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『映画に溺れて』第411回 グッバイガール

第411回 グッバイガール

平成元年六月(1989)
池袋 文芸坐

 

 ブロードウェイの巨匠でありコメディの名手でもあるニール・サイモンが、夫人のマーシャ・メイスンのために映画シナリオを書いた。監督はベテランのハーバート・ロス。『グッバイガール』はリチャード・ドレイファス出世作となった。
 ポーラは三十過ぎのダンサーだが、現役から遠ざかり、幼い娘のルーシーと恋人トニーと三人でニューヨークのアパートで暮らしていた。が、映画の仕事が入ったとのことで、俳優のトニーが置手紙一枚でポーラをあっさりと捨て、しかもアパートの権利をシカゴの知人エリオットに売り渡して姿を消したのだ。
 雨の中、事情を知らないエリオットがアパートに到着するも、ポーラに追い返される。明日からオフオフブロードウェイの舞台リハーサル、エリオットは新解釈の『リチャード三世』で主役に抜擢され、意気揚々とニューヨークにやって来たのに。
 鍵と契約書を持っているエリオット、すでに二か月分の家賃を払って娘と暮らしているポーラ、そこからふたりの言葉による一騎打ちが開始される。
 エリオットが俳優と知ってポーラは逆上する。自分を捨てた最初の夫も恋人トニーも俳優だったので、それだけで身の毛がよだつ。エリオットは役者だけあって饒舌で、とうとうとまくしたて、結局妥協案が出て、同居することになる。
 同居しても、四六時中とげとげしい態度を続けるポーラだが、幼いルーシーはエリオットのエキセントリックなユーモアセンスに惹かれて、なついていく。
 喧嘩腰のふたりが、やがて仲良くなるのはラブコメディの定石だが、ダンサーと俳優という舞台人の組み合わせなので、随所に演劇ネタも盛り込まれている。
 それにしてもオフオフブロードウェイの新解釈『リチャード三世』の悲惨な舞台、俳優が俳優を演じるのはかなり難しいと思うが、リチャード・ドレイファスは実に無理なく自然、まさに二重の名優ぶりで、アカデミー賞の主演男優賞に輝いたのも納得できる。
 タイトルの『グッバイガール』は男にすぐ捨てられる女性のこと。

 

グッバイガール/The Goodbye Girl
1977 アメリカ/公開1978
監督:ハーバート・ロス
出演:リチャード・ドレイファス、マーシャ・メイスン、クィン・カミングス、ポール・ベネディクト、バーバラ・ローズ、テレサ・メリット、マリリン・ソコル