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『映画に溺れて』第419回 Mr.インクレディブル

第419回 Mr.インクレディブル

平成十七年一月(2005)
新宿 新宿ピカデリー

 

 スーパーヒーロー同士が結婚し、生まれた子供たちにも特殊能力があるというのは『スカイ・ハイ』と同じ趣向だが、公開の時期はこちらの『Mr.インクレディブル』が少し早い。そして、アニメーションならではの面白さである。
 かつて、スーパーヒーローたちが人々を犯罪や災害から守っていたが、その活躍があまりに派手すぎて、公共物が破壊されたり、一般市民が巻き込まれて被害に遇ったりすることで、政府はヒーロー活動を禁じる法案を通過させる。
 十五年後、怪力のMr.インクレディブルことロバート・パーは保険会社の社員、伸縮自在のイラスティガールことヘレンはその妻で専業主婦、透明になる能力を持つ高校生の娘ヴァイオレット、猛スピードで走る小学生の息子ダッシュ、そして能力不明の赤ちゃん、みなスーパーパワーを決して発揮せず、平凡な一家としてささやかに暮らしている。
 だが、スーパーヒーローが一般市民として生活することは生易しいことではない。不満が募る中、ロバートはとうとう横柄なパワハラ上司に怒りをぶつけ、会社をクビになる。が、妻のヘレンにそのことを言い出せず、会社に行くふり。
 そんな彼に謎の組織から依頼がくる。孤島の研究所で開発中のロボットが制御不能で暴れているのを取り押さえてほしいと。
 妻に内緒でMr.インクレディブルとなり、孤島に向かうロバート。待ち受けているのは様々な発明で大富豪となったマッドサイエンティストのシンドローム。スーパーヒーローに憧れながらも特殊能力を持たず、スーパーヒーローたちを憎んでいた。
 夫の浮気を疑い、彼が会社をクビになったことを知ったヘレンもまたイラスティガールとなって孤島に向かう。ふたりの子供も密かに同行し、やがてそれぞれのスーパーパワーを合わせて悪に立ち向かう。ホームドラマとヒーローの組み合わせの妙。
『Mr.インクレディブル』の続編『インクレディブル・ファミリー』は第一作から十四年後に作られたが、前回の三か月後の設定になっているので年齢など変化なし。

 

Mr.インクレディブル/The Incredibles
2004 アメリカ/公開2004
監督:ブラッド・バード
アニメーション(声)クレイグ・T・ネルソンホリー・ハンター、スペンサー・フォックス、サラ・ボーウェル、サミュエル・L・ジャクソンジェイソン・リー

大河ドラマウォッチ「青天を衝け」 第19回 勘定組頭 渋沢篤太夫

 篤太夫吉沢亮)は一橋家の懐を豊かにするために動き始めました。良質の米を高く売り、火薬の製造を始めます。

 そして幕府にも、懐を豊かにしようとする男がいました。小栗忠順(上野介)(武田真治)です。

「フランスから軍艦を買うか。さすれば長州など一気に潰せる。時宜(じぎ)に応じて、薩摩も討ってしまえば、公儀に歯向かう大名はもうおるまい。日の本は、上様を王とする、一つの国となる」

 小栗の言葉に、トレビアン(すばらしい)と答える男がいます。目付の栗本鋤雲(池内満作)でした。

「今の上様はまさに王と呼ばれるにふさわしいお方。して、このフランスの誘い、どうなさる」

 栗本は小栗にフランス語で書かれた書類を差し出します。

「二年後のパリの博覧会か。むろん参加だ。今、公儀の懐は火の車。貿易によって利を得るため、世界に我が国の優れた産物を見せつけねばならぬ」

「されば、兵庫の港も急ぎ開きたいものですな」

「そのためにもコンパニーじゃ。横浜の港の失敗でようくわかった。交易で異国にいいようにされぬためには、公儀もコンパニーを持つのが肝要」

 ベルギーの地に薩摩藩士の五代才助(ディーンフジオカ)はいました。ベルギー国と、カンパニーの約定を結んだと上役に語ります。

「こいで薩摩の富国強兵はうまくいきもんそ。次は国父様に願い出て、再来年のパリん万国博覧会に、薩摩ん良か品をたくさん出そうちょ思っておりもす」五代はワインを口にします。「ほして、薩摩が幕府の先んゆくとじゃ」

