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『映画に溺れて』第314回 マイ・フェア・レディ

第314回 マイ・フェア・レディ

昭和四十九年十一月(1974)
大阪 堂島 大毎地下

 

 音声学の教授が、友人の退役大佐と賭けをする。きついロンドン下町訛りの花売り娘に、音声学の手ほどきで上流婦人のような話し方をさせることができるかどうか。
 十九世紀末のイギリスでは身分によって話す言葉が違っていた。日本でも江戸時代は武士と町人とでは別の言葉だったから、似たようなものか。ジョージ・バーナード・ショーの舞台劇『ピグマリオン』である。
 このコメディがブロードウェイでミュージカルになったのが『マイ・フェア・レディ』で『踊りあかそう』『運がよけりゃ』『君住む街』『スペインの雨』などなど、名曲ぞろい。ヒットするミュージカルは、『サウンド・オブ・ミュージック』にしろ『ラ・マンチャの男』にしろ、曲が後世まで歌いつがれる。
 これが後にハリウッドで映画化され、花売り娘のイライザにオードリー・ヘップバーン、ヒギンズ教授がレックス・ハリソン。実はこのとき、オードリーは歌わず、吹き替えだった。後にTVのシャーロック・ホームズで人気の出るジェレミー・ブレットが、イライザに思いを寄せる青年貴族フレッドの役で、やはり本人は歌っていない。
 舞台版は日本でも繰り返し上演されており、私は一九九〇年に帝劇で観た。イライザが大地真央、ヒギンズ教授が細川俊之、ピカリング大佐が益田喜頓だった。
 余談だが、ニコラス・メイヤーに『ウエストエンドの恐怖』というホームズパロディがある。バーナード・ショーの依頼でホームズとワトスンがロンドン演劇界の怪事件に挑み、耽美派詩人オスカー・ワイルドやドラキュラの作者ブラム・ストーカーも登場する。ちょっとした観察で相手の素性を言い当てるホームズに驚嘆したショーが、自作の戯曲で相手のちょっとした訛りから出身地や階級を言い当てるヒギンズ教授を創作したという設定が面白かった。

マイ・フェア・レディ/My Fair Lady
1964 アメリカ/公開1964
監督:ジョージ・キューカー
出演:オードリー・ヘップバーン、レックス・ハリソン、スタンリー・ホロウェイ、ウィルフレッド・ハイド・ホワイト、ジェレミー・ブレット、セオドア・バイケル