日本歴史時代作家協会 公式ブログ

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大河ドラマウォッチ「青天を衝け」 第11回 横濱焼き討ち計画

 栄一(吉沢亮)は上州に逃がしたはずの長七郎(満島真之介)が、江戸に向かおうとしていることを知ります。

「長七郎が危ねえ」

 と、栄一は夜道を駆け出すのでした。

 長七郎は熊谷の常宿を発とうとしていました。そこに栄一が駆け込んできます。

「栄一、どうした。なぜここに」

 倒れ込む栄一に長七郎は声を掛けます。

「お前こそ、どこに行く気だったんだ」栄一は起き上がろうとします。「やっぱり、江戸に出る気だったのか」

「兄ぃにいえばまた止められるに決まってる。こんな時にいつまでも上州に安穏(あんのん)としておられるか」

 長七郎は出かけようとします。栄一は声を掛けます。

「河野が死んだ」

 河野とは、江戸の思誠塾の筆頭のような存在だった人物です。長七郎も思誠塾で学んでいました。栄一は話します。安藤対馬守を襲ったが、襲撃者全員が護衛に斬られた。安藤は取り逃がした。江戸ではその一味を探そうと、火のついたような騒ぎになっている。そんな中に江戸に行くのは、命を捨てに行くようなものだ。

「俺はもとより命など惜しくはない。俺がいれば、たとえ……」

 栄一は長七郎の言葉をさえぎります。

「だからそれが無駄死にだといってんだい」

「何だと」

 栄一は激高する長七郎の肩をつかみます。

「分かってくれ、長七郎。生き残ったお前には、今、生きている俺たちには、河野の代わりに、為すべき定めがまだあるはずだ」

 長七郎はわずかにうなずきます。荒い息をつき、栄一から離れます。その悔しさに栄一の襟首を持って揺さぶり、涙を流すのでした。長七郎は一旦、京に逃れることになりました。

 その一ヶ月後のことです。栄一の妻の千代(橋本愛)が子を産みました。栄一は子を抱いて妻にいいます。

「やったぞ、お千代。俺たちの子だい」

 栄一の伯父の宗助(平泉成)が、歩けるようになった千代にいいます。

「これで中の家(なかんち)は安泰だい。よく働き、良く儲け、いいおとっつあんじゃねえか」

「まことに」

 千代も笑顔で答えます。栄一の父の市郎右衛門がいいます。

「これも、お千代と(生まれてきた)市太郎のおかげだい。これで攘夷がどうのなんて戯(ざ)れ言は、はかなくなるだんべ」

 栄一は夜、そろばんをはじいていました。銭を分けて小袋に詰めてゆきます。栄一はしばらく考えた後、小袋の一つを懐にしまうのでした。

 栄一は尾高惇忠(田辺誠一)のところに来ていました。喜作(高良健吾)の姿もあります。惇忠は語ります。

「目的は、攘夷遂行と、封建打破。栄一のいうように、幕府が腐ったのは封建制の弊害(へいがい)だ。幕府を根本から正し、国を一家のように、家が国、国が家であるようにして、はじめて攘夷が為る。そのためには、天下の耳目を驚かす大騒動を起こし、世間を目覚めさせなくてはならねえ。そこで俺は考えた。異人の商館のある横浜を、焼き討ちにする」

「焼き討ち」

 意気込んだように喜作がいいます。

「そうだ。横浜の異人の居留地を、異人ごとすべて焼き払う」

 栄一がいいます。

「そうか、一歩、横浜がやられりゃ異国が黙って見てるはずがねえ。異国は幕府を責め、幕府はそれを到底支えきれず転覆(てんぷく)する」栄一は二人を見回します。「そうなった暁には、いよいよ忠臣である俺たちが、天子様をいただき、王道をもって天下を治める」

