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『映画に溺れて』第174回 ビリーブ 未来への大逆転

第174回 ビリーブ 未来への大逆転

平成三十一年三月(2019)
青山 ギャガ試写室

 

 アメリカ映画を観ていて、すごいと思うのは、時代色を徹底して出していること。まるでタイムマシンを使ってあの時代に戻ったように、町の風景、走る自動車、屋内のセット、何十人、いや何百人と出て来る登場人物ひとりひとりの服装や髪型。隅々まで目が行き届いている。
 一九五〇年代半ば、ハーバード大学法科大学院。入学式に向かう若い男性たち。全員がスーツに短髪。この時代、一般社会では長髪の男性は存在しない。そんな中、男たちに交じって歩く女子学生ルース・ベイダー・ギンズバーグ
 ごくわずかな新入女子学生たちを学長が会食に招いて言う。「男子学生を押しのけてまで入学してきた君たちの望みは?」
 弁護士志望のルースは理解ある夫に恵まれ、首席で卒業。が、どこの弁護士事務所も女性を雇わない。仕方なく、大学で法律を教える仕事に就く。
 七〇年代、世間はそれなりに進歩している。特に男性の髪型。若者に交じって長髪の中年男がちらほら。学生の服装もスーツからジーンズへ。が、女性の社会的地位は相変わらず低い。仕事は限られ、クレジットカードも夫の名義でしか取れないのが現状なのだ。
 ルースは夫からある訴訟記録を見せられる。母親の介護をしている男性が介護費用控除を認められなかった。親の介護をするのは女性の仕事だからという理由で。男は外で働き、女は家事をするのがまだまだ当時の常識である。
 女性差別が当たり前の時代に、女性差別を取り上げても勝ち目はない。が、男性が差別されている案件ならば。これを勝ち取れば、女性差別を訴え、女性の権利を主張する裁判にも勝算はある。が、負ければこの先、性差別は延々と続くだろう。
 実在のルース・ベイダー・ギンズバーグは九〇年代に最高裁判事に任命され、その後、ずっと現職を続けている。

 

ビリーブ 未来への大逆転/On the Basis of Sex
2018 アメリカ/公開2019
監督:ミミ・レダ
出演:フェリシティ・ジョーンズアーミー・ハマージャスティン・セローキャシー・ベイツサム・ウォーターストン