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『映画に溺れて』第142回 悪名

第142回 悪名

平成十二年五月(2000)
千石 三百人劇場

 私が大阪府八尾高校へ入学したとき、社会科の先生が嘆いておられた。今東光のおかげで河内の悪いイメージが全国に広まったと。人気流行作家今東光が描いた河内人はみな無学で下品、ケチで好色、気が荒く喧嘩っ早い。小説だから、たしかに誇張はあるだろう。みんながみんなそうではなかろうが、実は私の周囲にもそういう人は何人もいたのである。今東光が住職をしていた終戦直後の農村部ならなおさらのことだ。
『悪名』の主人公朝吉は、今東光の住職時代に交流のあった実在のならず者がモデルといわれる。映画は大ヒットした。勝新太郎演じる八尾の朝吉は『座頭市』や『兵隊やくざ』と並ぶ勝新の当たり役となり、シリーズ化される。
 朝吉はどの組にも属さない一匹狼のならず者である。よその村の娘お千代と駆け落ちし、松島遊郭の女郎琴糸といい仲になり、料理屋の女中お絹と結婚。三流やくざ組織の下っ端、モートルの貞を弟分にし、足抜けに失敗して島に売りとばされた琴糸を救いに行く。
 勝新太郎のやんちゃな魅力溢れる映画だが、関東出身の勝新が正確な関西のアクセントでたんかを切ると、大阪生まれの私は妙にうれしくなる。関西出身でない俳優が使う大阪弁は不自然で、語彙もアクセントもでたらめな場合が多く、映画のリアリティを著しく損ねるが、勝新はさすがに名優である。名前は差し控えるが、そこそこ売れていながら、大阪人や京都人を演じて、耳をふさぎたくなるような無茶苦茶な関西弁を平気しゃべる俳優がけっこういるのだ。
 弟分であり、相棒であるモートルの貞の田宮二郎。関西人だけあって、大阪の剽軽なチンピラを軽妙に演じる。モートルの貞は第二作の『続・悪名』で命を落とすが、人気シリーズとなったため、田宮は貞の弟の清二の役で第三作以降も登場、ずっと勝新の朝吉を支え、コンビは全十六作まで続く。
 八尾の朝吉は、実は同じ今東光原作の映画『みみずく説法』にも登場する。朝吉親分を演じるのは勝新ではなく曾我廼家明蝶だった。

 

悪名
1961
監督:田中徳三
出演:勝新太郎田宮二郎中村玉緒、中田康子、水谷八重子浪花千栄子、阿井美千子、倉田マユミ、藤原礼子、若杉曜子、高橋とよ、山茶花究