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大河ドラマウォッチ「麒麟がくる」 第四回 尾張潜入指令

 文久十七年(1548)、春。街道一の弓取りといわれた駿河今川義元片岡愛之助)が軍を動かしました。目的は三河の制圧と、尾張への進出でした。織田信秀高橋克典)の軍は、三河の小豆坂でそれを迎え討ちます。両軍は譲らず、決着がつきませんでした。この戦いは痛み分けに終わりましたが、織田軍は激しく消耗してしまいました。
 美濃の明智荘では、明智光秀十兵衛(長谷川博己)が、鉄砲の試射をしていました。的にした鎧になかなか当たらず、家臣の藤太伝吾(徳重聡)に笑われる始末。そこへ知らせがやってきます。叔父の明智光安とともに稲葉山城に参上せよと、斎藤道三(この頃は利政)(本木雅弘)が命じてきたとのことでした。
 道三の妻である小見の方はだいぶ病状が回復しており、医者の望月東庵(堺正章)が京に帰ろうとしていました。
 光秀は光安と共に、東庵が道三と別れを交わすところに同席していました。
「途中、どこかにお寄りになるおつもりは」
 道三は東庵にたずねます。
「真っ直ぐ京に戻ります」
 と答える東庵。
「この利政(道三)に嘘は通りませぬぞ。ここから尾張に向かわれるのではないかな」
 実は道三は東庵のことを調べていたのです。東庵は織田信秀と親しく、双六をする仲で、三年前には十貫の大敗をしていたのです。東庵は白状します。
「仰せの通り。これより尾張に参り、双六の借金を返そうかと」
「それだけではあるまい」
 道三はいいます。先の今川との戦いの折、信秀は城に戻るなり寝込んだという噂がある。病を診て欲しいと信秀に頼まれたのではないか。
「もし、そうであったら」
 東庵は道三に聞きます。道三はいいます。どんな病なのか、自分に教えて欲しい。東庵は断ります。
「医者は脈をとった者の病については、秘して表に出さぬのが習い」
 道三は請います。信秀は道三にとって、不倶戴天の敵。病の重い軽いかを知っておけば、策略のたてようがある。東庵ははっきりといいます。
「お断りをいたします」
 激高するでもなく、道三はいいます。
「ならば御身の首をはねるまで」
 道三は刀をとってきて光秀に差し出します。光秀に東庵の首をはねるように命令します。躊躇する光秀。東庵は慌て、ついにいいます。
「あいわかりました。織田様のご様子、お伝えいたしましょう」
 東庵は厚顔にも道三に条件をつけます。秀信に借りていた双六の借金十貫を代金に上乗せして欲しい。
 道三は座を立ち去り、光秀を呼びます。面白い男を連れてきた。あちこちの大名や公家衆とつながりのある不思議な医者だ。使い道がある。織田のもとに行かせてどれほど役に立つか、興味のあるところだ。光秀はいいます。
「しかし、織田方へ行かせて、戻って参るかどうか」
 道三はいいます。
「一緒につれて参った娘を人質に取り、戻らねば殺すといえ」
 翌朝、出発する東庵を光秀は見送ります。駒(門脇麦)をよろしく頼みます、と東庵はいいます。お任せ下さい、光秀はといい、
「万事、東庵殿しだいですゆえ、くれぐれも手はずをお間違えなきよう」
 と、念を押します。東庵は光秀に頭を下げて、出発してゆきます。
 東庵は尾張の古渡城に到着していました。秀信は元気そうに蹴鞠を行っています。東庵は織田の家老から、秀信が敵の矢を受けたことを聞きます。東庵は秀信を双六に誘います。
 その頃、農民に変装した光秀は、農民の菊丸(岡村隆史)と共に、尾張の国境を抜けていました。二人は兄弟ということにしていました。
 秀信と双六をする東庵。東庵は秀信の矢傷を調べます。
 光秀と菊丸は織田の屋敷の中庭で待っていました。東庵に薬草を届ける手はずになっていたのです。長く待たされる二人。そこへ子供が逃げてやってきます。自分を三河に連れて行って欲しいと頼みます。母に会いたいというのです。侍たちが子供を探してやってきます。光秀はかごから薬草を出し、その中に子供を隠します。侍たちがいってしまうと、光秀はかごの中に子供に話しかけます。
「私にできるのはここまでです。この館は守りが固い。内も外も、大勢の者が目を光らせています。抜け出すのは無理です」
 その子の名前は竹千代(後の徳川家康)でした。人質として、尾張に置かれていたのです。光秀は竹千代にいいます。
「今はつらくとも、日が変わり、月が変われば、人の心も変わります。いずれ母上に会える日が来ます。無理をせず、待つことです」
 竹千代は納得して戻ってゆきます。
 思い詰めたような顔で菊丸がしゃべり出します。
「わしは百姓じゃが、同じ三河の者。あのお方の気持ちはようわかります。三河は今川駿河と、この尾張に挟まれて、年中田畑を、両方から荒らされて、どちらかの力を借りなければやっていけない。そんな国ですから。今は我慢して、尾張に頭を下げて、若君を人質に差し出して。くやしいけど、そうやって」
 二人のところへやっと東庵がやってきます。東庵は光秀に薬草の代金の袋を渡すのです。
 秀信は何か感づいた様子でした。家来に命令します。
「東庵殿に薬草を届けた者を捕えよ。怪しいものなら斬れ」
 光秀は山道で、紙片を取り出していました。それは東庵が袋に入れて、光秀に渡したものでした。光秀と菊丸は、前後を侍たちに挟まれます。身元を改めるため、同道するように命じます。光秀は侍たちを投げ飛ばし、菊丸に逃げるようにいいます。敵の刀を奪い、奮戦する光秀。しかし光秀の持つ刀が折れてしまいます。土手を駆け上がる光秀。そこに助けが入るのです。木に隠れた誰ともわからない者たちが、侍たちに石つぶてを投げつけたのです。こっちこっち、と菊丸が光秀を誘導します。侍たちをやり過ごすことに成功するのです。
 美濃にたどり着いた光秀は、道三に報告をしていました。紙片の内容を話します。
「矢の根が取りきれておらず、そこから体内に毒が回り、すでにわずかに発熱があると。あれではいつ倒れても不思議はないと。もろもろ勘案してすでに手遅れとのお見立て。重篤であると」
 今度はわしが攻める番だ、見ておれ、と道三は笑い声をたてるのです。駒を解放してもよいとの許しを光秀に出します。そして翌朝、再び登城するようにいうのです。常在寺の和尚、日運が、鉄砲の話をしたがっているというのです。
 光秀は駒のもとに向かいます。いつでも京に戻ってよいと告げます。駒は喜ぶ様子がありません。
「十兵衛(光秀)様は私が京へ戻るのがそんなに嬉しいのですか」
 光秀はいぶかしがります。
「いや、駒殿は、京に戻りたいのではないのか」
「そりゃあ戻りたいですよ、でも、そんなによかったといわれると、ちょっと、さみしゅうございます」
 駒は東庵も帰らないことだし、まだ滞在することを宣言するのです。
 翌朝、登城する光秀。日運と話をする道三のところに同席します。日運は、幕府が本能寺を通じて鉄砲をつくらせていると告げます。光秀は日運に問います。
「あのような難しい物を、誰がつくっているのでしょうか」
 日運はそれを知らない様子でした。