 三者がそれぞれの政府を富まそうと懸命に励んでいくのでした。

 篤太夫は木綿の売買に苦戦していました。播磨の農村を訪ね、男たちに説明します。姫路の木綿は倍の値段で売られている。なぜなら姫路では領地でできた木綿を、一度城下に集め、そこでまとめて晒(さらし)にしたものを「姫路の木綿」として特産として売っているからだ。

「そこでだ」篤太夫は皆に呼びかけます。「俺は、一橋家で皆の木綿をまとめて買い入れようと思っておる」

 そして一橋家の木綿として、大仕掛けで売り出す。

「俺らが儲かるってことか」

 男の一人が聞きます。

「そうだ」

 と返答する篤太夫。男たちは大喜びです。

「一橋家が、今よりずっと高い値で買い付ける」

 と、篤太夫は声を張り上げます。ところが年かさの農夫が、皆の前に立ちふさがるのです。

「こないな口車に乗ったらあかん。お役人が、わしら百姓を儲けさせようなんて、思うはずあるかいな。そやろ」農夫は篤太夫に向き直ります。「どうせ百姓から絞れるだけ絞って、お家だけ儲けさせようとしてんのや」

 場は騒然とし、「信じてくれ」という篤太夫の言葉も通りません。

 その頃、海の上のイギリス船では、イギリス公使のパークスが、修好通商条約の実がないことにいらだっていました。

「日本との貿易で利益を出さねばならぬ。イギリス帝国の名にかけて」パークスはアーネスト・サトウらに命じます。「七日以内に帝(みかど)に条約を認めさせろ」

 将軍家茂(磯村勇斗)は大阪城にて、報告を受けていました。

「パークスは勅許(ちょっきょ)が取れねば公儀を無視して、じかに朝廷と話をすると申しております」

「しかし」家茂は苦しげにいいます。「天子様が今さら勅許などなさるはずがない」

「フランスはかばってくれんのか」

 と聞く者がいます。それに対して栗本鋤雲が答えます。

「申しはしましたが、エゲレスの新しい公使、パークスがまことに強硬なため、これ以上は守れぬと」栗本はここで声を張ります。「しかし僭越(せんえつ)ながら、まことに勅許など、入り用でしょうか。日の本を東照大権現様の御代(みよ)より長らく守ってきたのは公儀でございます。国の差配は公儀がするもの」

 それに老中の松前崇広と阿部正外も同意します。

「たわけたことを申されるな」

 と、いって入ってきたのは、一橋家の慶喜(草彅剛)でした。慶喜松前と阿倍の前に立って語ります。

「このように大きな事柄は、朝廷の勅許があってこそ治まる。その前提を無視されれば、国の根源が崩れますぞ」

 しかし一同に納得する様子は見られませんでした。

 慶喜は京の御所に来ていました。御簾(みす)の向こうの天子が慶喜に話しかけます。

慶喜よ。公儀が、朕の許しもなしに、港を開くつもりであるというのはまことか」

 慶喜は黙って頭を下げます。天子は嘆きます。

「お上を侮辱するとは許せん」というのは正親町(おおぎまち)三条実愛です。「勅許をいらぬというた老中の阿部、松前両名は、罷免させなはれ」

 慶喜は抗議しようとしますが、

「なんじゃ、不服と申すか」

 と三条ににらまれるのでした。

 大阪城ではこのことが報告されていました。松前、阿部を罷免するように朝廷からいってきている。将軍家茂は驚きます。

「これはすべて私の責。そなたらは私を助け、まことによくやってくれた。私の力が足りず」

「否(いな)」と声をあげたのは栗本鋤雲でした。「上様ゆえに、ここまでこられたのでございます。朝廷や一橋様がこうした挙に出るならば、ご先祖様への面目もなし」栗本は立ち上がって前に出ます。「かくなる上はすみやかに、征夷大将軍の大任を辞してはいかがでしょうか」皆が騒ぎます。「もし上様がお辞めになるならば、朝廷などどうせなにもできますまい。京だけで日の本を回せると思うなら、やってみたらいいのだ」

「いや」ため息をつくように家茂はいいます。「あるいは、一橋殿ならできるのかも知れぬ」皆の間に怒声が飛び交います。「もうよい。私はこれより、将軍職を一橋慶喜殿に譲り、江戸に戻る」

