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大河ドラマウォッチ「青天を衝け」 第35回 栄一、もてなす

 アメリカの元大統領、グラント将軍を、国を挙げて、もてなすことになりました。民(みん)の力を見せつけてやると、栄一(吉沢亮)たちは大はりきりです。

 築地の大隈邸に、栄一の妻の千代(橋本愛)と、喜作(高良健吾)の妻の、よし、がやって来ます。待っていたのは、井上馨(福士誠治)の妻の武子(たけこ)(愛希れいか)などでした。大隈の妻の綾子(あやこ)(朝倉あき)は武子が、井上と共にヨーロッパを回って、帰国したばかりだと説明します。

 日本が一等国を目指しているこの頃、アジアでは、ヨーロッパ各国による、植民地支配が強まっていました。

 グラント将軍の来日三ヶ月前、栄一は男たちにいいます。

「俺は民部公子とパリに行ったとき、文明の差を、嫌というほど思い知った。今度は、今の日本が、いかに西洋に追いついているのか、見せつけなくてはならない」

 男たちはグラント将軍のもてなしに対して、次々にアイデアを出していきます。流鏑馬(やぶさめ)や歌舞伎など。場所は上野公園が良いと栄一が提案します。

 一方、女たちは武子が教師役になって、あいさつの仕方から学んでいきます。歯を見せて笑顔をつくることに始まり、シェイクハンドやハグなどを教えられます。困惑する女たちに、綾子がいいます。

「慣れましょう。野蛮国と思われぬためにも、いかに私たちがふさわしい振る舞いをするかにかかっております」

 しかし女たちは、マナーの練習をそっちのけで、おしゃべりに熱中していきます。

 東京府民からも、もてなしのためにと、予想以上に寄付金が集まっていました。日本が世界に並び立つことになることを、人々も期待しているのです。

 そして七月、グラント将軍一家が横浜に到着します。

 郵便汽船三菱会社では、岩崎弥太郎(中村芝翫)が部下たちに活を入れていました。

「ええか、おまんら。あいつらがアメリカ騒ぎにうつつを抜かしちょる、今が好機や。船を増やしや」

 栄一は、皆を代表し、グラント将軍に歓迎文を読み上げます。

 グラント将軍をもてなすため、夫人同伴の夜会が催されることになりました。武子と娘の末子は洋風のドレスを身につけます。

 楽団の奏でる音楽に合わせ、ダンスが始まります。夜会は盛り上がりますが、ジュリア夫人が足を虫に刺され、席を外します。心配になってやって来たグラント将軍と栄一は話します。

「私はもはや大統領ではないのだ。これほど大がかりにもてなされても、日本の期待に応えるようなことなど、何もできない」

 栄一は邸宅に帰ってきて、千代に打ち明けます。

「グラント将軍が我が家に来たいとおっしゃっている。西洋では、大切な客を、個人の家庭で招いて、もてなす風習があるんだ。それで、接待委員代表の家ならば、しごく都合が良いだろうと。あさって来ることになった」

 栄一は困惑します。飛鳥山に新しい家を建てていますが、母屋ができたばかりで、庭も整備されていません。しかし千代は落ち着いています。

「なんという僥倖(ぎょうこう)でございましょう。あれほどのお方を家でお迎えできるとは、こんな光栄なことはございません」

 といい、娘たちにテキパキと指示を出すのです。

「ぐるぐるいたします」

 と、栄一を取り残し、千代は準備に励むのでした。

 千代たちは、飛鳥山の新居を大急ぎで整え、グラント一行を迎える準備をしました。

 栄一は千代と話します。

「俺は、パリで受けたどんなもてなしより、ポトフを覚えている。豪華なもてなしは確かにありがたい。しかし、遠い異国の地で、まことのもてなしというのは、結局、俺は、人のあったけえ心なんじゃねえかと思う」

 グラントの一行が、飛鳥山の渋沢邸に到着します。まず栄一の子どもたちが歓迎の歌をうたいます。そして庭にて、踊りや撃剣(げきけん)が披露されます。相撲にはグラント将軍も大興奮です。栄一の隣に立つ伊藤博文(山崎育三郎)がいいます。

「じゃがここまでしてグラント将軍を歓迎することに意味あったのかのう。岩倉様や井上さんは、はしゃいどるが、イギリスのパークスは、グラント将軍の来日を白い目で見ちょる。フランス、ドイツ、ロシアもしかりじゃ。アメリカ一国の、しかも今や、大統領でもないもんをもてなしたところで、なんも変らんのじゃなかろうか」

 相撲が終わったところで、喜作とよしが、煮ぼうとうをごちそうすると宣言します。グラント将軍が席に着くと、喜作が話します。

「旅で各国の上品なものばかり食べて、舌も疲れているであろう」

 グラント一行は、煮ぼうとうが気に入った様子でした。千代は皆にもほうとうをふるまいます。男たちを前にして、グラント将軍は語ります。

「今回、アジアを回って気付いたことがある。近年、アジアで、ヨーロッパの影響力が強まっている。そして何億人もの、それぞれの文明を持った人々が、西洋人でない故に、軽んじられ、権利を無視されている。日本は今、欧米に肩を並べようとしている。しかし覚えておいたほうがいい。多くの欧米人、特に商人は、日本が対等になることを望んでいない。このまま、アジア人を働かせ続け、利益を得たいのだ。日本が独立を守り、成長するのは大変なことだ。しかし」グラント将軍は日本語でいいます。「私は願っています。それが、成功することを」

 それを聞いて井上や伊藤は握手を求めます。栄一の番になったとき、グラント将軍はいいます。

「接待する側のあなたがたに、ひとつお願いがある」

 と、栄一に相撲を取ってくれるように要求するのでした。

 歓迎会は大成功しました。

 夜、くつろいで浴衣に着替えた栄一は、千代にいいます。

「お千代。おめえはすげえ。今までも何度も、お千代をめとって、俺は敵なしと思ってはいたが、今回はまことにたまげた。お千代は、世界に冠たる、おなごだ。極上だ。欠けがえのねえ奥様だで」

「あれまあ、もったいねえお言葉を次々と」

 栄一は千代を抱きしめ、いいます。

「どうしてもいいたくて、いいたくて仕方ねえ。惚れ直した。ありがとう、お千代」

 二ヶ月の滞在を終え、グラント将軍は帰国しました。そして、日本が国力を高めることに力を注ぐ中、政府の保護の元、海運業を独占したのは、三菱でした。

「さあ、祭りは終わりや」岩崎弥太郎はうそぶきます。「今、ウチのほかに、日本に船はないろ」

 岩崎は大隈にいいます。

「国家財政多難な今、まだまだ、この日本を豊かする、見込みのある地は残っちょります」

 そう岩崎は、地図を指し示します。

「北海道か」大隈は顔をしかめます。「ここは駄目じゃ。薩摩ん黒田が、十年も前から開拓に入って、年百万もの金(かね)ばつぎ込んどるっちゅうのに、満足でくっほどに成果ばあげとらん」

「薩摩の某(なにがし)と、この岩崎を一緒にされたち困る。わしやったら、どんな土地やち、宝の地にすることができるの。ぜひとも北海道は、この岩崎めにお預けを」

 政府に対する不満が、人々の間で高まるにつれ、政治への参加を求める「自由民権運動」が、激しくなっていきました。

 井上が伊藤に話します。

「大隈さんはがんばっちょる。じゃが、あの手この手とやっても、物価の高騰(こうとう)がひどうなるばかりじゃ。民権家が政治に口を出そうと勢いづいちょるのもそのせいじゃ。大隈さんは、財政を一手に握っとるからちゅうて、やりたい放題が過ぎる。おかげで三菱が増長しとる」

 伊藤がいいます。

「あの減らず口には、今まで大いに助けられたんじゃが、この先は、かえって邪魔になるかもしれんの」

 第一国立銀行にいる栄一のもとに、三井物産の益田孝(安井順平)と実業家の大倉喜八郎(岡部たかし)の二人が訪れます。益田は栄一に頭を下げます。

「渋沢さん。三菱をどうにかしてください。わが三井は、海運会社を潰されたあげくに、今度は船賃まで値上げされて、物産業までやられている」

 大倉もいいます。

「地方では、海運会社も次々と潰している。あくまで、おのれ一社で、この国の経済を動かそうとしているんですよ」

 栄一がいいます。

「岩崎さんは、合本(がっぽん)主義を憎んでるんだ。しかし、三菱の一人勝ちは、国のためにも打破せねばならない。我々も、合本による新たな船の会社をつくろう。三菱と、真っ向勝負をするんだ」