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『映画に溺れて』第64回 江戸っ子繁昌記

第64回 江戸っ子繁昌記

令和元年五月(2019)
阿佐ヶ谷 ラピュタ阿佐ヶ谷

 

 落語の『芝浜』と怪談の『番町皿屋敷』を組み合わせ、中村錦之助が魚屋勝五郎と旗本青山播磨の二役。それだけでわくわくし、観たくなる。
 勝五郎の妹のお菊が青山播磨に見初められて、お屋敷で妾奉公。ところがある夜、勝五郎は妹が無残にも手討ちになる夢を見て、うなされ飛び起きる。
 酒好きで怠け者の勝五郎が早起きしたので、女房は喜んで、今日こそ魚河岸へ行くよう催促する。が、外は暗く、魚河岸へ着いても店はどこも閉まっている。女房が時の鐘を間違えたため、早く家を出過ぎたのだ。酔い覚ましに海の水で顔を洗っていると、足に引っかかったのが革財布、中には大金が。と、落語のままの芝浜が展開。
 勝五郎は喜んで長屋の連中と飲んで騒いで、とうとう喧嘩までして、酔い潰れる。で、女房に財布を拾ったのは夢で、飲んで騒いだのは本当だと言われ、改心して酒を断ち、働き者になるという前半。錦之助のコメディ演技、大いに笑わせる。
 後半はシリアスな皿屋敷。いつもはお屋敷から便りのあるお菊だが、ずっと音沙汰がなく心配していると、お盆になって、お菊が戻ってくる。と思ったら、目の前で姿が消える。勝五郎はお菊の身を案じるが、そうこうするうち、大事な皿を割ったので手討ちにしたとの知らせが屋敷から届く。
 水野十郎左衛門率いる旗本奴白柄組が幕閣からにらまれ、次々とお取り潰しとなっているが、青山播磨もそのひとり。将軍家より拝領の皿が最初から割れており、これを咎めてお家断絶に追い込もうという幕閣の罠。播磨と相思相愛のお菊がその罪を自ら被って手討ちになるというひねった筋立て。
 勝五郎の妹をお菊にしたのは、河竹黙阿弥の『魚屋宗五郎』で、酒を断っていた宗五郎が泥酔してお屋敷に乗り込むのと同じ趣向。
 錦之助一心太助シリーズでも徳川家光と魚屋の太助を演じ分けているので、殿様と魚屋の二役はお手の物である。

 

江戸っ子繁昌記
1961
監督:マキノ雅弘
出演:萬屋錦之介、小林千登勢、長谷川裕見子千秋実桂小金治、高橋とよ、坂本武、柳永二郎平幹二朗毛利菊枝