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大河ドラマウォッチ「いだてん 東京オリムピック噺」 第8回 敵は幾万

 今週も軽くツッコんでいこうと思います。
 自費でストックホルムに行かなくてはならなくなった四三(中村勘九郎)のもとへ、兄の実次(中村獅童)が熊本からやってきます。実次はストックホルムへの旅費、千八百円を届けに来たのでした。
 寄宿舎の食堂で話し合う四三と実次。四三の友人たちはその光景を、兄が弟を連れ戻しに来たのだと誤解していました。四三は実次の取り出した金を見て言います。
「まさか、田んぼば売ってしもうたつね」
 場面は一ヶ月前の熊本にさかのぼります。実次はスヤ(綾瀬はるか)に連れられて庄屋の池辺重行(髙橋 洋)のもとを訪ねていました。四三の旅費を借りるためです。そんな立派な大会なら、国が金を出すでしょ、ともっともなことを言う重行。オリンピックは、アマチュアの競技会で、と苦しい言い訳をする実次。アマチュアとは、本職ではないという意味だ、と説明するスヤ。
「本職じゃなかったら、遊びじゃなかね」
 と、鋭いところをつく重行。金を出すことはできないという流れになります。弟のためなら田畑を売ってもいいという実次。
「四三は、それだけの価値のある男たい」
 と、見得を切ります。そこへ重行の母、幾重(大竹しのぶ)が出てきます。そこまでしても行かなければならないのですか、と実次に聞きます。実次は幾重に深く頭を下げたあと、言います。自分も走ったその先に、何があるのかは知らん。何もないかもしれない。しかし
「そん景色ば、見る資格ば、四三は持っとる。兄として見せてやりたかです」
 と、実次は再び幾重に深く頭を下げるのでした。幾重は実次の田んぼを千八百円で買うと言い出します。そしてそれをただで貸してくれるというのです。つまり実次に千八百円を与えるということでした。そして幾重は釘を刺します。実次を信用したわけではない。スヤの頼みとあらば、力にならなくてはならない。
 場面は寄宿舎の食堂に戻ります。兄に感謝し、頭を下げる四三。そこへ四三の友人たちが飛び込んできます。寄付金が千五百円に達したので、持ってきたと言います。全国の師範学校から集まったのです。結局、実次は三百円だけを払うことになります。こうして四三のストックホルムへの費用は確保されたのでした。
 寄宿舎の一室で、教授の永井と、助教授の可児はストックホルムに連れて行ってもらえない愚痴を言い合っていました。そこへ実次がやってきてあいさつをします。実次を歓迎する二人。永井は実次に言います。
「例えば四年後、八年後、百年後。何千何万人のオリンピック選手が日本から出ても、誰がなんと言おうと第一号は金栗四三。これだけは未来永劫動かんのですよ」
 次の日、四三たちは実次を東京見物に連れ出しました。凌雲閣にのぼります。そこから目にする富士山に、四三はスヤのことを思い出し、思わず言います。
「兄上、俺は、生きて帰れっとだろか」
 四三はこぼします。ただ丈夫になるために走っていたのに。丈夫になったところでやめておけば良かった。どういうわけで異国に。実次は四三を怒鳴りつけます。
「今さら弱音を吐くな四三。お前行かんかったら後が続かん。お前がそぎゃん弱虫やったら、百年後のいだてんも弱虫ばい」
 四三は納得してうなずきます。
 通りを歩きながら四三は金を工面してくれた池辺の家について実次にたずねます。スヤの嫁ぎ先だと言うことを聞くと、
「やっぱり」
 と、複雑な表情になります。
 実次は市電に乗り、四三と別れます。動き出す市電から実次は四三に叫びます。
「勝とうなどと思うな。なんも考えんで行って、走ったらよか」
 その言葉に四三は笑顔を取り戻すのでした。
 四三は足袋(たび)作りの播磨屋をたずねていました。オリンピック仕様の足袋を受け取ります。播摩谷の息子が、包みを四三に渡します。その中身は日の丸のついた体操着でした。体操着のことまで今まで誰も気が回っていませんでした。喜ぶ四三。
 四三の壮行会が寄宿舎で行われていました。ちょうどその頃、スヤは池辺の家に嫁入りしていたのでした。
 一方、短距離走でオリンピックに出場する三島弥彦。大学の落第を覚悟でオリンピックにのぞみます。弥彦の母、和歌子は、女中のシマ(杉咲 花)に
「弥彦は三島家の恥じゃ」
 と言い切ります。シマは気をもみ、洋行のことを和歌子にきちんと話した方が良いと弥彦に言います。弥彦は
「話しても話さなくても、結果は同じさ」
 とシマに告げます。
 ストックホルムへ出発する日となりました。新橋の駅は見送りの人でごった返していました。四三と弥彦は汽車に乗り込みます。人々は「敵は幾万」の唄などを歌い、オリンピックに出発する一行を送り出します。
 汽車が出発しようとするその時、三島家の一行が到着するのです。弥彦の兄が叫びます。母上にちゃんとあいさつせんか。弥彦はたどり着いた母、和歌子の手をとります。
「母上、弥彦は精一杯戦ってきます」
「当たり前じゃ」という母。「お前さは、三島家の誇りなんじゃから」
 そして弥彦は母から、日の丸の入った体操着を受け取るのでした。
 汽車の中でインタビューを受ける弥彦。いつも通りのキザな返答です。四三の番になります。記者の質問にただうなずく四三。しかしそれが後になってそのまま記事になってしまうのです。
「日本運動界の全責任を負って出場するからには、倒れて後やむの大決心をもってのぞみ、決して国体を辱めざることを期すという心境です」