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大河ドラマウォッチ「麒麟がくる」 第十四回 聖徳寺の会見

 天文二十二年(1553年)二月。斎藤道三(この時は利政)(本木雅弘)は織田信長染谷将太)のやってくるのを盗み見ていました。信長の顔を知っている明智光秀十兵衛(長谷川博己)に、彼がやってきたら自分の肩を叩くように命じます。三百の鉄砲を持った兵のあとから、信長はやってきます。奇抜な庶民の服を身につけて、馬に乗っています。信長は道三が盗み見ていることを気づいているようでした。道三の隠れている小屋を見つめて笑顔を見せます。さすがの道三も困惑し、光秀にいいます。
「寺へ行くぞ。あの男の正体が見えぬ。奇妙な婿殿じゃ」
 聖徳寺では家臣を引き連れた道三が信長を待っています。信長はなかなかやってきません。道三は立ち上がって歩き出す始末。信長は正装に衣装を整え、一人で道三のもとにやってきます。礼儀正しく振る舞い、道三の向かいに腰を下ろしてていねいなあいさつをします。信長は話します。
「今日、わたくしが、山城守(やましろのかみ)様に目通りいたすのを最も喜んだのは、帰蝶でござります。また、最も困り果てたのも、帰蝶でござります」
 道三は問います。
帰蝶が何を困り果てたのじゃ」
 信長はおどけたようにいいます。
「わたくしが、山城守様に、討ち取られてしまうのではと」
 座が沈黙します。声を出せる者は誰もいません。道三はいいます。信長は三百の鉄砲を持った兵を連れてきている。それだけの備えをしている信長をどうやって討ち取れるのか。信長はいいます。あれはただの寄せ集めで、帰蝶が道三に侮(あなど)られることがないよう用意した。
「今日のわたくしは、帰蝶の手の上で踊る、尾張一のたわけでございます」
 それを聞いて道三を笑い出します。
「それならばたわけじゃ」
 と、家臣たちを振り返ります。共に笑う家臣たち。道三は問います。この大事な席に、誰も連れてこなかったのはどういうわけなのか。たわけなら重臣たちに守ってもらわなければならないのではないか。信長は二人の若者を招き入れます。
「この両名、尾張の小さき村から出て参った、土豪の三男坊。四男坊。すなわち、家を継げぬ食いはぐれ者にござります」信長の目は鋭くなります。「されど、いくさとなれば無類の働きをいたし、一騎当千の強者(つわもの)でござります。食いはぐれ者は、失うものがござりませぬ。戦こうて家をつくり、国をつくり、新しき世をつくる。その気構えだけで戦いまする。父、信秀がよう申しておりました。織田家は、さしたる家柄ではない。もとは越前の片田舎で、神主をやっていたとか。柴家の家来であったとか。それが、尾張に出てきてのし上がった、成り上がり者じゃと。よろず、おのれであらたにつくるほかない。それをやった男が美濃にもおる。そういう男は手強いぞ、と。家柄も血筋もない。鉄砲は、百姓でも撃てる。その鉄砲は、金で買える。これからは、いくさも世の中もどんどん変わりましょう。われらも変わらねば」
 そういって信長をわずかに微笑むのです。道三はいいます。
「信長殿はたわけじゃが、見事なたわけじゃ」
 それは褒め言葉なのかと聞く信長に、帰って誰かに聞いたらいいという道三。場が和み、道三が笑い、信長が笑います。
 光秀は帰ってその顛末(てんまつ)を母の牧(石川さゆり)に報告します。妻の熙子(ひろこ)(木村文乃)もやってきて、心配していたことを告げます。牧は織田といくさになって、帰蝶が帰ってきてこの家にやってきたら、大変なことになるといいだします。いぶかる光秀。妻の熙子が答えます。
帰蝶様は十兵衛(光秀)のことがお好きですからね。昔から妻木でもよく母が申していました。帰蝶様がいつも明智の荘においでになるのは、十兵衛様に会いたいからだと」
 光秀はしどろもどろになってしまいます。
