政子は第四子を出産します。千幡(せんまん)と名づけられたこの子は、後の源実朝です。乳母(めのと)に選ばれたのは、全成と実衣の夫婦でした。

 万寿の乳母になっていた比企能員佐藤二朗)夫婦はこれに危機感を覚えます。北条が力をつけるのではと怖れるのです。そして思いつきます。姪の比奈(ひな)(堀田真由)を頼朝の側室に差し出すことにします。

 比企能員は、比奈を頼朝の前に連れてきます。頼朝もまんざらではありません。しかし比奈と二人で双六をしているところに、政子が現れるのです。頼朝は苦し紛れか、義時の嫁として見定めていたのだと政子に述べます。

 そういうわけで比奈は義時の館にやってくるのです。

「私は、後妻をもらうつもりはない」と、義時はあっさりといってのけます。「亡き妻の思いの詰まったこの館で、息子と二人で生きていく。申し訳ない」

 建久四年(1193)五月。曽我十郎と五郎が、工藤祐経に敵討(かたきう)ちをしたいと時政に話します。

「あっぱれな心がけじゃ」

 と、時政はほめます。時政の妻のりく(宮沢りえ)もいいます。

「工藤殿は鎌倉殿のお覚えめでたい方ですよ。でも親の敵(かたき)となれば、話は別。ぜひ、お討ちなさいませ」

「烏帽子親として、力になれることは何でもやってやる」時政は請け負います。「遠慮なく申せ」

 万寿のお披露目の場として、巻き狩りが行われることになります。場所は富士の裾野(すその)と定められます。仕切りは時政が行います。義時にも声をかけることにします。

 岡崎義実が、比企能員に曽我の兄弟を引き合わせます。敵討ちの件をなぜ自分に話すのかとの疑問を比企が口にすると、岡崎が答えます。

「実はこれには裏があってな」

 曽我の兄弟がしゃべり始めます。狙いは工藤だけではない。混乱に乗じて、頼朝を襲う。実は頼朝も曾我兄弟の敵(かたき)に当たるのです。五郎が立ち上がります。

「許せぬことはまだある。何が征夷大将軍だ。勇ましいのは名ばかり。もはやいくさは起こらん。文官ばかりが出世する。こんな世は間違っている」

 岡崎がいいます。

「比企よ。こいつらのいうとおりだ。新しい世をつくるため、我らは戦ってきた。ところが、平家がのさばっていたころと、なにも変らねえじゃねえか」

 五郎が再びしゃべり始めます。

「頼朝に近い者だけが得をする。あまりに理不尽」

「力になってくれ」

 と、岡崎が頼みます。お前らだけで何ができる、という比企に、二十人ほどの手の者をそろえたという十郎。北条の兵を借りる手はずになっている。北条の名を聞いて、比企の表情が変ります。

「しかし時政がそのようなたくらみに乗るわけが」

 という比企を岡崎がさえぎります。

「そこが面白いところよ。時政は、祐経への敵討ちのことしか知らねえんだ。まさか北条の兵が、そんなことに使われることになるとは」岡崎は笑い声を上げます。「思ってもいねえって寸法さ」

 夜、比企は妻の道(堀内敬子)に語ります。

「わしの読みでは、たくらみは十中八九失敗する。関わった者たちは間違いなく処罰される」比企は腰を下ろします。「これで北条は終わりじゃ」

 道は身を乗り出します。

「でも、もし、うまくいったら」

「鎌倉殿がおられなくても、いや、おられない方が、我らには都合が良い。つまり万寿様はもう十分、成長なされたということだ」

「では、どちらに転んでも」

「面白いことになってきた」

 二人は笑い声を上げるのでした。

 書庫で作業をする義時は、梶原景時中村獅童)に呼ばれます。

「お呼び立てして申し訳ない。御家人たちに、再び謀反の気配がござる」

 義時はため息をつきます。

「私ではなく、和田殿にお話しなさるべきでしょう。侍所別当はあのお方です」

「わしがそなたの耳に入れたのには理由がある。怪しい動きをしておる者の名は、曽我十郎、五郎。心当たりがあろう。曽我五郎の烏帽子親は、そなたのお父上」

 義時は梶原の顔を見つめます。

「父が関わっていると、申されるのですか」