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『映画に溺れて』第158回 変態家族 兄貴の嫁さん

第158回 変態家族 兄貴の嫁さん

平成四年五月(1992)
大井 大井武蔵野館

 

 大手日活のロマンポルノ、それ以外のピンク映画、それら成人映画は一種の若手監督の登竜門でもあったのだろう。『おくりびと』の滝田洋二郎をはじめ、ピンク映画界から巣立ち、後に大作、話題作を撮る名匠となった監督は多い。
 大井武蔵野館で観た周防正行監督『ファンシイダンス』『シコふんじゃった。』そして『変態家族 兄貴の嫁さん』の三本立て。
 なんて贅沢な組み合わせだったろう。その後、『Shall we ダンス?』が大ヒットして、名監督と呼ばれるようになる前、周防監督がデビューを果たしたピンク映画作品。それが『変態家族 兄貴の嫁さん』である。
 これを映画館で観たときの衝撃。思わず笑いがこみあげた。
 和紙に墨で書かれたタイトルで始まり、おや、この既視感はなんだろう。そう思ううち、東京タワー、結婚式場、居間に吊られた式服、卓袱台を囲む家族たち、セットや小道具、背景、登場人物のせりふまわしや構図まで、小津安二郎の映画にそっくりなのだ。
『晩春』『彼岸花』『秋日和』『秋刀魚の味』などからそのまま借りてきたような場面の連続。しかもこれが成人映画。仰天した。
 当然ながらポルノである以上、男女が裸でからむシーンが次々に現れる。
 が、それでもなお、大杉漣が演じる笠智衆そっくりの父親をはじめ、出演者たちは小津作品のキャラクターをかなり真摯に真似ていた。純然たる真似であり、決して小津作品を茶化すような卑猥なパロディではない。
『変態家族 兄貴の嫁さん』は『ファンシイダンス』『シコふんじゃった。』に劣らぬ名作であると私は思う。
 そして、この組み合わせの三本立てを上映してくれた今はなき大井武蔵野館に感謝する次第である。

 

変態家族 兄貴の嫁さん
1984
監督:周防正行
出演:風かおる、山地美貴、麻生うさぎ大杉漣、下元史朗