 駿河の街に、医者の望月東庵(堺正章)と、その助手の駒(門脇麦)が歩いていました。当てにしていたお金がもらえなかったとこぼす駒。東庵は駒が薬を買い忘れたことを指摘します。慌てて薬を買いに戻る駒。駒はそこで菊丸(岡村隆史)に出会うのです。菊丸と歩いていると、荷物を背負った男が乱暴をされているのに行き会います。よそものがここで商売をしたいなら、それ相応のあいさつをしろ、といわれています。乱暴されていたのは、以前、駒が出会っていた藤吉郎(のちの豊臣秀吉)(佐々木蔵之介)でした。藤吉郎はいいます。
「どこへ行ってもああいうやからがいるんだ。場所代を払えだの、手間賃を納めろだの。人が働いた上前をはねてのうのうと暮らしてやがる。わしはな」と、藤吉郎は駒にいいます。「ああいう奴を許さん。いつかきっと懲らしめてやる。字を読めるようになって、出世して、このかたきをとってみせる。必ず」
 藤吉郎は駒に薬を塗ってもらうのでした。
 臨済寺では、望月東庵が今川義元の軍師である大原雪斎(伊吹吾郎)に治療を施していました。自分はどれほどもつかと東庵に訪ねる雪斎。自分をあと二年生かして欲しい、と頼みます。
「二年あれば、尾張の織田を討ち果たせる。織田信秀は消えたが、跡継ぎの信長は油断がならぬ。うつけ者と噂されたが、美濃の蝮(まむし)は娘を与えた。あれを滅ぼしておかねば、駿河の者は枕を高くして眠れん。織田を潰すのが、わしに課せられた仕事だ」
 今川軍は織田方の緒川城を攻略するため、その隣に村木砦を築きました。緒川城は孤立したため、信長の助けを求めました。信長は尾張の内紛のため、身動きがとれません。そこで斎藤道三に信長の居城である那古野城を守って欲しいと求めました。
 道三は稲葉山城に、光秀の叔父である明智光安(西村まさ彦)と光秀を呼んでいました。二人の前で道三は、那古野城に援軍を送ることを宣言します。そこへ道三の側室の子である、斎藤高政(伊藤英明)がやってきます。国衆の稲葉良通(村田雄浩)を従えていました。高政は道三を問い詰めます。
「うつけ者の信長を助け、今川と戦うおつもりですか」
 稲葉も同意しかねると発言します。道三はいいます。
「口惜しいが、信長を甘く見ると、そなたも稲葉も、皆、信長にひれ伏す時が来るぞ。今はまだ若い。しかし信長の若さの裏に、したたかで無垢(むく)で、底知れぬ野心が見える。まるで昔のわしを見るようだ」
 高政は目を伏せます。
「さほどに、信長を気に入られましたか」
 気に入ったと笑顔を見せる道三。
「援軍を送らねば、明らかに信長は不利になる。見殺しにせよと申すか」道三は立ち上がります。「敵は今川じゃ。その今川に、信長が立ち向かおうとしておる。放っておけるか。わしはやる。わしは誰がなんといおうと、援軍を出す」
 道三は光安と共に、その場を去るのです。稲葉が高政にいいます。
「もはやぐずぐずできません。高政様が家督を継ぎ、まつりごとを執(と)るべきじゃ。このままでは国衆が治まらぬ」
 高政がいいます。
「わしが家督を継げば、国衆はついてくるか」
「わしが請け負う」と、答える稲葉。「急ぎ国衆を集め、家督を譲れと殿に迫るほかない」
 村木砦の戦いにおいて、織田信長の鉄砲隊が、今川軍に向かって火を噴きます。信長がいくさで、初めて鉄砲を使いました。鉄砲を使い、用意周到に攻め込んだ信長の軍勢が、砦から、今川勢を一掃しました。
 高政が母の深芳野を訪ねてみると、その姿が見えません。手分けして母を探す高政。深芳野は川縁に倒れ、死んでいました。
 夜に道三は深芳野の遺体と対面します。嘆き悲しむ道三。
「わしは心の底から芳野を大事に思うて、慈しんできたのじゃ」
 それに対して高政が声を荒げます。
「では、なにゆえ母上の望みを絶たれた」
 高政は母が自分を守護代につくことを望んでいたといいます。
「わしは、そなたに継がせるつもりじゃと、芳野に申したはず」
 高政は道三に迫ります。では今、誓ってくれ。母の望みを叶えると。自分に家督を継がせると。道三はついにいいます。
「よかろう。家督を、そなたに」