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『映画に溺れて』第188回 見知らぬ乗客

第188回 見知らぬ乗客

令和元年五月(2019)
池袋 新文芸坐

 ガイは列車で乗り合わせた男から愛想よく話しかけられる。ガイ・ヘインズさんでしょう。テニスの花形選手の。
 親切そうな男なので、行きがかり上、同じコンパートメントで食事をして酒を飲むことに。ブルーノと名乗る男はゴシップ通で、ガイが上院議員の娘のアンと親しいこと、ガイの悪妻が浮気を繰り返していることなど、いろいろ詳しい。ガイは別居中の妻と離婚について話し合うため、今、列車で妻の住む町に向かっているのだ。
 ブルーノはいきなり提案する。あなたは奥さんに悩まされて困っている。私には邪魔な父親がいる。たとえば、私があなたの奥さんを殺す。あなたは私の父を殺す。あなたと私にはなんの接点もないので、だれにも疑われない。犯行時にアリバイがあれば、完全犯罪が成立します。いかがですか。
 あまりのことに、ガイは驚き、相手にせず彼と別れる。
 が、ブルーノは実際に実行するのだ。ガイの妻が男友達と遊んでいるのを尾行し、遊園地であっけなく絞め殺す。
 そしてガイに電話してくる。あなたの奥さんを殺してさしあげたので、今度はあなたが私の父を殺す番です。警察へ訴えたりしたら、あなたも共犯で同罪になりますよ。
 断っても断ってもつきまとう。人当りがよく、アンや彼女の父の上院議員にまで馴れ馴れしく接触してくる。
 ガイが出場しているテニスの試合、満席の観客がボールを追って首を右に左に振っている。その真ん中でブルーノだけが顔を動かさずにじっとガイを見つめている。滑稽でありながら、ぞっとするほど不気味な場面。やがてクライマックスの回転木馬へと一気に進む。
 馴れ馴れしく近づいてくる他人にはくれぐれも注意を。変質者のストーカーかもしれない。

 

見知らぬ乗客/Strangers on a Train
1951 アメリカ/公開1953
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ファーリー・グレンジャーロバート・ウォーカールース・ローマンレオ・G・キャロルパトリシア・ヒッチコック、ケイシー・ロジャース