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『映画に溺れて』第392回 男と女 人生最良の日々

第392回 男と女 人生最良の日々

令和二年八月(2020)
飯田橋 ギンレイホール

 

 レーサーのジャン・ルイは妻が自殺。映画撮影所の記録係アンヌは夫が事故死。ふたりはそれぞれ幼い子供を同じ寄宿舎に預けていて、それがきっかけで親しくなり、やがて愛し合う。クロード・ルルーシュ監督の『男と女』フランシス・レイのダバダバダのスキャットは今でも忘れられない名曲である。
 あれから五十年以上の月日が流れた。
 ジャン・ルイは今は施設に入所しており、認知症がだんだん進行しつつある。
 アンヌは小さな店を経営する女主人。そこへジャン・ルイの息子のアントワーヌが訪ねてきて、父に会ってもらえないかと頼み込む。一度は愛し合ったものの、ジャン・ルイとアンヌは別々の人生を歩んでいたのだ。
 施設での再会。車椅子の認知症の老人は、自分を訪ねてきた女性がだれだかわからないながら、昔愛した最愛のアンヌのことを語る。
 やがてふたりはアンヌの車で過去を求めて逃避行。ふたりの思い出のシーンは五十三年前の『男と女』のフィルムがそのまま流れる。
 もちろん、ジャン・ルイを演じるのはジャン=ルイ・トランティニャン、アンヌはアヌーク・エーメである。そして監督はクロード・ルルーシュ。この三人が健在で、『男と女』そのままの老後という設定のすごさに驚かされる。ほぼ九十歳近いふたりの名優のやりとり、しかも、忘れられない恋心が題材という心憎いストーリー。たとえ認知症になっても、頭の中には恋の思い出だけが残っている。
 もうひとつ驚いたのはジャン・ルイの息子アントワーヌを演じたアントワーヌ・シレとアンヌの娘フランソワーズを演じたスアド・アミドゥ。この初老の男女が実は最初の『男と女』で、それぞれの幼い子供を演じた子役本人だったことである。

 

男と女 人生最良の日々/Les plus belles annees d'une vie
2019 フランス/公開2020
監督:クロード・ルルーシュ
出演:アヌーク・エーメ、ジャン=ルイ・トランティニャンモニカ・ベルッチ、スアド・アミドゥ、アントワーヌ・シレ