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『映画に溺れて』第455回 2番めのキス

第455回 2番めのキス

平成十八年十月(2006)
飯田橋  ギンレイホール

 

 ファレリー兄弟のラブコメディ『2番目のキス』に描かれたレッドソックスのファンというのは、日本でいえば、さしずめ大阪の阪神タイガースファンなのだと思う。
 ベンは三十過ぎで独身の数学教師。過剰なユーモアのセンスがあり、常に口からジョークが飛び出し、生徒には人気がある。これもまた、大阪人に近い。そんな彼が恋したのが大企業に勤める上昇志向のビジネスウーマン、リンジー・ミークス。そして意外やふたりの恋はうまくいくのだ。
 両親に紹介したいと復活祭に実家に誘うリンジーに、ベンは先約があると断る。その日はレッドソックスのトレーニング試合があってフロリダに行くからと。
 関係者なのかと聞かれてベンは告白する。そうならうれしいが、子供の頃からレッドソックスファンで、あまりに熱狂的すぎて、女性には相手にされず、ずっと独身だったのだと。リンジーは納得するが、ベンは彼女の想像以上のフリークだった。
 リンジーは仕事に熱中し昇進する。商用でパリに行くことになり、いっしょに行こうとベンを誘うが、どうしても見逃せない試合があるからと断られる。パリよりも試合が大事なのか。そしてふたりの仲は気まずくなり、結局別れることになる。
 いいんだ。自分にはレッドソックスがある。それを聞いた生徒が言う。先生は間違ってるよ。先生がいくらレッドソックスを愛しても、レッドソックスは先生を愛してくれるの。
 ベンは初めて気づく。自分が愛し、相手も愛してくれる。それはリンジーだけだと。そして野球の試合を見ないで、彼女とパーティに行く。野球がなくても、彼女といれば幸せなのだ。だが、彼が初めて試合を見に行かなかったその日、レッドソックスは野球史上まれな逆転勝利をおさめる。そして彼は幸せ気分の彼女に試合を見られなかった不満をぶちまけ、取り返しのつかない破局を迎える。
 ふたりの間に奇跡的な逆転ホームランはあるのか。
 野球のことなど、ほとんど知らない私が、こんなに楽しめた野球映画、ほんとに幸せな気分になれる一本である。

 

2番めのキス/Fever Pitch
2005 アメリカ/公開2006
監督:ピーター・ファレリー、ボビー・ファレリー
出演:ドリュー・バリモア、ジミー・ファロン