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『映画に溺れて』第61回 冷飯とおさんとちゃん

第61回 冷飯とおさんとちゃん

令和元年五月(2019)
阿佐ヶ谷 ラピュタ阿佐ヶ谷

 

 山本周五郎原作による短編『冷飯』『おさん』『ちゃん』にそれぞれ中村錦之助が主演したオムニバスである。
『冷飯』さる藩の城下に住む若侍、柴山大四郎は明るくおおらかな性格で古本を集めるのが趣味。本屋の行き帰り、路上で毎日同じ刻限にすれ違う武家娘を見初め、相手もまんざらでない様子。だが、四男坊の部屋住みの身分で、嫁を迎えるわけにはいかない。ひょんなことで藩の重職に気に入られ、婿に望まれるのだが……。
『おさん』おさんと所帯を持った大工の参太。女房はいい女だが、夜の営みの最中に乱れて他の男の名を口にする。それがために参太はおさんを捨て、上方に修業に出た。おさんが次々と男を替えているのを手紙で知り、江戸に戻っておさんを探すのだが……。
『ちゃん』重吉は腕のいい火鉢職人だが、世の中は高級な火鉢よりも安価なものを求めるので、仕事は先細り。裏長屋で女房と四人の子供と貧乏暮らし。苦しいとつい酒に溺れて、酔って家に帰る。居酒屋のおかみはそんな重吉に惚れているようだが……。
 気のいい若侍の大四郎、陰気な大工の参太、気が小さくていつも酔っぱらっている重吉。この三人を錦之助が演じ分けるのが見ものである。私は特に爽やかでユーモラスな『冷飯』の錦之助が大好きだ。

 大四郎に見初められる武家娘の入江若葉、参太の女房おさんの三田佳子、参太が箱根で泊まる宿屋の女中の新珠三千代、重吉に惚れる居酒屋のおかみの渡辺美佐子、みな美しく、脇役も小沢昭一千秋実大坂志郎三木のり平など味わい深い。
 三話ともにチャンバラシーンはないが、配役はもとより、セット、小道具、衣裳など、見事なまでに贅沢ないい時代の作品である。が、この頃から東映は時代劇より任侠映画に移行していく。錦之助は晩年、萬屋錦之介と名を変えて、重々しい役しかやらなくなったが、私は喜劇を演じる軽快で剽軽な錦之助が好きなのだ。

 

冷飯とおさんとちゃん
1965
監督:田坂具隆
出演:中村錦之助木暮実千代小沢昭一入江若葉千秋実河原崎長一郎三田佳子新珠三千代大坂志郎、森光子、渡辺美佐子北村和夫三木のり平