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『映画に溺れて』第200回 男と女

第200回 男と女

平成二十三年五月(2011)
日比谷 みゆき座

 

 クロード・ルルーシュの映画を初めて観たのは高校生のとき、『白い恋人たち』だった。冬季オリンピックのドキュメンタリーでフランシス・レイのテーマ曲が大ヒットした。そして『流れ者』『冒険また冒険』『男と女の詩』などお洒落なフランス映画を背伸びしながら観たものだ。ああ、懐かしい。一九七〇年代。
 ところがである。同じフランシス・レイの主題歌ダバダバダ、ダバダバダで有名な『男と女』をずっと見損ねていたのだ。私は家でビデオやDVDでの映画は観ない方針なので、どんな高名な作品であっても、いったん映画館で見逃すと、なかなか次に観る機会は訪れない。『男と女』は二十一世紀に入ってから東宝系の「午前十時の映画祭」でようやく観ることができた。
 男はジャン=ルイ・トランティニアン。レーサーである。女はアヌーク・エーメ。映画撮影所の記録係。
 男の妻は彼がレースの事故で入院中に、心労のあまり自殺する。女の夫はスタントマンだったが、撮影中に事故死する。ふたりはそれぞれ、子供を同じ寄宿舎に預けていて、それがきっかけとなって、知り合い、惹かれ合う。ふたりとも若くはないが、アヌーク・エーメは輝くばかりに美しく、トランティニアンも渋くてかっこいい。
 それだけなら、ただの中年の恋愛物語だが、一九六〇年代後半というのは、ほんとに不思議なくらい新しいものが出てきた時代なのだ。そして新しいものが、大衆化して、社会に受け入れられた時代でもあった。
 今観ると、とてもユニークだが、このユニークさは、どこか古めかしく、懐かしいユニークさなのだ。あの時代に若者だった私としては、年取ってから、こんな映像を観ると、胸がきゅーんとなってしまう。
 でも、考えてみれば、今の時代、もう新しいものなんて何もないのかな。あの時代に全部出てしまっているもの。六〇年代の終わりから七〇年代にかけて、ほんとにいい時代だったと思う。ダバダバダ、ダバダバダ。とはいえ、ルルーシュ、まだまだ。

 

男と女/Un homme et une femme
1966 フランス/公開1966
監督:クロード・ルルーシュ
出演:アヌーク・エーメ、ジャン=ルイ・トランティニアンピエール・バルー