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『映画に溺れて』第21回 グリーンブック

第21回 グリーンブック

平成三十一年一月(2019)
青山 ギャガ試写室

 

 人種差別という社会的な題材を扱いながら、物語はコメディ調。上品で知的で教養溢れる黒人と、がさつですぐに暴力をふるいたがる白人、このふたりの取り合わせが漫才のように展開する。
 ドクター・シャーリーは天才的なピアニストだった。三つの博士号を有し、カーネギーホール上階の贅沢な部屋に美術工芸品に囲まれて暮らしている。ホワイトハウスでは大統領の前で何度も演奏し、上流の人たちとも交流がある。その彼がアメリカ南部への演奏旅行を計画する。
 問題は彼が黒人であること。時代は一九六二年。南部の州では公然と合法的に人種差別が行われている。
 一方、トニー・ヴァレロンガはブロンクス生まれのイタリア系。度胸も腕力もあり、ナイトクラブの用心棒をしていて、裏世界とも交流がある。強面だが愛妻家で、家庭ではよき父親でもある。店が長期改装休業のため失業となり、たまたま縁があって、演奏旅行に出るドクター・シャーリーの運転手兼世話係に雇われる。
 出発前にトニーがレコード会社の担当者から手渡されるのがグリーンブック。南部に旅する黒人のためのガイドブックで、黒人が利用できるホテルやレストランが掲載されている。白人専用の店に黒人が知らずに入ったら、やんわり断られるのはいいほうで、下手するとリンチにあうからだ。黒人専用の安宿にはcoloredの表示。
 著名なピアニストとして豪邸に招かれ演奏するシャーリー。だが、その家のトイレが使えない。庭の隅の黒人専用を示される。
 すぐにかっとなって相手を殴りたがるトニーにシャーリーが言う。暴力は敗北であり、なにも解決しない。勝利を得るには品位が大切なのだと。
 そして、この映画は心温まるクリスマスストーリーでもあるのだ。何度でも観たい心に残る名作である。

 

グリーンブック/Green Book
2018 アメリカ/公開2019
監督:ピーター・ファレリー
出演:ヴィゴ・モーテンセンマハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリニ