大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第37回 オンベレブンビンバ
書庫で、義時(小栗旬)たちが、訴訟について話し合っていました。そこへ北条時政(坂東彌十郎)がやって来ます。
「なぜわしを評議に呼ばん」
義時が答えます。
「私が呼ばなくて良いと申しました」
「訴訟は鎌倉殿に代わって、執権(しっけん)のわしが裁く。そうじゃねえのか」
「これは、執権殿あての訴えではございませぬゆえ」
「なんだと」
「これも、これも、これも」
三善信康(小林隆)が言葉を継ぎます。
「すべて尼御台(あまみだい)(北条政子)あてに届いたものにございます。先の恩賞の沙汰を尼御台が行ってから皆、政(まつりごと)の仕組みが変わったと、悟ったようです」
「このこと、すでに鎌倉殿もお認めにございます」
時政は立ち上がります。
「勝手にせい」
時政は妻の、りく(宮沢りえ)と話します。りくが興奮していいます。
「実の父をないがしろにするとは何事(なにごと)ですか。しい様(時政)は執権ですよ。何様(なにさま)のつもり」
「わしを厄介払(やっかいばら)いしたいらしい」
「しい様。小四郎(義時)を許してはなりません。あの者たちに思い知らせてやりましょう」
「ああ」
「正念場(しょうねんば)でございます」
「これから話すこと、心してお聞き下さい。実朝(さねとも)様には、鎌倉殿を降(お)りていただきます」
「何」
と、さすがの時政も声をあげます。りく、は続けます。
「そして、わが婿殿(むこどの)に、跡を継いでもらうのです」
「平賀(ひらが)殿に」
「あのお方も源氏の血筋、何もおかしなことはありませぬ」りく、は時政に近づきます。「政子から力を奪い取ってしまうのです。そして、平賀殿の跡は、菊が生んだ子が継ぐ。そうすれば、私たちは鎌倉殿の祖父と祖母」
「そうなるな」
「成り行きによっては、政子と小四郎(義時)を討つことになるやも知れません。その覚悟はおありですね。向こうも同じことを考えているかも知れないのですよ。きっと、政範(まさのり)の魂が見守ってくれています。志(こころざし)半(なか)ばでこの世を去ったあの子のためにも、何としても成し遂げて下さいませ」
「実朝(さねとも)は鎌倉殿には向いておらん。おとなしすぎてあれでは、まわりのものが調子に乗るばかりじゃ」
三浦がいいます。
「威勢が良すぎて、つぶれていったお方もおりますが」
「力になってくれんか」
と、親しげに時政は三浦のそばにしゃがみます。りくがいいます。
「実朝様を引きずり下ろし、平賀殿を鎌倉殿に」
京にいる平賀朝雅(ひらがのともまさ)(山中崇)は、ある僧に打ち明けます。
「昨日(きのう)、執権殿より文(ふみ)が届いた。こんな時にわしは、鎌倉殿などなりとうない。恐ろし過ぎるわ。乗るわけがなかろう。鎌倉でこの先、何が起こるか全く読めん。ひとつ手を間違えると、命取りぞ」
鎌倉では実朝が、気晴らしに、和田義盛(横田栄司)の館を訪ねていました。
時政は三浦義村を呼び出しています。
「今宵(こよい)、鎌倉殿の身柄を、この館へお移しする。御所では人目があるゆえ、こちらにて、出家する旨(むね)の起請文(きしょうもん)を書いていただく。しかるのち、平賀朝雅殿を新しき鎌倉殿とする。さすればもはや政子も小四郎(義時)も、政(まつりごと)には口を出せん」
三浦が帰った後、りく、が浮かれた様子で、時政に話します。
「あとは鎌倉殿を、こちらへお迎えし、一筆書かせれば万事めでたし。あなたを軽んじた者たちの、慌てふためく顔が目に浮かびます。ようやく鎌倉があなたのものに」りく、は時政の前に座ります。「浮かぬ顔の訳を聞かせて下さいな」
「そう見えたか」
「まさかこの後に及んで、怖(お)じ気(け)づいたとはいわせませんよ」
「とっくに腹はくくっておる。りく、わしゃのう、望むものはもうない」
「何を申されます」
「わしにとって一番の宝はお前じゃ。お前の喜ぶ顔をそばで見られたらそれで満足。あとは何もいらん」
「だったら、もっと、りくを喜ばせて下さいな。りくは強欲にございます」
「よう分かった」
時政はりくを抱きしめるのでした。
義時は、三浦から、事の次第を聞かされます。
「父上も愚かなことを考えたものだ」
三浦がいいます。
「どうせあのおなごの手引きだろう」
「それにしても、平賀殿というのは」
「正気の沙汰ではない」
「よくまた裏切ってくれたな、平六(三浦義村)。礼をいう」義時は三浦に向き直ります。「このこと、私は知らなかったことにする。お前はそのまま、父上にいわれたとおりに」
「わかった」
義時は、このことを政子に伝えます。政子は興奮していいます。
「これはもう謀反ではないですか。あり得ない。今すぐやめさせて」
義時がいいます。
「父上には、誰の目にも明(あき)らかな謀反を起こしてもらわなければなりません。さもなくば、われらが信(しん)を失います。それゆえ、しばらく泳がせておくことに」
「鎌倉殿が危ない目にあうことはないでしょうね」
そこへ陽気な様子で、時政がやってくるのです。手には酒を持っています。北条の一族がそろいます。大姫の唱えていた呪文などを思い出し、一同は笑いあうのです。
和田の館に遊びに来ていた実朝に、鎧を着た家人と共にやって来た三浦義村が述べます。
「この先は三浦がお連れいたします」
実朝は困惑します。
「どういうことだ」
三浦は答えます。
「執権殿がひどく心配されております。参りましょう」
実朝は三浦に従うのでした。
「一行は、御所へは戻らず、別の方角へ消えていった」
義時はその方角を当てて見せます。そちらに時政の館があったのです。
「兵を出す」
と、義時はいいます。
時政は実朝を上座に置いて頭を下げます。
「わが北条館(やかた)へ、ようこそお越し下さいました」
実朝がたずねます。
「これは、どういうことか」
義時の所へ時房(瀬戸康史)がやって来て述べます。
「三浦から知らせが。鎌倉殿は、北条館で、父上に押し込められているご様子」
政子がいいます。
「こんな企(くわだ)て、無謀すぎますよ。なぜ父上はそのことに気付かないのでしょう」
義時がいいます。
「父上は気付いておられます。昼間、なにゆえ父上が皆を集めたとお思いですか」
政子がつぶやくようにいいます。
「お別れをいいたかったんでしょう。事と次第(しだい)によっては、わたくしたちを殺すつもりなのではないかしら」
義時が首を振ります。
「逆です。父上は、この企てがうまくいかないことを、見越しておられる。りく殿のいうとおりにすれば、必ず行き詰まる。しかし、父上はあえてその道を選ばれた」
時政は実朝の前に紙を置きます。実朝はいいます。
「書くことは、できぬ」
時政は実朝に近づきます。
「お願いいたしまする」
その頃、義時は立ち上がって皆に叫んでいました。
「執権北条時政謀反。これより討ち取る」
政子が義時に追いすがります。
「命だけは助けてあげて」
「それをすれば、北条は身内に甘いと、日の本中から誹(そし)りを受けます。こたびの父上の振るまい、決して許すわけにはいきませぬ」
時政は、実朝に頭を下げていました。
「お願いでございます。鎌倉殿の起請文(きしょうもん)がねえと、じいは死ななくちゃならねえんです」
実朝はついに筆をとります。何と書けば、と時政に聞きます。時政はいいます。
「すみやかに出家し、鎌倉殿の座を、平賀朝雅殿に譲(ゆず)る」
実朝は筆を上げます。
「小四郎と相談したい。母上にも会わせて欲しい」
「なりません」
「ならば書けん」
時政は立ち上がります。刀を鞘から抜くのです。