「よし、やってやんべえ」

 喜作もいいます。長七郎に文(ふみ)を送ろうということになります。この実行には長七郎が必要です。惇忠が宣言します。

「俺たちは、この北武蔵から攘夷を決行する」

 文久二年(1862)。徳川慶喜(草彅剛)は、将軍後見職に任命されました。薩摩の島津久光が、大軍を率いて江戸に入り、幕府に圧力を掛けてのことでした。

 江戸の薩摩藩邸に慶喜は来ていました。久光のおかげで幕府の要職に復活した松平春獄(要潤)もいます。久光はいいます。

「こん先は、我らで力を合わせ、ご公儀を動かし、攘夷を行いもうそう」

 それに対して慶喜はいい放ちます。

「攘夷、攘夷とおっしゃるが、攘夷が可能だと本気で思われているのか。攘夷などもはや詭弁(きべん)。父が攘夷、攘夷と申したのも、ひとえに国が辱(はずかし)められるのを恐れたためだ。いまだ兵備とて足りず、異国に攻められればひとたまりもない。それを知りながらあなたは、その場逃れの空虚な妄想をしているだけではございませぬか」

 慶喜は帰って妻の美賀君(川栄李奈)にこぼします。

将軍後見職も飾り物であった。薩摩は、私や越前殿(松平春獄)を、みずからの覇権のために利用しようとたくらんでいるのみ。公儀も、わが名を、朝廷のご機嫌取りに都合よく使おうとしている」

 血洗島では、息子の生まれたことで栄一は浮かれていました。ところが家に帰ってみると様子がおかしいのです。千代が「はしか」にかかっていたのでした。息子の市太郎は亡くなりました。栄一は息子の遺骸を抱いて泣き崩れるのでした。

 この年の暮れまでに、関東では、はしかとこれらで20万人もの死亡者が出ていました。

 栄一は惇忠のところに来ていました。血判状に血印を押します。惇忠が宣言します。

「まずはこの先、高崎城を乗っ取る」

 栄一が言葉を継ぎます。

「岡部の陣屋では小さすぎるからな。ここから七里の、松平右京之介八万二千五石の高崎城を襲撃し、城を制圧して武器弾薬を奪い、そこを本拠地に決起するんだい」栄一は地図を指でたどります。「城を奪ったら幕吏の守りが一番手薄な鎌倉街道を横浜に向け、一気に進撃する。そして横浜を焼き払い、夷狄を討つ」

 惇忠がいいます。

「横浜をとことん燃やすには、火の早く回る時節でなければならねえ。今年の冬至、十一月十二日の決行としよう」

 栄一がいいます。

「死の覚悟をもってすれば、きっと爪痕を残せる。俺たちは、命をかけ、国のために一矢報いることができりゃそれでいい。それで十分だ」

 そして年の明けた文久三年(1863)。京では過激な志士たちが「天誅(てんちゅう)」と称し、和宮降嫁に力を貸した者や、開国に賛成する者に次々と危害を加えました。そしてその首が慶喜に届けられることもあったのです。攘夷決行の血祭り、お祝いのしるしとして、一橋殿へご披露くださるべく候、との文(ふみ)が添えられていました。

 この京の攘夷運動の先頭にいたのは、長州の志士と、彼らに持ち上げられた公家の三条実美でした。三条は慶喜にいつ攘夷を行うのかと迫ります。慶喜は近臣にこぼします。

「もう無茶苦茶だ。イギリスは軍艦を率いて攘夷事件の賠償金を支払えと脅してくる。そんな中、朝廷は、早く攘夷をせよとのたまう。攘夷、攘夷、攘夷。攘夷など詭弁だとなぜわからぬ。私には天子様が、今、日本に起っていることをすべてお分かりの上で攘夷とおおせられているとは決して思えぬ」

