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『映画に溺れて』第202回 競輪上人行状記

第202回 競輪上人行状記

平成十五年十一月(2003)
下高井戸 下高井戸シネマ

 

『幕末太陽伝』で貸本屋の金公を演じた小沢昭一名脇役で、主演映画はそれほど多くはないが、私の大好きな俳優である。
 小沢の主演作『競輪上人行状記』は七十年代にTVで見て、その後、いつかは映画館できちんと見たいと思いながら、ずっと機会のなかった作品だが、下高井戸シネマでの追悼特集でようやく劇場鑑賞することができた。
 小沢昭一扮するのは中学教師で、実家は貧乏寺、老父の加藤嘉が住職、兄嫁の南田洋子が寺を切り回している。兄が亡くなり、学校を辞めて寺を継ぐように父から強制され、一度はやけになるが、父の死で改心して、京都で修行を終え、密かに慕っていた兄嫁と結婚して寺を継ごうと決意する。
 が、兄嫁の口から息子は兄の子ではなく、父の子だと知らされ、怒り狂ってまた競輪に手を出し、暴力ノミ屋に借金のかたとして、寺の再建資金ばかりか寺まで取られてしまう。さて、いったいどうなるのか。
 どろどろとして、やりきれないようなストーリーなのに、これが笑えるコメディになっている。もちろん、小沢昭一の名演技あってこそだが、出演者のひとりひとりが実に素晴らしい。
 五十年代、六十年代の映画界を支えていた脇役たち、ほとんどが文学座俳優座、民芸などの新劇俳優で、実に自然でリアルな演技を見せるのだ。
 TVで観たときも面白かったが、映画館で観ると、さらに素晴らしさが身に沁みて、ずっと憧れ続けていた女性に出会えたような幸福感。やはり、映画は映画館で観たいと思う一本である。

 

競輪上人行状記
1963
監督:西村昭五郎
出演:小沢昭一加藤嘉南田洋子、高橋昌也、松本典子高原駿雄初井言栄