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『映画に溺れて』第155回 日本以外全部沈没

第155回 日本以外全部沈没

平成二十四年二月(2012)
大森 キネカ大森

 

 小松左京のSF小説『日本沈没』がベストセラーとなった一九七三年、現実のオイルショックと重なり、世間は不安ムードにおおわれた。なにしろ、活断層の影響で日本列島が海に沈んでしまうのだから。それまでの高度経済成長、植木等のサラリーマンがすいすいと出世していくどこまでも上向きの泰平の世に翳りが見え始めた時期である。
日本沈没』は本が出版されるや、すぐに映画も公開となり大ヒット。受験生だった私は、日本が沈没してなくなれば受験もなくなるのに、などと不埒なことを考えてみたり。
 小説『日本沈没』には、小松左京本人が承認のパロディがあり、それが『日本以外全部沈没』で、書いたのが筒井康隆
 オリジナルは日本だけが沈没して、生き残った日本人が難民になるのだが、筒井康隆のパロディでは日本だけが残って、アメリカもヨーロッパもアジアもアフリカもオーストラリアも、全部海に呑まれてしまう。世界各国の難民がノアの箱舟のごとき日本に押し寄せるという凄まじさは、小松左京のオリジナルよりはるかに荒唐無稽である。
日本沈没』はベストセラーになって、すぐに映画化されたが、『日本以外全部沈没』はベストセラーにもならず、永らく映画化もされなかった。
 ところが、二〇〇六年に本家の『日本沈没』がリメイクされると、それに合わせて『日本以外全部沈没』も映画化。快挙というか、便乗というか。
 ポスターを目にしたときは、びっくりした。絵柄も文字のデザインもほとんど『日本沈没』と同じ。一瞬、錯覚かと目をこすったほどだ。低予算の便乗映画、いやいや、このわざとらしい露骨さは立派なジョークであると私は思う。
 私が観たキネカ大森での『日本以外全部沈没』、驚いたことに一九七三年版の『日本沈没』との豪華二本立てだった。キネカ大森という映画館もすばらしい。

 

日本以外全部沈没
2006
監督:河崎実
出演:小橋賢児柏原収史松尾政寿土肥美緒、ブレイク・クロフォード、キラ・ライチェブスカヤ、デルチャ・ミハエラ・ガブリエラ、松尾貴史、デーブ・スペクター、筒井康隆黒田アーサー、中田博久、寺田農村野武範藤岡弘