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大河ドラマウォッチ「麒麟がくる」 第十五回 道三、わが父に非(あら)ず

 天文二十三年(1554年)。斎藤利政(本木雅弘)は仏門に入り、道三と号し、家督を嫡男(ちゃくなん)の高政(伊藤英明)に譲りました。道三は家臣や国衆たちの前で話します。
「今朝、わしは、見ての通り頭を丸め、仏門に入り、世俗の塵(ちり)を払うた。ついては後事を高政にゆだね、国のまつりごとを万事託そうと思う。古きを脱し、新しき世をつくるのは、新しき血じゃ。このことはわしの頭から一時たりとも離れることはなかった」道三は宣言します。「以後は、高政の声を、わしの声と思うてしたごうてもらいたい」
 明智光秀十兵衛(長谷川博己)は夜更けに叔父の光安に呼び出されます。光秀が光安の屋敷に来てみると、そこに道三の次男である斎藤孫四郎が来ていました。孫四郎は高政の家督相続に、不満を持っていたのです。尾張の信長(染谷将太)のもとに嫁いだ帰蝶川口春奈)も、心配して孫次郎に手紙を出していました。孫四郎はいいます。
「このまま兄上に、美濃を任せておくわけには参らぬ。志(こころざし)を同じゅうする国衆とはかり、兄上に退いていただく道を探るべしと。その先陣に、明智殿に立ってもらいたいのじゃ」
 光秀はいいます。
「その義、お断りいたします。道三様は、誰よりも高政様のことをご存じのはず。その道三様が、髪をおろして譲られた家督。ご思慮の末のご決心と推察いたすところ。わずか二月(ふたつき)、三月(みつき)で、さような断は下せませぬ」
 孫次郎は怒って帰って行ってしまいます。
 稲葉山城の政孝のもとに、光秀は呼び出されました。光秀は世間話に切り出します。
「他国といくさなど、している暇はありませぬな」
 高政は応じます。
「その通りだ。わしは父上がやってきたようないくさは好まぬ。日々、平穏がよい」
 高政は本題に入ります。弟の孫四郎のことでした。高政は孫四郎が明智の城に行ったことを知っていました。孫四郎をそそのかしているのは、尾張帰蝶だ、と、高政はいいます。さかんにやりとりをして、高政に敵対する国衆をまとめようとしている。信長との盟約はどうするつもりかと、光秀は聞きます。
「いずれ、見直さざるを得まい」
 と、高政はいいきります。高政は不満を漏らします。
帰蝶も信長も、今日までわしに何のあいさつもない。この城を継いだわしに、文(ふみ)ひとつよこさぬ。そこへもってきて孫四郎」高政は光秀を振り返ります。「尾張へ行き、帰蝶に釘を刺してきてもらいたい。孫四郎日近づくな。さもなければわしにも覚悟がある」
 光秀は斎藤道三の館を訪ねるのでした。
「高政様に、尾張帰蝶様のところに行けと命じられました」と、光秀は打ち明けます。「私が帰蝶様にお会いしても、丸く収めることはできまいと存じます。高政様の使いで行くとなればなおさらです。追い返されるに決まっています」光秀は進み出ます。「恐れながら、かかる混乱は、殿がはっきりと後の道筋をつけずに、家督をお譲りになられたからと存じます。皆、とまどうておるのです。私がお聞きしたいのは、殿が、信長様との盟約をどうなさるおつもりだったのか。高政様のお考えをお認めになり、すべてをゆだねられたのか。そうではなく、高政様のご様子次第で、再びご自分が……」
「それはない」道三は光秀の言葉をさえぎります。「わしはおのれが正しい道の上を歩いてきたとはみじんも思わぬ。いくさも勝ったり、負けたりじゃ。無我夢中で、この世を泳ぎ渡ってきた。高政もそうするほかあるまい。力があれば、うまく生き残れよう。非力であれば、道は閉ざされる。わしの力でどうこうできるものではない」
 尾張清洲で異変が起きました。尾張守護である斯波義統が織田彦五郎の家老、坂井大膳によって暗殺されたのです。斯波義統の嫡男である斯波義銀は、織田信長に保護を求めてきました。
 数日後、信長の叔父である織田信光(木下ほうか)と、帰蝶は話をしていました。清洲の彦五郎から囲碁の誘いを受けている信光に対し、帰蝶は決意を促します。
 清洲城にて孫次郎と囲碁を打っていた信光は、突然、脇差しを抜いて孫次郎を刺し殺します。城のあるじを失った清洲方は、たちまち崩壊してゆきます。そして信長は戦うことなく、清洲城に入城するのです。反信長の牙城は、あっけなく信長の手に落ちたのでした。この事実は、周辺の国々に衝撃を与えました。
 美濃では、高政が国衆の稲葉良通(村田雄浩)から報告を受けていました。稲葉は高政ににじり寄ります。
「用心なされた方がよい。尾張の後押しで、孫次郎様が、この城のあるじに取って代ろうとされるやも知れません」稲葉はさらにいいます。「ほかの国衆の中には、道三様の正室のお子は孫次郎様で、高政様は側室のお子だとはっきり申す者もおりますぞ」
 駿府では太原雪斎(息吹吾郎)が望月東庵(堺正章)から治療を受けようとしていました。雪斎は東庵にいいます。
織田信秀のせがれは、大うつけといわれておったが、そのうつけが尾張をほぼ手中に収めんとしておる」
 駒は東庵の使いで、薬草を買いに外に出ます。するとわらじ売りの藤吉郎(佐々木蔵之介)が駒を待っていたのです。相手にせずに歩き出す駒を追う藤吉郎。薬屋にいた菊丸(岡村隆史)に藤吉郎はいわれます。
「物売りなら、さっさと市へ行って、あきないをしていれば良いのだ」
 自分はあきないはやめたといいだす藤吉郎。
「侍になるのだ」
 と、いいだします。今川の家来がいいと思っていたが、近頃は、尾張織田信長様の評判がいい。
「わしのような者でもどんどん召し抱えてくださり、なかなかの上り調子と聞く」藤吉郎は尾張に旅立つつもりです。「一緒に行かぬか」
 と、藤吉郎は駒を誘います。慌てて止める菊丸。一緒に行こうといったのは冗談だ、という藤吉郎。しかしあと三日で旅立たなければならない。その間に駒に字を教わりたいというのでした。
 美濃では孫次郎と三男の喜平次が高政を訪ねようとしていました。高政が体がしびれて寝込んでいると聞いたので、見舞いにやってきたのでした。しかし寝ている高政の部屋に入ろうとしたとき、孫四郎と喜平次の目前で戸が閉じられるのです。高政の家臣が刀を抜いて二人に斬りかかります。目を開けてその様子を聞く高政でした。
 道三は骸(むくろ)となった孫次郎と喜平次を前にします。
「美濃を手に入れた褒美がこれか」と道三は叫ぶのです。「わしがすべてを譲ったわが子。すべてを突き返してきたのじゃ。かように血まみれにして」道三は歩き出します。「高政。わしの手を汚しよったな。出てきてこの血のにおいを嗅ぐがよい。高政。許さんぞ」
 道三は稲葉山から脱出し、美濃の北、大賀城を目指しました。国を二分するいくさの前触れです。
 高政は国衆たちの前で発言します。
「皆に申しておく。わしは弟を斬ったのではない。斎藤道三の子を斬ったのだ。道三はわが父にあらず。わが父は、土岐源氏の頭領であり、美濃の守護におわした、土岐頼芸様である。道三の子、孫次郎と喜平次は城を乗っ取り、美濃を混乱に落とし入れるくわだてを巡らせていた。悪しき芽はつんだ。これを機に、美濃は皆の力を結集し、揺るぎのない国を目指す」