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『映画に溺れて』第283回 奇々怪々俺は誰だ

第283回 奇々怪々俺は誰だ

平成二十二年十二月(2010)
銀座 銀座シネパトス

 銀座シネパトスの谷啓追悼特集、二本目が『奇々怪々俺は誰だ』
 これほどまでにシュールでナンセンスな映画、それを普通の東宝コメディで撮っているとは。
 主人公の名前が鈴木太郎。ジョン・スミスを思わせる凡庸にして匿名性のある名前。『クレージーだよ奇想天外』で谷啓が演じた宇宙人、その地球でのサラリーマン名がやはり鈴木太郎であった。
 ある朝、会社に出勤した鈴木は、同僚から不審者扱い。誰も彼を知らず、そればかりか、まったく別人が鈴木太郎と称して彼の席に座っているのだ。悪質ないたずらと思いきや、友人も隣人も彼を知らないという。家に帰ると、朝、会社にいた鈴木と称する男が妻や子と夕食の途中。暴れて警察に連行され、そこを抜け出して、故郷に行くと、母も彼を知らないといい、泥棒扱いされて、村人に追われる。
 偶然知り合った自殺未遂の若い女だけが元々彼を知らないので鈴木と認めてくれる。彼女の助言でTVの尋ね人番組で自分が誰か知っている人は連絡してほしいと訴えると、さっそく身元がわかり、彼は鈴木次郎として精神病院へ。患者だったと言われるが、彼には覚えがない。
 そこへギャングの手下が現れ、彼は精神病院に姿を隠している殺し屋の鈴木三郎だと告げられる。そしてアメリカ帰りの企業の二代目を暗殺する仕事を親分から依頼され、二代目ともみ合ううちに相手を射殺。その瞬間、彼は企業の二代目鈴木四郎となり、社長の椅子を引き継ぐことに。
 といった具合にめまぐるしく彼の運命は変化するが、彼はいったい誰なのか。最後のバカバカしさ、驚いた。一九六九年の作なので、女性がみんなミニスカートというのも懐かしい。鈴木の勤めている会社が牛印乳業というネーミング、なにからなにまでが馬鹿馬鹿しくて。

奇々怪々俺は誰だ
1969
監督:坪島孝
出演:谷啓吉田日出子犬塚弘横山道代山茶花究、田武謙三、人見明、船戸順、ハナ肇田崎潤なべおさみ、吉村実子、左ト伝