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『映画に溺れて』第147回 親バカ子バカ

第147回 親バカ子バカ

平成七年七月(1995)
大井 大井武蔵野館

 

 かつて大井武蔵野館で関西芸人コテコテエンタテインメントという特集があり、アチャコの『お父さんはお人よし』、大村昆の『番頭はんと丁稚どん』、藤田まことの『てなもんや大騒動』、都蝶々の『スチャラカ社員』など、なつかしのTVシリーズの映画版がまとめて上映された。特にうれしかったのが渋谷天外藤山寛美の『親バカ子バカ』である。
 まだ私が幼いころ、この番組はTVでよく観ていた。昔、藤山寛美の物まねをする芸人がいて、たいていはこの『親バカ子バカ』の寛美が電話をかけている場面の真似だった。
 知的障害者を笑いものにするのはけしからん、というような型通りの教条主義はふっとんでしまうほど、面白く、私は天外と寛美はほんとうの親子だと信じていた。
 大きな会社の社長が天外、その息子が寛美。寛美は「アホ」だが、ときどき鋭い面を見せる。
 寛美が思いを寄せる女子社員が環三千代。さわやかな美人である。
 トム・ハンクス主演の『フォレスト・ガンプ』を観たとき、その馬鹿馬鹿しいジョーク精神を大いに楽しんだが、あれもまた与太郎が運よく出世する落語のような話で、笑いと涙の人情喜劇だった。
「君、バカなの」
「バカをやる人がバカなんだ」
『親バカ子バカ』と『フォレスト・ガンプ』、タイプは全然違うが、どこか共通しているような。そしてもうひとり、この映画とは関係ないが、「アホの坂田」こと坂田利夫も私、大好きである。藤山寛美トム・ハンクス坂田利夫も決してアホではない。きちんと役作りをして、リアルなアホを演じているのだ。
 面白くもなんともない最低な地をさらけだして、アホな視聴者に受けているような芸のない芸人が増えて、私はTVを見るのをやめにした。

 

親バカ子バカ
1960
監督:酒井欣也
出演:渋谷天外藤山寛美曾我廼家明蝶、環三千代、三宅邦子、北上弥太郎