日本歴史時代作家協会 公式ブログ

歴史時代小説を書く作家、時代物イラストレーター、時代物記事を書くライター、研究者などが集う会です。Welcome to Japan Historical Writers' Association! Don't hesitate to contact us!

書評『鬼女』

書名『鬼女』著者 鳴海 風発売 早川書房発行日 2022年9月25日定価 本体2900円(税別) 鬼女 作者:鳴海 風 早川書房 Amazon 大岡昇平に「母成(ぼなり)峠の思い出」という戊辰戦争の本質を突いた短いが味わい深いエッセイ(『太陽』昭和52年6月号所収)がある…

『映画に溺れて』第546回 狼たちの午後

第546回 狼たちの午後 昭和五十五年七月(1980)大塚 大塚名画座 間抜けな銀行強盗を描いた実録もの。監督が『十二人の怒れる男』のシドニー・ルメット、主演が『ゴッドファーザー』のアル・パチーノ。一九七〇年代の半ばに作られたので、アメリカン・ニ…

『映画に溺れて』第545回 暴力脱獄

第545回 暴力脱獄 令和五年一月(2023)立川 キノシネマ立川 私がポール・ニューマンを初めて観たのは一九七〇年代、『明日に向って撃て』が一番最初で、その次が『スティング』だった。どちらの役柄も美男でタフでダンディで、しかもユーモアがあり、ポ…

『映画に溺れて』第544回 ローマの休日

第544回 ローマの休日 昭和四十八年九月(1973)京都 祇園 祇園会館 オードリー・ヘプバーンといえば、長身で清純派、世界的な映画スターとして有名だが、一九二九年、ベルギー生まれでオランダ育ちである。父は放浪の英国人、母はオランダ貴族、英国籍…

『映画に溺れて』第543回 或る夜の出来事

第543回 或る夜の出来事 昭和五十六年十一月(1981)新宿 新宿ビレッジ2 私が一番大好きなクリスマス映画といえば、フランク・キャプラ監督の『素晴らしき哉、人生!』である。キャプラ監督はコメディの名匠として一九二〇年代から六〇年代まで数多くの…

『映画に溺れて』第542回 草原の輝き

第542回 草原の輝き 昭和四十七年十月(1972)大阪 難波 なんばロキシー アメリカン・ニューシネマ『俺たちに明日はない』とほぼ同じ大恐慌と禁酒法の時代を描きながら、犯罪ともミステリとも無縁の恋愛映画が『草原の輝き』である。主演はナタリー・ウ…

『映画に溺れて』第541回 俺たちに明日はない

第541回 俺たちに明日はない 昭和四十八年十二月(1973)大阪 戎橋 戎橋劇場 アメリカの禁酒法時代は大恐慌とほぼ重なるが、実在した強盗一味を題材にしたのが『俺たちに明日はない』である。 一九六〇年代末に次々と作られたアメリカン・ニューシネマの…

『映画に溺れて』第540回 レディ・イヴ

第540回 レディ・イヴ 平成六年五月(1994)銀座 テアトル西友 大恐慌と禁酒法時代の後、ナチスによる軍事侵略が始まり、第二次大戦に発展する。ちょうどその頃のアメリカ映画は日本ではなかなか公開されなかったが、コメディの大家プレストン・スタージ…

『映画に溺れて』第539回 怪物團 フリークス

第539回 怪物團 フリークス 昭和五十五年九月(1980)大阪 靭公園 科学技術センターホール 『ナイトメア・アリー』を観ていて、真っ先に連想したのがカーニバルの見世物を題材にしたトッド・ブラウニングの異色ホラー映画『フリークス』である。 作られ…

『映画に溺れて』第538回 ナイトメア・アリー

第538回 ナイトメア・アリー 令和四年三月(2022)立川 TOHOシネマズ立川立飛 ナチスがポーランドに侵攻した一九三九年、アメリカでは大恐慌の影響で失業者が溢れ、禁酒法のせいで酒にも不自由していた。 無職の浮浪者スタンはたまたまカーニバルに…

