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『映画に溺れて』第123回 血煙高田馬場

第123回 血煙高田馬場

平成二年十月(1990)
白金 迎賓館

 

 テンポが非常にいい。昔の映画はこんなにも面白かったのだ。
 忠臣蔵の義士のひとり堀部安兵衛の浪人時代のエピソード、有名な高田馬場の決闘を描いたもので、ストーリーは単純である。
 喧嘩の仲裁で酒にありつくことを生業としている八丁堀の喧嘩安こと中山安兵衛は伊勢屋を強請っていた不逞の浪人をやっつけ、たまたま、堀部弥兵衛の娘に見初められる。
 安兵衛は伊勢屋に酒を飲ませてもらい前後不覚に酔っぱらって、長屋に帰ってくる。留守中に伯父の菅野六郎左衛門が訪ねてきて、高田馬場で村上兄弟と果たし合いをするむね、手紙を書き残しておく。
 老齢の伯父は小者ひとり連れて、村上兄弟他十数名が待つ高田馬場へと出かけていく。酔った安兵衛はなかなか手紙を読まないので、観ている観客はやきもきする。
 ようやく伯父の手紙を読んだ安兵衛、大慌てで八丁堀から高田馬場へと駆けていく。長屋の住人たちもいっしょになって駆けていく。たまたま父を連れてやって来た堀部弥兵衛の娘も駆けていく。
 数をたのんだ卑怯な村上兄弟とその仲間らに寄ってたかって斬り刻まれ、菅野六郎左衛門はいまや虫の息である。
 ようやく高田馬場に到着した安兵衛、敵十八名をたったひとりで相手にし、全員をばったばったと斬り捨てる。その殺陣が実に軽快でまるで舞踊のよう。
 かつては京都でこのような時代劇がたくさん作られていたのである。

 

血煙高田馬場
1937
監督:マキノ正博
出演:阪東妻三郎市川百々之助、原駒子、伊庭駿三郎、志村喬、大倉千代子、香川良介