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『映画に溺れて』第308回 ナチ収容所の素敵な生活

第308回 ナチ収容所の素敵な生活

平成十四年一月(2002)
東中野 BOX東中野


 BOX東中野で『夜と霧』を観たとき、二本立てのもう一本がこれだった。
 ヒトラーユダヤ人大量虐殺の事実を隠蔽するため、収容所ではユダヤ人たちは快適に暮らしているとの宣伝映画を作る。
 舞台はチェコの北の町テレジン
 ここの収容所に集められたのは、芸術家、作家、学者など利用価値のある人たち。ここでは、ホテルとまではいかなくとも、地方のユースホステル程度の設備はあり、私服を着て、楽しく語り合いながら仕事するユダヤ人たち。
 ユダヤ人の大量虐殺なんてありませんよ。ほらこの通り。みんな自由でしょ。
 これが対外向けのプロパガンダ映画『ヒトラーユダヤ人に町を与える』である。
 監督はユダヤ人のクルト・ゲロン。
 この映画が完成するや、監督もスタッフも出演していた芸術家、作家、学者たちも、そのほとんどがアウシュビッツの本物の収容所に送られた。そこで待っていたのは『夜と霧』の地獄である。
 そして、ゲロン監督をはじめ、ほとんどの人たちが命を落としたのだ。
 出演者のひとりであり、収容所からの生還者であるミハエル・ボーンカンプによって、二十年後、この映画は一九六四年当時の風景を付け加えて完成された。
 もしも、大戦でドイツ側が勝利をおさめていたら、ホロコーストの事実は歴史から消え去り、地上からどうしてユダヤ人がいなくなったのか、それは世界の不思議となっていただろう。


ナチ収容所の素敵な生活/So schon war es in terezin...
1944-1964 ドイツ/公開2002
監督:ミハエル・ボーンカンプ
ドキュメンタリー