 そんな慶喜にうれしい出来事が起ります。平岡円四郎(堤真一)が慶喜に仕えるために戻ってきたのです。

 栄一と喜作は、仲間を募り、武器を集めるため、江戸に来ていました。武具屋に入ります。刀を買いたいと率直にいいます。商人はいぶかしみます。

「失礼でございますが、お客様は、お武家様ではございませんな」

 栄一は商人の前に銭の袋を置いていいます。

「日の本はお武家様だけのもんじゃねえ。俺たちにも志(こころざし)はあります」

「何です、志って」

 商人は笑みを浮かべてたずねます。ひるむこともなく栄一は述べます。

「今、すっかりよどんで沈みかけちまってるこの国に、一石を投じることです。この国をよみがえらせることです」

 商人は二人を奥に案内します。そこはおびただしい武具が並べられた倉庫でした。商人はいいます。

「近頃じゃ、威張り腐った貧乏な侍が、金を払わねえで俺たち町人にたかってきやがる。あれに比べたら、お前さんたちの方がよっぽど気持ちがいいよ。あなた方の、志とやらに乗らしてもらいましょう」

 商人は栄一に刀を差し出すのでした。

 栄一たちが集めた武器は、ひそかに惇忠のもとに送られました。血洗島やその周辺からは、計画に参加したいという者が続々と集まっていました。

 栄一たちが焼き討ち計画にのめりこむ一方で、日本と外国の関係は刻々と変化していました。長州藩薩摩藩は、イギリスをはじめとする諸国の艦隊との戦いに敗れ、攘夷は無謀であることを知りました。京でも、過激な攘夷を唱える公家や志士たちが突然追放され、事態は混とんとしていました。

 そんな中、栄一と千代は新たな命を授かりました。しかし娘の、うた、を見る栄一には、あきらかに失望の表情が浮かんでいました。

 夜、栄一は父の市郎右衛門の前に膝をつきます。

「とっさま、俺を、この中の家から勘当してください。こんな乱れた世の中になっちまった以上、もう安穏とはしていられねえ。家を出て、天下のために働きてえと思う」

「天下だと、お前、何をする気だ」

「それはいえねえ。しかし、天下のために働くとあっては、この家に迷惑をかけるかもしれねえ。どうか、おていに婿養子をとって、家を継がせてください」

 栄一は深く頭を下げるのでした。母のゑいが栄一の背後からいいます。

「苦労もあるけど、一家みんなで働いて、村のみんなと助け合って、いい暮らしだよ。そのうえ働き者の嫁がいて、あんなかわいい子まで生まれて、あんたこれ以上、何がたりねえっていうんだい」

 頭を下げたまま栄一は母にいいます。

「すまねえ、かっさま。俺一人満足でも、この家の商いがうまくいっても、この世の中みんなが幸せでなかったら、俺はうれしいと思えねえ。みんなが幸せなのが一番なんだ」栄一は顔を上げます。「俺は、この国が間違った方向に行こうとしてるっつうのに、それを見ねえふりして、何でもねえような顔して生きていくことは決してできねえ。何度も、何度も胸に手を当てて考えた。でも俺は、この世を変えることに命をかけてえ。この村にいるだけでは決してできねえ、大義のために生きてみてえんだ」

 皆が黙り込みます。栄一は再び深く頭を下げます。すると妻の千代が栄一の隣に座り、共に市郎右衛門に頭を下げるのでした。

「私からも、お願いいたします。栄一さんはこの日の本のことを、おのれの家のように、一家のように、大事に思っていらっしゃるんです。家のことに励むみてえに、この日の本のために懸命に励みてえって。ひとつだけじゃない。どっちも、どっちもに、栄一さんの道はあるんです」

 市郎右衛門はいいます。

「強情っぱりのお前のことだ。俺が何をいおうが、しまいには思うようにするんだんべ。もう、お前という息子はいねえものと思って、俺が十年若返って、働くことにすらあ。俺は、政(まつりごと)がどんなに悪かろうが、百姓の分は守り通す。それが、俺の道だ。栄一、お前はお前の道を行け」