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『映画に溺れて』第199回 地上5センチの恋心

第199回 地上5センチの恋心

平成二十年八月(2008)
飯田橋 ギンレイホール

 

 主人公オデット・トゥールモンドはデパートの化粧品売り場に勤める中年女性。十年前に夫を亡くし、成人した息子と娘とベルギーの小さなアパートでつつましく暮らしている。美容師の息子はゲイ。無職の娘は変なボーイフレンドを家に連れ込んで同居。このボーイフレンドというのが、いつもトイレに閉じこもって煙草を吸っているような男。絵に描いたような庶民の生活。
 そんな彼女の楽しみは人気作家バルタザール・バルザンのロマンス小説を読むこと。それだけで、体がふわっと浮き上がるような幸福に浸れるのだ。ブリュッセルでのバルザンのサイン会では、憧れの作家の前であがってしまって、自分の名前さえまともに言えないほど。
 パリに住む作家のバルザンは、妻との仲は冷め切っていて、新作はTVでこきおろされる。文学などと無縁の無教養な女性たちが好む陳腐なゴミだと。
 落ち込んで自殺未遂。病院を抜け出し、上着のポケットにサイン会でファンがくれたファンレターを見つけ、読むうちに涙が流れる。
「あなたの小説のおかげでつらい人生から救われました。あなたの小説が多くの人を幸福にしています」
 バルザンは手紙をくれた読者オデットに会いに行く。くたびれ果てた中年の流行作家とささやかな人生を楽しむ中年女性。ふたりの間には、どんなロマンスが生まれるのか。
 カトリーヌ・フロふんするヒロイン。常に明るく前向きで、楽しくなると、食事の支度をしながら、自然に踊りだす。 
 ほのぼのと幸せになる小品である。

 

地上5センチの恋心/Odette Toulemond
2006 フランス・ベルギー/公開2008
監督:エリック=エマニュエル・シュミット
出演:カトリーヌ・フロ、アルベール・デュボンテル、ファブリス・ミュルジア、ジャック・ウェベール、アラン・ドゥテン