日本歴史時代作家協会 公式ブログ

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大河ドラマウォッチ「いだてん 東京オリムピック噺」 第11回 百年の孤独

 ストックホルムには、金栗四三中村勘九郎)らの選手団に、選手団団長の嘉納治五郎役所広司)が合流していました。
 プラカードの表記について、監督の大森兵蔵竹野内豊)は当然のように「Japan」と書くべきだと言います。しかし四三は漢字で「日本」と書くことを主張するのです。四三は言います。
「それは英国人が勝手につけた呼び名ばい。日本人が日本のことば、なしてそぎゃんへんてこな名前で呼ばにゃいかんとですか」
 四三はJapanでは西洋人と対等に戦えないと語ります。
 そしてついにオリンピック開会式の日を迎えます。28ヶ国、3000人の選手が集まりました。スタンドには二万人の観客。入場行進が行われます。短距離の三島弥彦生田斗真)が日の丸をもち、マラソンの四三がプラカードを持ちます。日本の選手はたった二人です。プラカードには「NIPPON」と記されていました。観客席からニッポン、ニッポンの声が起こります。四三は生きた心地がしませんでした。
 百メートル走の予選が始まりました。弥彦は控え室から動けません。スタートの合図の、ピストルの音を聞いていました。
 場面は日本の三島家に移ります。三週間前に弥彦が投函した絵はがきが届いたのです。
「俺はもう何もかも嫌になった」
 と手紙は書き始められていました。西洋人の脅威におびえるばかりで、とても走る気になれぬ。これが最後の便りになるかもしれません。短い人生でしたが、弥彦は……。母の和歌子は手紙を取りあげます。
 場面はストックホルム、弥彦のいる控え室に戻ります。監督の大森が弥彦に話します。
「短距離はタイムを競い合う競技だ。つまり敵はタイムのみ。一緒に走る選手のことは、ライバルではなく、タイムという同じ敵に立ち向かう同志と思いたまえ」
 弥彦は気が楽になります。
 日本の三島家では、手紙を取りあげた母の和歌子が笑い声を上げていました。
「心配せんでよか。弥彦は勝ちます。薩摩隼人の底力、見せてやります。そう書いてあるじゃろが」そして叫びます。「弥彦は必ず勝つ」
 控え室の弥彦。目が輝きを取り戻します。
「よし」
 と気合いを入れて立ち上がります。
 本当は手紙にはこう書いてありました。
「弥彦は三島家の誇りのために命を賭します」
 弥彦を観客席から見る四三は、体操着の日の丸を握りしめて祈ります。どうか、我が友に勝利を。
 合図のピストルが鳴りひびきます。トラックを走る弥彦。ゴールにたどり着きます。こわばる四三の顔。弥彦は最下位でした。
 大森監督が弥彦に近づきます。ストップウォッチを見せます。弥彦はなんと笑顔を見せるのです。大森と抱き合う弥彦。
 控え室に戻った弥彦に、四三と嘉納は会いに行きます。弥彦にねぎらいの言葉をかける嘉納。弥彦は笑顔で嘉納にストップウォッチを見せます。
「負けはしましたが、自分の最高記録を出したんだから、成功だと思っています」
 弥彦は四三とも抱き合います。そして笑顔で言うのです。
「やはり日本人には、短距離は無理なようだ」弥彦は四三の肩をたたきます。「君にかかっている。頼んだよ」
 あっけにとられる四三。
 この日を境に大森監督の病状は悪化します。弥彦の200メートル予選が行われますが、結果は惨敗。
 場面は東京の浅草に移ります。師匠の橘屋円喬と共にいる美濃部孝蔵(後の古今亭志ん生)。自分と同じ名前の噺家が出演表に載っていると師匠に言います。
「それ、君だよ」
 とあっさり言う円喬。あわてる孝蔵。まだ小話のひとつもうかがってねえですし、と言う孝蔵に
「できるよ」
 と円喬は言いきります。君には何かあるから、とだけ告げます。
 孝蔵は気ばかりあせり、屋台でへべれけになるまで飲み明かします。
 ストックホルムの四三はというと、マラソンの三日前、押し花を作っていました。四三は不安で押しつぶされそうになっていたのでした。弥彦の部屋をたずねます。不安を打ち明けるうちに、四三は弥彦に当たりさえします。
「そのモヤモヤは君、プレッシャーだよ」
 弥彦は諭します。西洋人もこの気持ちを持っていると知り、四三は気が楽になります。
 弥彦の最後のレース。四百メートルが行われます。病気の大森監督に代わって、四三がコーチ役を務めます。さわやかな笑顔でレースに臨む弥彦。四百メートルの予選は、五人中三人が棄権していました。走るまでもなく弥彦の予選通過は決まっていす。しかしレースは行われました。当初はリードしていたものの、次第に差を詰められ、ついに抜かれる弥彦。四三の台詞がよみがえります。
「我々の一歩は、日本人の一歩ばい」
 弥彦はゴールに着くやいなや、倒れ込みます。精も根も使い果たした弥彦。ここの時点で棄権することを嘉納に宣言します。
「日本人に短距離は無理です。百年かかっても無理です」
 と、嘉納に言う弥彦。
「悔いはないのか」
 と弥彦に訪ねる嘉納。
「はい」
 と弥彦はしっかりと返事をします。
 お疲れ様、と弥彦を抱きしめる四三。
 そしてマラソン競技当日の朝を迎えます。