大河ドラマウォッチ「青天を衝け」 第7回 青天の栄一
血洗島では、江戸へと旅立つことになった長七郎(満島真之介)の送別会が行われていました。兄の尾高惇忠(田辺誠一)が、長七郎に詩を贈ります。名を高め、世に知れ渡る偉大なる仕事をするのがお前の役目だ。慎(つつ)ましく暮らし、母や家を養うのは俺が引き受けた。
長七郎が旅立った後、惇忠と喜作(高良健吾)が話します。惇忠にお見合いの話があったというのです。相手の方が喜作を見初めて、嫁に来たいと頼み込んできたということでした。
それは意気盛んな姉様だ、と感心する惇忠。
「このままじゃあその話が勝手に進んじまう。そんで、その前に俺はおのれで嫁を決めてえと思ったんだに」
という喜作。
「それでお千代(橋本愛)を」
惇忠に反対する様子は見られません。話しを聞いていた栄一(吉沢亮)が振り返ります。
「喜作、お前は」栄一は言葉を考えます。「お前は、いい男だ。お前はなんてえか、こう、男気がある。負けじ魂がある。それに、心根があったけえ」栄一は顔をそらします。「しかし、夫となるとどうだんべな。お前はこう、目立つことは好きだが、骨を折って真面目にコツコツと働くことが苦手だんべ。うかつなところもある。ちっとんべ新しいもんをめっけると、おっ、これはいいとすぐ流される軽薄なところがある。お千代の夫となるとなあ」
「どういう意味だ」
喜作は立ち上がります。
「お前と一緒になったらきっと苦労する」
「なんだとこの野郎」
喜作は栄一につかみかかります。栄一はひるみません。
「お前には、お前の尻をバンバン叩いてくれるような、意気盛んなおなごの方があってるに」
そこに栄一の姉の、なか(村川絵梨)が通りかかります。栄一に乗りかかっている喜助の首を絞めあげます。
「全く、あんたたちは相変わらずの子どもだいね」と二人の耳をつかんで引きずり回します。「嫁の話なんて十年はええんだよ」
江戸では、老中首座の阿部正弘(伊勢守)(大谷亮平)が亡くなりました。今まであらゆる仕事を一手に仕切っていた阿部の喪失は、幕府に大きな混乱を招くことが予想されました。
亡くなった阿部に代わって権力の座についたのは開国派の老中、堀田正睦(佐戸井けん太)でした。強硬に通商を求めるハリスに対し、幕府は、重い扉を開こうとしていました。
徳川斉昭(竹中直人)は、またしても朝廷に、幕府を非難する手紙を送りました。それをとがめに、川路聖謨(平田満)らが訪れます。しかし新しい老中筆頭の備中守(堀田)は腹を切るべき、と斉昭は吠えます。そしてハリスの首をはねろというのです。
席を立った後、斉昭は側近の武田耕雲斎(津田寛治)にいいます。
「私とて、分かっておる。もう私の役目は終わったということぐらい、分かっておるのだ」
斉昭のもとを、徳川慶喜も訪れます。
「京の高司家に対し、ご公儀の方針とは異なる意見を文(ふみ)にて申し立てたとのこと。京の都は今、攘夷、攘夷と、お父上の論を伝聞して、過激な行動を為すものが多くなり、公儀の諸役人は皆、困り果てております。また、そのことで天子様をまどわせたとしたら、父上のなされること本当に忠義にかなっておられるのでしょうか」
沈黙の後、斉昭はいいます。
「わかった。もうせん」
「それでは、今後は京への文は一切書かぬとの一筆を(老中筆頭の)備中守にあてて書いていただきたい」
そんなもの書けるか、と怒鳴る斉昭でしたが、妻の吉子(原日出子)もいいます。
「慶喜殿のおっしゃることが理にかなっております。どうかご公儀にお詫びなされませ」
血洗島では、栄一の姉なかが、同じ村の家に嫁いで行きました。
栄一は高尾家の前に通りかかります。外で作業をする千代と話をします。
「なあ、お千代。おめえ、喜作と一緒になるのか」
「ああ、そういうお話しがあるみたいで」
「おめえはそれで」