 このことを知った慶喜は家茂のもとに駆けつけます。深く頭を下げて慶喜はいいます。

「お待ち下され。勅許は、私が命をかけていただいて参りまする。それゆえ、どうか将軍職辞職は、思いとどまり下さい。今、旗本八万騎の臣下を動かしておられるのは、上様でございます。上様あってこそ臣下は懸命に励むのです。私が将軍になったところで、誰もついては来ぬ。国は滅びましょう」慶喜は顔を上げます。「将軍は、あなた様でなくてはならんのです」

 慶喜は御所に上がり、天子に言上します。

「公儀が調印いたした、条約の勅許をお願いいたしまする。勅許をいただけねば、兵隊は天子様もはばからず、京に入ることとなりましょう」

 公家の一人があきれたようにいいます。

「夷狄が御所に。そんなことがあってはならん」

 三条がいいます。

「何としてもお上は勅許いたしませぬ。こうなった責任を取り、将軍は辞職しなはれ」

 慶喜は三条に語りかけます。

「仕様軍を辞職されよとは、どなたのご意見か。それがしは、あなたのもとに薩摩の者どもが出入りしていることを存じておる。これほどの大事を誰かにそそのかされたとあっては」三条をにらみつけます。「そのままでは済ませぬぞ」慶喜は正面に向き直ります。「なるほど、これほど申し上げてもお許しがないのであれば、それがしは責を取り切腹いたす以外にございませぬ」慶喜は公家たちを脅します。「それがしも不肖ながら多少の兵を持っております。腹を切った後に家臣どもが、おのおの方にいかなることをしでかすかは、責めを負いかねますゆえ、ご覚悟を」

「人払いを」

 と、天子が声を出します。部屋から公家たちが下がっていきます。

「朕は、決して家茂や公儀を憎んではいない」天子は慶喜に語ります。「憎きは長州じゃ。いまだ降参せぬとはなにごとぞ。外国のことは、慶喜がそこまでいうのであれば、朕は、慶喜のいうことを、信じよう」

 幕府は、七年越しに修好通商条約の勅許を得ることができました。

 篤太夫は、疲れのあまり寝込んでしまった慶喜の代わりに、同僚の猪狩勝三郎(遠山俊也)に物産所の構想について語ります。農民から木綿をできるだけ高く買い取り、それをできるだけ安く売る。高く買い上げれば、農民たちはもっとよいものを作ろうとする。よい品が安いとなれば、必ずよく売れる。

「いったい何がいいたいのだ」

 と、猪狩は悲鳴にも似た声を出します。

「仁をもって得た利でなくては、意味をなさねえ。上に立つ者だけが儲けるなら、御用金を取り立てりゃ早い話です。しかし、それじゃあどん詰まりだ。誰かが苦しみ不平を持てば、そこで流れがよどんじまう」

 寝込んでいたはずの慶喜が通りかかり、篤太夫の話を聞いていました。話の続きを聞かせろというのです。

 篤太夫は、藩札の見本を慶喜に見せます。売り買いの流れをよくするために、これを作りたいのだと訴えます。

「信用」と篤太夫はいいます。「銀札をただの紙切れではなく、きちんと銭と思ってもらうのに入り用なのは信用だ。しかるに、一橋が責任を持ってこれを作り、これで木綿の売り買いをさせ、真心を持って、きちんと値うち通りの銀を支払えば、きっと商人も百姓も、これを信用し、大いに役立てるように」

 篤太夫は我に返ります。慶喜が理解していない気がしたのです。その通り、慶喜半分も話を聞いていませんでした。しかし篤太夫の顔を見て、少しばかり気鬱が直ったといいます。

「仁をもって為す、か」慶喜は藩札の見本を手に取って見つめます。「おぬしがまことに信用のできる札を作り、民をも喜ばせることができるというならば、ぜひ見てみたいものだ」

「必ずや、やって見せます」

 篤太夫は張り切っていうのでした。

 こうして篤太夫は、半年をかけて銀札引換所を設立。以前、口車に乗ったらあかん、といっていた年かさの農夫も、交換にやってきました。

「悪かったの。ひどいこというて」

 と、篤太夫に謝ります。

「これからも頼む、頼りにしてんだからな」

 と、篤太夫は気さくに農夫に肩を叩きます。

「おう、任せとけ」

 という農夫。

 一橋家は、額面通りの銀と引き換えたことで、広く信用を得ました。そして篤太夫は一橋家の勘定組頭に抜擢されました。慶喜からも言葉を賜ります。

「またたく間に一橋の懐が安定したと、京のみならず、江戸の家中も驚き、喜んでおる」

「これからが、腕の見せ所でございます」

 と、篤太夫は見得を切るのでした。

 成一郎(高良健吾)は、軍制所調役組頭に昇進していました。篤太夫と成一郎は、別々の場所で暮らすことになります。

「身分が上がったとはいえ、勘定方とはな」同情するように成一郎は篤太夫に話しかけます。「断れなかったのかい。せっかく武士になったというのに勘定もあるめえ。百姓や商人相手に金のことばかりこつこつやるんでは、村にいた頃と変わらねえ」

