日本歴史時代作家協会 公式ブログ

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大河ドラマウォッチ「いだてん 東京オリムピック噺」 第27回 替り目

 三回のオリンピックに出場した金栗四三中村勘九郎)は、三八歳になっていました。東京に兄の実次(中村獅童)がやってきます。東京で実次と会うのは何年ぶりだろう、と四三は問います。ストックホルム・オリンピックの旅費を実次が届けに来た以来ですから、十七ぶりになります。
「なあ、四三」と実次は呼びかけます。「そろそろ熊本に帰ってこんね」
 四三は返事をできませんでした。
 大日本水上競技連盟(水連)では、田畑政治阿部サダヲ)が吠えていました。次のロス・オリンピックまで三年しかない。金メダル第一主義の必勝プランを皆に話します。
「見学だったんだよ、今までのオリンピックは」田畑は言います。「ここから(ロス・オリンピックのポスターを叩く)日本人のオリンピックは始まるんだよ。必ず勝つと書いて必勝。これを合い言葉に、次のロスではメダルをガバガバとってやろうじゃんね」
 田畑はあせっていました。占いで自分は三十で死ぬと出ていたのです。
 田畑は大日本体育協会(体協)を訪れます。会長の岸誠一(岩松了)に、神宮外苑、つまり陸上競技場の横に本格的なプールの建設を進言します。岸は机にポケットマネーを置きます。これ以上の金を出すかどうかは、田畑のプレゼンテーション次第だ、と告げます。田畑はまくし立てます。
「オリンピック、オリンピックって役員や選手が騒いでも、一般の国民は見ることもできない。これじゃあいつまでたっても人ごとじゃんねー。これからは興業。見世物です。生のレースを国民に見せるんです」
「具体的に言いたまえ」
 岸は言います。田畑は宣言します。
「日米対抗戦をやります」
 ロス・オリンピック直前に世界の覇者、アメリカのベストチームを招いて前哨戦をやる。日本でアメリカを徹底的に叩きのめし、自信喪失に落とし入れてやる。
「もう見学は終わったんですよ。勝たなくちゃ」田畑はしゃべり続けます。「そのためにはハッタリでもいいから、世界に恥じない立派なプールが必要なんです」
「なるほど」
 と、岸は返事をします。神宮プールの工事が始まることになるのです。
 そのころ金栗四三日課の水浴びをしていました。電報を受け取ります。
「アニキトク」
 と、そこには書かれていました
 四三は熊本の実家に駆けつけます。間に合いませんでした。兄の実次はすでに亡き人になっていました。四三のことを誰よりも気にかけていた、と、母のシエは話します。四三は金栗家の誇りだと言っていたというのです。シエは東京から帰ってきた実次の様子を語ります。
「もう心配なか」と、実次は言っていました。「嘉納治五郎先生に会うて、四三がお世話になりましたて、きっちりお礼ば言うてきたけん。もういつ熊本に連れ戻してもかまわん」
 それは嘘だと四三は言います。嘉納が実次に会ってくれるはずがない。
 妻のスヤ(綾瀬はるか)と、四三の養母にあたる池部幾江大竹しのぶ)が四三たちの所にやってきます。実次の遺骸を確認すると、幾江は四三に、今夜は仏さんのそばにいろ、と命じます。
「死ぬまでお前んために頭ば下げてまわった、兄上のそばにおれ」
 幾江の言葉に四三は、はい、と返事をします。
 夜、一人で四三は実次の遺骸のそばに座っています。自分の足をなでさすります。
「そろそろ潮時ばい」
 と、つぶやくのです。
 場面は、後の古今亭志ん生である美濃部孝蔵山本未來)の家に移ります。孝蔵は師匠と喧嘩をして、一門を追い出されていたのです。しかたなくゴロゴロして過ごす孝蔵。妻のおりんに、商いでもやったらどうか、と言われます。納豆を売り始める孝蔵。しかしうまくいきません。いらだちを孝蔵にぶつけるおりん。孝蔵は怒鳴ります。
「だったらてめえで売ってこいってんだ」
 ああいいよ、と納豆を売りに出るおりん。残された孝蔵は泣きわめく娘たちに言います。
「こんな甲斐性なしの飲んだくれの世話してくれんのは、三千世界広しといえども、母ちゃんしかいないんだよ。本当だよ。器量だって悪かねえんだから。みんな言ってら。あんな美人の女房を泣かしちゃ行けないよって」いつの間にか娘たちは泣きやんでいます。孝蔵は話し続けます。「できた女房ですよ。ほんと、すまないと思ってますよ」
 おりんはまだ行かずに戸口にいました。孝蔵の話を聞いていました。
「私は、寄席へ出て欲しいんですよ。高座に上がって欲しいんですよ。それだけなんです」
 と、おりんは静かに言うのです。
 関東大震災から七年が過ぎ、帝都復興祭がにぎやかに行われました。東京市長、永田秀治郎(イッセー尾形)は次の一手を考えていました。十年後の紀元二千六百年に何をやるか。
「その件なんですが」と声をかけてきたのは秘書の清水照男でした「オリンピックとかどうでしょう」
 ロス・オリンピックの次の次は、ちょうど紀元二千六百年にあたります。その件は誰に聞けば良いのかと問う永田。秘書は嘉納治五郎の名前を出します。
 田畑政治悲願の神宮プールがついに完成します。九コースの五十メートル。タイル張りの見事な競技場でした。そのこけら落としの大会で若干十六歳の前畑秀子上白石萌歌)が日本新記録を出します。そして日米対抗戦の開催が決定されるのです。
 田畑はラジオに出演していて気づきます。自分は三二歳。占いで出ていた三十歳で死ぬという予言は外れた。忙しすぎて、自分の歳を数えるのを忘れていたのです。田畑は上司の緒方竹虎リリー・フランキー)に言います。
「結婚したいんで、女、紹介してください」
 その頃、四三は大日本体育協会を訪ねていました。嘉納治五郎に会います。熊本に帰ることを決めたと報告します。驚く嘉納は理由をたずねます。兄が亡くなったことを四三は伝えます。
「あんなに元気だったのに」
 その言葉に四三は反応します。実次は嘉納に会っていたのか。
 まともに行ったのでは、嘉納は会ってくれるはずもありません。実次は道場破りと称して、講道館に乗り込んで行ったのです。嘉納に投げ飛ばされる実次。その場で嘉納に頭を下げます。
「弟が大変お世話になり申した。ありがとうございました」
 母のシエが語っていたことに嘘はなかったのです。実次は嘉納に礼を言っていました。涙を流す四三。
 そこに田畑がやってきます。嘉納は野口と話すために席を外します。取り残される田畑と四三。気まずい雰囲気が流れます。ついに田畑が口を切ります。四三に三度のオリンピック参加で一番の思い出は何か、と訪ねます。四三の頭の中に、第一回のストックホルム・オリンピックの映像がよみがえってきます。開会式の参加。三島弥彦生田斗真)との練習。そしてマラソン競技での失踪。
「紅茶と甘いお菓子がおいしかったね」
 四三は田畑に言います。四三はマラソンの時に迷い込んだ民家で、お菓子と紅茶を口に押し込まれたことを思い出していたのでした。あきれる田畑。四三は部屋を後にします。
 一人取り残された田畑は独り言を言います。元祖というのは偉いものだ。初めて世界で戦った日本人だ。元祖オリンピックは、三千世界広しといえども、金栗四三ただ一人だ。四三はまだ行っていませんでした。田畑の独り言を聞いていました。涙を流して言います。
「さよなら」