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『映画に溺れて』第515回 用心棒

第515回 用心棒

昭和五十三年十一月(1978)
大阪 阿倍野 アポログリーン

 

 私は三船敏郎が大好きだ。三船といえば黒澤明、『七人の侍』は映画として文句なしに最高である。が、異彩を放つキャラクターといえば『用心棒』の浪人だろう。
 すさんだ宿場町にふらりと現れた流れ者の浪人。風体はむさ苦しく、どこかとぼけた感じ。入った居酒屋で亭主から町の様子を耳にする。
 かつては絹の市で栄えたこともあり、名主の絹問屋と馴れ合った博徒の清兵衛一家が町を牛耳っていた。今では跡目争いの不満から独立した丑寅一家が力をつけて、ふた組の博徒がいがみ合い一触即発。それを目当てに凶状持ちやならず者が集まり、おかげで町は寂れ、堅気の衆はまともに暮らせない。
 浪人はにやりとして、気に入った。この町では人を斬ると金になるようだ。悪党どもをみんな殺せば、町は平穏になるぜ。
 まず、清兵衛一家に用心棒として売り込む。名を聞かれ、外に広がる桑畑を見て、桑畑三十郎と名乗る。そろそろ四十郎だがな。
 三十郎はそれぞれの一家を操り煽り、博徒たちはまんまと乗せられ、いよいよ殺し合い。が、そこへ丑寅の弟の卯之助が旅から帰ってくる。一見優男ながら、凶悪でずる賢く頭が切れる。こいつが三十郎の前に立ちはだかる。
 丑寅三兄弟が山茶花究加東大介仲代達矢。清兵衛夫婦が河津清三郎山田五十鈴。居酒屋の亭主が東野英治郎。出入りの前にこっそり逃げ出す用心棒が藤田進。
 翌年、同じ浪人を主人公に『椿三十郎』が作られた。三船演じる浪人のキャラクターはその後、岡本喜八監督『座頭市と用心棒』や稲垣浩監督『待ち伏せ』にも登場する。
 イーストウッドをスターにした『用心棒』の模倣作『荒野の用心棒』は有名だが、リメイクではウォルター・ヒル監督の『ラストマン・スタンディング』が私は好きだ。禁酒法時代のテキサスの寂れた町が舞台だが、原作を忠実に置き換えている。

 

用心棒
1961
監督:黒澤明
出演:三船敏郎仲代達矢山田五十鈴司葉子、土屋嘉男、東野英治郎志村喬加東大介藤原釜足河津清三郎、太刀川寛、夏木陽介、沢村いき雄、渡辺篤、藤田進、山茶花究西村晃加藤武中谷一郎堺左千夫、清水元ジェリー藤尾、佐田豊