 篤太夫は笑い顔を見せます。

「まあ、俺もそうも思ったが、俺にはこっちの方が合ってるのかも知れねえ」

 成一郎は篤太夫に理解を示しません。

「俺は、命をかけて殿のために戦う」

「しかし死んじまったら何にもならねえ」

 二人は決裂します。成一郎が荷物を持って去ったあと、篤太夫は一人つぶやきます。

「道はたがえるが、互いに身締めて、一橋を良くすんべえ」

 この頃、薩摩は、朝敵である長州と、薩長同盟を締結しました。そして幕府は、いよいよ二度目の長州征討を始めました。しかし各地で幕府軍は苦戦を強いられたのでした。薩摩と長州が裏で手を組んでいるのかも知れない。そう結論づけた将軍家茂は、衝撃のあまり家臣たちの前で倒れ伏すのでした。

 

『映画に溺れて』第418回 バットマン リターンズ

第418回 バットマン リターンズ

平成四年八月(1992)
大阪 梅田 梅田東映パラス

 

 ティム・バートン監督の『バットマン』に続く『バットマン リターンズ』は、さらにバートン色の強い遊び心満載で、乳母車ごと捨てられた赤ん坊が川をどこまでも流れていくオープニングから引き付けられる。
 バートン監督の『バットマン』シリーズは残念ながら二作のみで、このあとに続く『バットマン フォーエバー』以後、私はどれもさほどいいと思わなかった。ジム・キャリーシュワルツェネッガーは好きだが、彼らの演じる薄っぺらな悪役には全然魅力が感じられなかったし、ジョージ・クルーニーも好きだが、あのバットマンもどうかと思う。強いて言うならバートン以後、唯一よかったのは番外編のホアキン『ジョーカー』だろうか。
 それはさておき、『バットマン リターンズ』には、コミック版の有名な悪役がふたり登場する。
 ダニー・デビート演じるペンギン。生まれてすぐ、その醜さから両親に嫌われ、川に捨てられ下水で育ったが、悪のサーカス団を率いてゴッサムシティに現れ、市長に立候補する。
 ミシェル・ファイファー演じるキャットウーマン。悪徳企業の社長秘書だったが、社長の悪事に気付いたため、ビルの窓から突き落とされ、生還して復讐鬼となる。
 そして、このふたりに絡むもうひとりの悪役、金儲けのために不要な原子力発電を推進しようとする悪徳企業の社長がクリストファー・ウォーケン
 ティム・バートンが描くバットマンは一般の正義の味方のような単細胞ヒーローではない。大富豪と怪人の二つの顔を使い分けてはいるが、かなり屈折したものだ。両親の死というトラウマを抱えたバットマンは二重人格者であり、一歩間違えれば、ハイド氏になりかねない。犯罪者ペンギンやキャットウーマンにより近い立場にあるのだ。
 マイケル・キートンが暗い影のあるバットマンを演じたのは、結局ティム・バートン監督の二作で終わる。その後、二十年の時を経て、俳優キートンは彼自身を当て書きにしたような『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』によって蘇る。

 

バットマン リターンズBatman Returns
1992 アメリカ/公開1992
監督:ティム・バートン
出演:マイケル・キートンダニー・デビートミシェル・ファイファークリストファー・ウォーケン

 

『映画に溺れて』第417回 ワンダーウーマン

第417回 ワンダーウーマン

平成二十九年七月(2017)
西新橋 ワーナーブラザース試写室

 

 マーベルがアベンジャーズを結成したのに対し、DCコミックスもまたスーパーマンバットマンたちをジャスティスリーグで集結させた。その中の紅一点がワンダーウーマンである。
 ベースはギリシア神話の英雄譚であろう。かつて神話のヘラクレスペルセウスは神々の王ゼウスが人間の王族の娘と交わって生まれた半神半人のