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『映画に溺れて』第332回 ふたりのJ・T・リロイ

第332回 ふたりのJ・T・リロイ

令和元年十二月(2019)
六本木 アスミックエース試写室

 母親から男娼になることを強要された薄幸の美少年J・T・リロイが書いた実録小説『サラ、神に背いた少年』がベストセラーとなる。
 が、覆面作家として、本人は世間に姿を見せない。
 実はこの小説、当時三十代の女性ローラ・アルバートが書いていたのだ。J・T・リロイは彼女の創作であり、ローラ自身が架空のJ・Tの代理人として、出版社との契約なども行っていた。
 小説がヒットすると、世間はJ・T・リロイの実像を知りたがる。マスコミはJ・Tへの取材をローラに迫る。
 そのころ、ローラの夫ジェフの妹サヴァンナが田舎から兄を頼ってサンフランシスコに出てくる。
 短髪でボーイッシュなサヴァンナを見て、ローラは思いつく。この子を美少年J・Tに仕立ててマスコミ取材を乗り切ろう。その場しのぎ、一度だけの代役だったが、金髪のカツラに大きなサングラス、無口で中性的な雰囲気が受けて、取材が増え、サヴァンナは有名人のパーティに招かれたり、ついには映画化が決まって、ハリウッドで舞台挨拶まで。
 ベストセラー作家J・Tとしてサヴァンナが世間からちやほやされ、作家本人であるローラは付き人扱いでほとんど無視される。サヴァンナはJ・T役を楽しみ、ローラは自分が創った虚像に嫉妬を覚える。
 やがて、世間に真相が……。実話の映画化である。
 架空でありながら実体化した主人公とそれに嫉妬する作者の物語。マイケル・ケインベン・キングズレー主演の『迷探偵シャーロック・ホームズ最後の冒険』を連想した。作者ワトスンが自分が雇ったホームズ役者にいらいらする内容だった。

ふたりのJ・T・リロイ/JT LeRoy
2018 アメリカ/公開2020
監督:ジャスティン・ケリー
出演:クリステン・スチュワートローラ・ダーンジム・スタージェスダイアン・クルーガー