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『映画に溺れて』第143回 みみずく説法

第143回 みみずく説法

平成四年三月(1992)
三軒茶屋 スタジオams

 

 勝新太郎はさすがに名優で、関東出身なのに『悪名』で主演、八尾の朝吉という人物の大阪弁は見事だった。原作は今東光。明治生まれの小説家であり、僧侶であり、国会議員にもなっている。
 大阪河内の八尾を舞台にした今東光の自伝的作品が『みみずく説法』で、主役の和尚を演じるのが、うれしいことに森繁久彌だった。
 森繁には『夫婦善哉』など軽妙な大阪弁を駆使する役柄もたくさんあるが、これは関西生まれの強みであろう。関西出身の俳優は、東京弁大阪弁も両方上手に使える人が多い。
 この映画には八尾の朝吉も脇役で登場し、演じるは勝新太郎ならぬ曾我廼家明蝶。その他、ブラシ業者に山茶花究、その妻に酒井光子、その娘に司葉子、よそ者の成金に田中春男、飲み屋の女将に乙羽信子司葉子の恋人に藤木悠、みんな関西言語圏の出身者。当然のごとく、大阪弁の名人浪花千栄子も出ている。たしか松竹新喜劇の若手だった小島秀哉も出ていたように思う。
 東京弁を話すのは和尚の妻の中村たつと、東京の雑誌編集者横山道代のふたりだけ。
 勝新の『悪名』シリーズ以前の曽我廼家明蝶の朝吉は決してごろつきの無法者ではなく、いかにも河内にいそうな好人物で、微笑ましい。
 それにしても、昔の作品を見るにつけ、森繁はなんていい役者だったんだろうと感嘆せずにはいられない。

 

みみずく説法
1958
監督:久松静児
出演:森繁久彌司葉子乙羽信子山茶花究田中春男藤木悠、中村たつ、浪花千栄子酒井光子横山道代、浜村純、曽我廼家明蝶曽我廼家五郎