日本歴史時代作家協会 公式ブログ

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大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第25回 天が望んだ男

 頼朝(大泉洋)は夢を見ていました。お経が聞こえるので行ってみると、遺体を囲んで、政子をはじめとする北条の者たちが座っていました。そして遺体は、頼朝自身だったのです。

 建久九年十二月二十七日。頼朝に死が迫っていました。

 頼朝は弟で僧侶である阿野全成新納慎也)に相談します。

「毎晩同じ夢を見る。今日も、昨日も、おとといも」

「気にされることはないかと」

 と、全成はいいます。

「まだ死にとうない」頼朝はすっかり気落ちした様子です。「どうすれば良い」

 全成は語り始めます。平家の使っていた赤は遠ざける。久方ぶりの者が訪ねてくるのは良くないことの兆し。ご自分に恨みを持つ縁者には気をつける。昔を振り返るな。仏事神事は欠かさぬこと。赤子を抱くと命を吸い取られる。頼朝は全成ににじり寄って、それらを聞くのでした。

 しかし全成は妻の実衣(宮澤エマ)に、でまかせだったことを打ち明けます。

「何かいわないと、兄上も引き下がらないだろう」

 北条一門は、相模川で供養を行おうとしていました。

「わしも行かねばならんのか」

 と、頼朝は乗り気ではありません。しかし頼朝は「仏事神事は欠かさぬこと」との全成の言葉を思い出すのです。頼朝は義時(小栗旬)を見つめます。

「小四郎、北条は信じて良いのか」

「もちろんです」

 と、義時は答えます。頼朝は苦悩の表情で義時から視線をはなします。

「近頃、誰も信じられん。比企のこともある。範頼を焚きつけたのは、比企という噂も聞いた。もう誰も信じられん」

 比企能員佐藤二朗)や大江広元栗原英雄)らが、これからの鎌倉について話し合っていました。大江が、頼朝は、代々源氏の血筋で鎌倉殿を継がせていくつもりのようだ、と、発言します。比企がいいます。次は若君(源頼家)(金子大地)。その次は一幡(いちまん)様か。頼朝が元気なうちに決めておいた方が良い。

 そこへ頼朝が入って来ます。

「何の話だ」

 と、問う頼朝に、三善康信小林隆)が答えます。

「鎌倉殿を先々、どなたが継いでいかれるか」

 頼朝は声を荒げます。

「わしに早くあの世へ行けと申すか」

 義時は頼朝の息子である頼家に相談を受けます。頼家は比企の一族である、せつ、との間に、一幡という男子をもうけていましたが、ほかに妻として迎えたい女性がいるというのです。つつじといって、源氏の血を引いています。

 この場に義時は頼朝を連れてきます。

 怒鳴りつけるのかと思いきや、相手が源氏の血を引いていると知った頼朝は、

「それが真(まこと)なら、まさに好都合。その娘を、そなたの妻とし、比企の娘を、側妻(そばめ)とする」

「よろしいのですか」

 と、問う安達盛長(野添義弘)に、頼朝はいい放ちます。

「相手は源氏の血筋。比企に文句はいわせん」頼朝は頼家に向き直ります。「おなご好きはわが嫡男の証(あかし)だ。頼もしいぞ」

 頼朝は頼家の肩を叩くのでした。

 稲毛重成(村上誠基)の妻は北条時政の四女でした。三年前に病でこの世を去っていました。相模川にかかるこの橋は、重成が亡き妻の供養のために造ったものでした。

 北条の者たちを迎えようと準備をする畠山重忠中川大志)に、義時の息子である頼時(坂口健太郎)がいいます。

「考えたんです。御家人の中で一番は誰なんだろうって。腕っ節の強さでは、和田義盛横田栄司)殿。知恵が回るのは、梶原景時中村獅童)殿。人と人をつなぐ力は、私の父。しかし、すべてを兼ね備えているのは、畠山殿だと私は思います」

 どうやら頼時は、畠山に心酔しているようです。

 橋の供養に、頼朝もやって来ます。

 北条の一族は餅を丸め始めます。仏事で皆が集まると、いつもすることでした。

 頼朝はぼんやりと庭をながめていました。そこへ時政の妻である、りく(宮沢りえ)がやって来ます。りくは聞きます。

「鎌倉殿は、いずれ京へ戻られる」

「そう思ったこともあった。しかし朝廷は、いつまで経っても我らを番犬扱い。顔色をうかがいながら、向こうで暮らすより、この鎌倉を、京に負けない都にすることに決めた」

 しかし、りくはいうのです。

「いけません。あなた様は今や、日の本一の軍勢を持つお方。そのお力を持ってすれば、朝廷だっていうことを聞きましょう」

「そうたやすくはいかん」

 りくは、着物の袖(そで)で口元を隠し、ささやきます。

「臆病なこと」

「今、何と申した」

「野山の鹿を追うのに、足が汚れるのを嫌がる犬のよう」

 りくが笑い、頼朝も笑います。

「都人(みやこびと)は脅しだけでは動かぬ。あなたもご存じではないか」

 頼朝が、りくを見つめます。りくはなんと、頼朝に手を重ねるのです。

「りくは、強いお方が好きなのです」

 頼朝はあたりを見回してからたずねます。

「時政は、わしのことをどう思っておる。わしを殺して、鎌倉をわがものにしようと考えておるのではないか」

「そんな大それたこと、考えてくれたらうれしいのですが」

 りくは手を放します。そこへ時政がやって来ます。りくは立ち去るのでした。時政は酒を持っています。出来上がったばかりの餅を頼朝に勧めます。時政はしゃべります。

「政子に感謝しとるんです。いい婿と縁づいてくれたなあって」

 頼朝は餅をのどに詰まらせるのでした。慌てた時政は人を呼びます。皆が駆け付けます。義時が背中を強く叩くと、頼朝は餅を吐き出します。

「死ぬかと思った」

 と、頼朝は声を出すのでした。

 頼朝は政子と森の中にやって来ます。

「時政がいなければ、どうなっておったか」

 そういう頼朝に、政子が話します。

「父はいざという時に役に立つんです」

「持つべきものは、北条だな」

 義時が水を持ってやって来ます。

「良い折りだ。お前たちにいっておくことがある」頼朝は立ち上がって、義時と政子を見つめます。「頼家のことだ。わが源氏は、帝(みかど)をお守りし、武家の棟梁(とうりょう)として、この先百年も、二百年も続いていかねばならん。その足がかりを頼家がつくる。小四郎、お前は常に、側(そば)にいて、頼家をささえてやってくれ。政子も、これからは鎌倉殿の母として、頼家を見守ってやって欲しい。お前たちがいれば、これからも鎌倉は盤石(ばんじゃく)じゃ」

 政子がいいます。

「まるでご自分はどこかへ行かれてしまわれるような」

 頼朝は微笑んで歩き出します。

「わしは近々、頼家に、鎌倉殿を継がせて、大御所となる」

「大御所になられてどうされるのですか」

 と、義時が聞きます。

「さあ、どうするかのう」頼朝は振り返ります。「船でも造って、唐(から)の国に渡り、どこぞの入道のように、交易に力でも入れるかのう」

 頼朝は笑い声を上げます。政子が去って行きます。頼朝は義時にいいます。

「小四郎。わしはようやく分かったぞ。人の命は定められたもの。抗(あらが)ってどうする。甘んじて受け入れようではないか。受け入れた上で、好きに生きる。神仏にすがって、おびえて過ごすのは時(とき)の無駄じゃ」

 義時がいいます。

「鎌倉殿は、昔から、私にだけ、大事なことを打ち明けてくださいます」

 頼朝は大きく息を吐きます。

「今日は疲れた。わしは先に御所に戻る」

 頼朝は安達盛長と二人、森の中の道を行きます。安達がいいます。

「こうして、鎌倉殿の馬を引いて、歩いておりますと、伊豆の頃を思い出します。いろいろございましたな」

 頼朝は馬上から声をかけます。

「そなたといると、いつも心が落ち着く」

 安達は馬を止めて頼朝を見上げます。

「何よりの、お褒めの言葉にございます」

 頼朝は思い出話をしようとしますが、体が硬直してうまくいきません。やがて木々が迫ってくるように感じ、馬から落ちるのでした。