大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 最終回 報いの時

長沼宗政(清水伸)が三浦義村(山本耕史)に話しています。 「みんなやる気になっている。勝つかもしれないな」 三浦がいいます。 「分からんぞ。今は盛り上がっているが、本気で上皇様と、戦うつもりがあるのか」 二人は侍たちが話すのを聞きます。守りを固め…

『映画に溺れて』第537回 フリントストーン モダン石器時代

第537回 フリントストーン モダン石器時代 平成七年七月(1995)池袋 文芸坐 ラクエル・ウェルチ主演の『恐竜100万年』は一九六〇年代半ば、映画館で見逃し、一九七〇年にTV放送でようやく観られた。その後、同じ英国ハマーフィルムの『恐竜時代』…

『映画に溺れて』第536回 ロボコップ

第536回 ロボコップ 昭和六十三年八月(1988)三鷹 三鷹オスカー 一九七〇年代以降、アメリカでの凶悪犯罪は増加をたどる。 近未来、犯罪増加にともない、警察の民営化が進められる。この映画が公開された八〇年代後半、日本でも国鉄や郵便局が民営化さ…

大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第47回 ある朝敵、ある演説

廊下を渡る北条義時(よしとき)(小栗旬)に、御家人の一人である長沼宗政(むねまさ)(清水伸)が話しかけてきます。最近火事が多い、尼将軍の名前で炊き出しをしたらどうか。義時は怒鳴ります。 「そんなことまで私を頼るな」 それを見ていた三浦義村がいいます…

『映画に溺れて』第535回 A.I.

第535回 A.I. 平成十三年七月(2001)新宿歌舞伎町 ミラノ座 『シックス・センス』で脚光を浴びた子役のハーレイ・ジョエル・オスモントが主演の未来SF。人を愛し、人間になりたいと願うロボットの物語。 難病で不治の息子を凍結入院させている夫婦…

『映画に溺れて』第534回 アイ、ロボット

第534回 アイ、ロボット 平成十六年十月(2004)渋谷 渋東シネタワー2 アイザック・アシモフの『われはロボット』を原作としたSFミステリーであり、ロボット三原則が謎解きの手がかりとなる。ロボット三原則とは、簡単に言えば、一、ロボットは人間に…

『映画に溺れて』第533回 ロボジー

第533回 ロボジー 平成二十三年十二月(2011)日比谷 東宝試写室 かつてのSFの世界に頻繁に登場するのがロボットで、現実には工業用ロボットが実現化しているが、『鉄腕アトム』や『AI』のような人間の形をして二本足で歩くロボットは二十一世紀にな…

大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第46回 将軍になった女

義時(よしとき)(小栗旬)の妹でもある実衣(みい)(宮澤エマ)は、息子の阿野時元(ときもと)(森優作)を、次の鎌倉殿にしようと画策します。戯言(ざれごと)と称(しょう)し、まずは三善康信(小林隆)に相談します。三善は、朝廷が任じたという証(あかし)である「宣…

書評『尚、赫々たれ 立花宗茂残照』

書名『尚、赫々たれ 立花宗茂残照』著者 羽鳥好之発売 早川書房発行年月日 2022年10月25日定価 ¥2000E 尚、赫々【かくかく】たれ 立花宗茂残照 作者:羽鳥 好之 早川書房 Amazon 関ヶ原の合戦の後日談として、徳川家康が「立花宗茂が関ヶ原に参加していれば…

『映画に溺れて』第532回 下妻物語

第532回 下妻物語 平成十六年十二月(2004)飯田橋 ギンレイホール 嶽本野ばらの原作小説が面白く、中島哲也監督の映画がさらに面白かったのが『下妻物語』である。 茨城県下妻に住む十七歳の少女桃子。三時間かけて東京の代官山ベイビーにひらひらのお…

