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『映画に溺れて』第442回 妖婆 死棺の呪い

第442回 妖婆 死棺の呪い

平成二十三年三月(2011)

渋谷 アップリンクファクトリー

 

 東日本大震災の直後、ひっそりと静まった夜の渋谷、アップリンクで観たのが『妖婆 死棺の呪い』である。

 神学生が帰省の途中で立ち寄った村で、一夜の宿を頼んだ農家。そこの老婆が夜中に彼に迫って馬乗りになり、そのまま空に舞い上がる。老婆の手にはホウキ。魔女そのもの。野原に降り立つと、彼はあまりのおぞましさに老婆を思い切り叩きのめす。

 すると、老婆はいつしか若い娘に変身して、これが虫の息。大きな胸がどっくんどっくん、なんともエロチック。禁欲家の彼は魔女の色香に興味を示さず、命からがら、教会に逃げ込む。そこへ大地主のところから、彼を名指しで娘が何者かに殴り殺されたので、通夜をして祈ってほしいとの依頼。

 断れずに行ってみると、棺には老婆が変身した例の娘の死体。夜がふけて、村人たちは彼ひとりをそこに残して出て行く。とたんにむっくりと起き上がる娘の死体。

 信仰あつい彼は聖なる円を描いて、その中で祈り続ける。その円がある限り魔物は近づけず、娘には彼が見えない。

 二日目の夜、娘の死体はまた彼を襲おうとするが果たせず、とうとう三日目。その夜は、地獄の魔物たちがぞろぞろ這い出し、彼を取り囲むが、やはり、魔物たちには彼が見えない。

 そのとき、娘が言うのだ。ヴィイを連れて来て。

 化物の群れの中にぬうっと現われるヴィイ

 ユーモアと恐怖。

 原作はゴーゴリの短編『妖女(ヴィイ)』で、創元推理文庫怪奇小説傑作集』の中にあったのを高校生のときに読んだ。水木しげるの漫画にもなっている。

 お通夜で死んだ老婆がむっくり起き上がるのは上方落語の『七度狐』、化け物たちに姿が見えないのは怪談『耳なし芳一』、信仰が幽霊から身を守るのは『牡丹燈籠』を思わせる。

 

妖婆 死棺の呪い/ВИЙ

1967 ソ連/公開1985

監督:コンスタンティン・エルショフ

出演:レオニート・クラヴレフ、ナターリヤ・ヴァルレイ、ニコライ・クトゥーソフ