「へえ、ありがてえお話です。ウチは、今、兄様たちが、あんなで。ちっとんべお金に困ってるもんだから、きっと、どこか遠くの商売人に嫁ぐことなると、覚悟してたんだに。それが、喜作さんとこなら安心だ。ちいせえ頃からよく知ってるし、ウチからも近えし、こんなありがてえお話しはねえ。喜作さんは優しいし、栄一さんとも、中の家(なかんち)の方々とも、ずっとこうしてお近くにいられるんだから」
「そうだいな」と、栄一はいってしまうのです。「良かった」
外国に揺らぐ幕府を立て直すべく、慶喜を次期将軍に推す声が再燃。平岡円四郎(堤真一)が慶喜についてまとめた手記が書物にまとめられ、松平慶永(春獄)(要潤)は世継ぎを一橋慶喜に定めるよう、幕府に建白します。
なぜそのように急いで世継ぎを決めなくてはならないのかと、将軍家定(渡辺大和)は不満です。
「慶喜のような年寄り息子などいらぬわ」
と、言い放ちます。家定の乳母の歌橋(峯村リエ)が告げます。
「それだけではありませんよ、上様。越前様はメリケンのハルリスとやらの拝謁を、上様の代わりに、一橋様に受けさせてはどうかと申しておるのです」歌橋はうつむきます。「一橋様なら、日の本の代表として、異人に会わせるのに恥ずかしくないお方だと」
「何、慶喜なら恥ずかしくなくて、わしでは恥ずかしいと申すか」家定は決意します。「ハルリスにはわしが会う。わしは、越前も、慶喜も好かん」
ハリスが江戸城に向かう行列を、長七郎が見ていました。これに怒る長七郎に、剣術家の真田範之助(板橋俊也)はいいます。
「おぬしを連れて行きたいところがある」
そこは思誠塾といい、多くの若い侍たちが話を聞いていました。
「すなわち夷狄の民は、禽獣(きんじゅう)のごとき、人にあらず」
「人にあらず」
若い侍たちが唱和します。話していたのは大橋訥庵(山崎銀之丞)といい、早くから尊皇攘夷を唱える人物でした。大橋は話し続けます。
「狼というも、過言ではない。ゆえに払わねばならぬのである」
長七郎はもっと良く話を聞こうと、前に進み出ます。しかし侍たちに妨げられるのです。
「百姓が。お前のようなもんが出入りする場所じゃなか」
長七郎はあらがい、若い侍たちは刀を抜き放ちます。
「待ちなさい」長一郎のところへ大橋がやってくるのです。「実に良い目をしておる」
血洗島に長七郎からの文が届きました。江戸では今、尊皇攘夷の志士があまた集まっていると書かれています。惇忠へのものとは別に、栄一と喜作にも長七郎は文を書いていました。栄一は家に帰って読みます。長一郎は述べていました。
「栄一、お前の欲しいものは何だ。お前の志(こころざし)は何だ。本当にお前は、このままでいいのか。いま一度、その胸によく聞いてみろ」
栄一は惇忠と共に出発しようとします。父の市郎右衛門にいわれます。
「栄一、それでは商いに行くというより、まるで風流人の格好じゃねえか。くれぐれも道中、本を読んだり、詩を書いたりに明け暮れて、大事な商いを忘れるじゃねえで」
栄一は惇忠と出かけたこの時の旅を、詩にしたためました。
一巻の書を肩に、険しい峰をよじ登り、やがて、谷を歩くも、峰をよじ登るも、ますます深く険しくなり、見たこともないような大きな岩や石が横たわっている。私は、青天を衝く勢いで、白雲を突き抜けるほどの勢いで進む。
栄一はついに山の頂上にたどり着きます。そして空に手を伸ばし、拳を握るのです。
栄一は家に帰り着くと、荷物を置いて駆け出します。尾高の家を訪れて千代が神社に行っていることを聞くと、再び走り出すのです。栄一は神社で千代に出会います。
「お千代」と呼びかけます。「俺はお前が欲しい」
江戸城では盛大な茶会が催されていました。家定が、自分を支える良い重臣はいないのかと嘆いています。そこへやって来たのは、井伊直弼(岸谷五朗)でした。家定は井伊に菓子をやろうとします。手を差し出す井伊。しかし家定は、井伊の口に直接菓子を押し込もうとするのです。それを受ける井伊。菓子を頬張ります。
「井伊か」
と、家定はその名を呼ぶのでした。