『映画に溺れて』第531回 アヒルと鴨のコインロッカー

第531回 アヒルと鴨のコインロッカー 平成二十三年一月(2011)恵比寿 恵比寿ガーデンシネマ 非常によくできた小説をわくわくしながら読み終わり、その後、映画化作品を観て、がっかりすることがある。小説はあんなに面白かったのに、どうしてこんなつま…

大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第45回 八幡宮の階段

健保(けんぽう)七年一月二十七日。 夕方から降り続けた雪は、強さを増していました。 警護の詰め所にいる三浦義村(山本耕史)の肩を、北条義時(小栗旬)が叩きます。三浦は驚きます。 「どうしてここにいる」 「外されてしまった」 と、義時は答えます。源仲章…

『映画に溺れて』第530回 未来惑星ザルドス

第530回 未来惑星ザルドス 昭和四十九年十月(1974)大阪 梅田 OS劇場 『未来惑星ザルドス』を観たのは学生時代、大阪の梅田にあったOS劇場で、ここはシネラマを売り物にした巨大スクリーンの大劇場だった。 いきなり空を飛ぶ荒々しい石の顔。未来を…

大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第44回 審判の日

髪の伸びた公暁(こうぎょう)(寛一郎)がいいます。 「明日(みょうにち)、実朝(さねとも)を討つ。右大臣の拝賀式(はいがしき)。実朝が八幡宮で拝礼(はいれい)を終えた帰りを襲う」 三浦義村(山本耕史)がいいます。 「鎌倉殿の首を討てば謀反人。御家人たちの心…

『映画に溺れて』第529回 脱出

第529回 脱出 昭和四十七年十月(1972)大阪 難波 なんば大劇場 ジョン・ブアマンの初体験は十代の終わりに観た『脱出』で、最初から最後まで緊張感の絶えない映画だった。 ダム建設が始まり、水没予定の山奥の渓流に都会から四人の男がやってくる。こん…

書評『家康が最も恐れた男たち』

書名『家康が最も恐れた男たち』著者名 吉川永青発売 集英社発行年月日 2022年10月25日定価 本体840円(税別) 家康が最も恐れた男たち (集英社文庫) 作者:吉川 永青 集英社 Amazon 家康には二つの像がある。狸親父のイメージの如く忍従の長い年…

大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第43回 資格と死角

京から、頼家(よりいえ)の残した子、公暁(こうぎょう)(寛一郎)が鎌倉に戻ってきています。三浦義村(山本耕史)が公暁にいいます。 「明日は御所(ごしょ)におもむいて、鎌倉殿(かまくらどの)と尼御台(あまみだい)にご挨拶を」 「例の件はどうなっておる」 と、…

『映画に溺れて』第528回 アメリカの夜

第528回 アメリカの夜 昭和四十九年十二月(1974)大阪 北新地 梅田東映ホール フランス版の『キャメラを止めるな!』を見ていて、連想したのがフランソワ・トリュフォー監督の『アメリカの夜』である。特殊レンズを使って昼間に夜の場面を撮影する手法…

大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第42回 夢のゆくえ

鎌倉殿である源実朝(みなもとのさねとも)(柿澤勇人)は、北条義時(よしとき)(小栗旬)の息子である北条泰樹(やすとき)(坂口健太郎)に宣言します。 「父上がつくられた、この鎌倉を、源氏の手に取り戻す」 泰時が確かめます。 「北条から取り戻すということです…

書評『葵のしずく』

書名『葵のしずく』著者 奥山景布子発売 文藝春秋発行日 2022年10月10日定価 本体1700円(税別) 葵のしずく 作者:奥山 景布子 文藝春秋 Amazon 幕末維新に翻弄された悲運の美濃高須(みのたかす)松平家(まつだいらけ)四兄弟を支えた女性たちが主人公の本書は…