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『映画に溺れて』第29回 幕末太陽伝

第29回 幕末太陽伝

昭和四十八年八月(1973)
大阪 堂島 毎日ホール

 

 山田洋次監督の『運が良けりゃ』は二本立てで観たのだが、もう一本が川島雄三監督の『幕末太陽伝』であったのだ。なんて贅沢で素敵な組み合わせだったろう。
 当時、講談社文庫から興津要編『古典落語』が刊行され、私は落語に大変興味を持ったころで、この二本の映画にはびっくりした。どちらも古典落語の世界を映画にしている。それも、材料を相当に上手に料理して。
『運が良けりゃ』が長屋の住人を主人公にそのまま落語を絵にしているのに比べ、『幕末太陽伝』は落語の世界と幕末の歴史が絡むという、かなり屈折した作り込みがなされている。
 時代は幕末。落語の『居残り佐平次』のストーリーが展開し、佐平次を演じるのがフランキー堺。品川の宿場に逗留する。佐平次は一晩、友人たちとどんちゃん騒ぎをして、友人を先に帰し、自分ひとり残って、さて勘定となると、一文無しで払えず、居残りとなる。これに様々な廓噺『品川心中』『三枚起請』『お見立て』などが盛り込まれているのだ。
 そして、この品川の宿場に逗留する若い武士たち。これが高杉晋作をはじめとする長洲出身の下級武士。落語世界の住人と実在の勤皇の志士たちが品川の娼館で交差するという趣向。
 タイトルの太陽伝とは、当時、石原慎太郎の『太陽の季節』のヒットから生まれた太陽族という不良青年たち。これを幕末の勤皇の志士と重ねているわけで、だから高杉役は石原裕次郎が演じる。
 他に、売れっ子女郎が南田洋子、落ち目の女郎が左幸子、品川心中の貸本屋の金公が小沢昭一、女郎屋の主人が金子信雄、志士久坂玄瑞小林旭、若衆が岡田真澄、やりて婆が菅井きん、豪華キャストである。

 

幕末太陽伝
1957
監督:川島雄三
出演:フランキー堺左幸子南田洋子石原裕次郎芦川いづみ金子信雄