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大河ドラマウォッチ「麒麟がくる」 第十九回 信長を暗殺せよ

 結果的に弟の信勝を殺すことになった織田信長染谷将太)は、母の土田御前(壇れい)からひどくなじられます。信長は妻の帰蝶川口春奈)にこぼします。
「わしは父も、弟も、母も失った」
 永禄元年(1558)。斎藤道三の死から二年がたちました。この年、近江の朽木に戦火を逃れていた将軍足利義輝向井理)は、三好長慶と和睦し、五年ぶりに京に戻ってきました。
 その頃、明智光秀十兵衛(長谷川博己)は、越前にて、仕官することもなく浪人暮らしをしていました。近所の子供たちに学問を教えています。光秀の評判は上々でした。光秀に教わると、読み書きはもちろん、行儀作法も身につくと親たちが口をそろえているということでした。
 光秀は朝倉義景ユースケ・サンタマリア)に呼び出されます。義景の育てた鷹を見せられるのです。
「そちに頼みがある」と義景は切り出します。「京へ行ってきてくれ」
 いぶかる光秀にかまわず、義景は続けます。
「公方様(将軍)が、京へ戻られたことは聞いておるか」義景は部屋に入ります。「三好と和睦したそうじゃ。めでたいことゆえ、諸大名にあいさつに参れと上洛(じょうらく)をお求めになっておられる。わしにも書状が届いたが、わざわざ京まで出向いて、火中の栗を拾うこともあるまい。面倒なことに巻き込まれるのはごめんじゃ」
「それで、わたしに」
 光秀は低い声を出します。
「この鷹を献上するのだ。公方様は、たいそう鷹狩りがお好きなようなのでなあ。それで、しばらく様子見じゃ」
 家に帰ってきた光秀は、妻の熙子(ひろこ)(木村文乃)に、京に行って将軍に会うことになったことを話します。熙子はいいます。
「それで、先ほどからうれしそうなお顔を」
 光秀はうなずきます。
「義輝様は立派な志(こころざし)をお持ちの方だ。将軍が戻られ、京の様子もきっと変わったであろう」
 熙子の様子が変です。心配する光秀。実は熙子は妊娠していたのです。
「でかした」
 と、熙子を抱きしめる光秀。光秀は母に子供ができたことを大声で伝えるのでした。
 京に着いた光秀は、将軍義輝に会うために、正装して待っていました。将軍奉公衆の三淵藤英(谷原章介)と細川藤孝眞島秀和)の兄弟に会います。再会を喜び合う三人。光秀は朝倉義景からの献上品である鷹を二人に見せます。礼をいってから三淵が話し出します。
「それにしても朝倉殿が上洛されなかったのは残念であった。京では様々な争いが起っておる。それを穏やかに治めるためにも、諸大名に上洛を求めているのだが、応じた大名は少ない」
 光秀は細川から、尾張織田信長殿がまもなく上洛することを聞きます。
 三淵が光秀にいいます。将軍が能を見ることになっている。光秀も同道いたすように。光秀は感激の様子を見せます。
 能を見るために出発する将軍義輝に、三淵は光秀を紹介します。
「覚えておるぞ」と義輝は光秀に話しかけます。「朽木で会(お)うたな」
 その時から九年の歳月がたっていました。
 能の行われる二条の館に来てみると、光秀は、斎藤道三の息子である斎藤高政(この時は義龍)(伊藤英明)とすれ違うことになるのです。高政は光秀をにらみつけます。「次、会(お)うた時は、そなたの首をはねる」といっていた高政でした。
 能が終了した後、細川と光秀は二人で話します。そして光秀は、信長の命を高政が狙っていることを知るのです。将軍に高政と話してもらうことはできないかとたずねる光秀。
「今の上様には、おさえるお力はありませぬ」
 苦り切った顔で細川は答えます。今でも京で力を持っているのは、三好長慶なのだといいます。
「しかし、何か手を打たねば」
 悲壮な声で光秀はいいます。驚く細川。
「なにゆえ、十兵衛殿はそこまで信長殿を」
 十兵衛は信長と道三が対面したときのことを話します。
「やすやすと死なせたくはないお方です」
 と、光秀はいいます。
「では、松永久秀吉田鋼太郎)殿に相談されてみては」と、細川は提案します。「今、京を治めているのは実のところ、松永殿ゆえ」
 光秀は松永久秀の屋敷に行ってみるのでした。松永は光秀を歓迎します。光秀は松永にひどく気に入られていたのです。松永と会うのは十一年ぶりでした。当時、三好長慶が襲われる事件があり、光秀がそれを助けていたのでした。
「そなたには借りがあるな」
 と、松永はいいます。光秀は姿勢を正します。
「恐れながら、その借りをお返しいただくわけには参りませぬか」
 その頃、織田信長は、尾張平定の報告のため、初めての上洛途中にありました。
 松永は斎藤高政の滞在先を訪ねます。
「斎藤殿に、お願いの義があり、まかり越しました」
 と、松永は切り出します。京の治安を守ることに手を貸して欲しいと話します。実は不穏な動きがあると、松永は高政に近づきます。高政の耳元で松永はいうのです。
「上洛している織田信長殿を、何者かが狙(ねろ)うているということでございます。何かご存じか」
 とぼけた顔で松永は聞きます。
「いや」
 と、顔を背ける高政。松永は高政の正面に座ります。
「公方様がお戻りになったというのに、かような狼藉(ろうぜき)は言語道断。厳しく取り締まねばなりません。斎藤殿は近く将軍家の要職に就くと聞いております。ならば京の安寧(あんねい)を守るのも、将軍家にお仕えする者の役目かと存じます」
 松永は光秀が待っているところに帰ってきます。
「これで貸し借りなしだな」
 光秀は松永に礼をいうのでした。そして松永はいうのです。
「斎藤殿がおぬしを呼んでおるぞ。話があるそうだ」
 光秀は高政のもとに向かいます。
松永久秀を担ぎ上げるとは、考えたな」高政は見抜いていました。「おぬしは道を誤ったな。わしに素直に従ごうておれば、今頃、美濃で要職についておった」高政は鼻で笑います。「今や浪人の身か」
 光秀はいいます。
「悔いてはおらぬ」
「強がるな。わしはいずれ尾張を飲み込み、美濃を大きく、豊かな国にするつもりじゃ。それはわし一人ではできぬ。助けがいる」高政は姿勢を正します。「どうだ、もう一度考え直し、わしに仕えてみぬか。手を貸せ」
「断る」と、光秀はいいます。「今さらおぬしに仕える気はない」
 高政は、光秀が相変わらず頑固だと笑います。光秀は以前の親友をいぶかります。
「いったいどうした。次に会(お)うたら、わしの首をはねると申していたおぬしが」
 高政は答えます。
「今まで血を流しすぎた。弟を殺し、父を殺し。わしに従う者はあまたおるが、ただわしを恐れ、表向きそうしているに過ぎぬ。腹の中では何を企んでおるのか、わかったものではない」
 高政は哀れみを請うような視線を光秀に向けます。斎藤義龍(高政)はこの二年後、病によりこの世を去ることになるのです。
 織田信長が将軍義輝に謁見します。
「わしに何かして欲しいことはあるか」
 と、将軍軍に訪ねられた信長は語りはじめます。駿河の今川が美濃の斎藤と手を組み、今にも尾張に攻め込もうとしている。兵を引くよう、命じて欲しい。義輝は承諾します。信長に今川より上の官職を授けようとします。信長は率直な質問をします。
「それで、今川は引き下がりましょうか」
 夜、光秀は松永久秀と会っていました。信長が昼間、松永を訪ねてきたことを聞きます。あれは妙な男だと松永は感想を口にします。冗談をいっているのか本気なのかよくわからない。あれはいったいどういう男なのだ、と光秀に聞きます。
「松永様はいかが思われましたか」
 と、光秀は逆に聞きます。
「まあ、うつけだとは聞いておる。確かにうつけかも知れんが、ただのうつけではないな」
 との松永の言葉を聞いて、光秀はうなずきます。
「亡き道三様は、信長様から目を離すなとおおせられました」光秀はいいます。「道三様は、信長様のことを買っておられました」
将軍様にも目通りしたらしいが」松永は笑い出します。「がっかりしたと申しておった。もはや将軍家は当てにできんと」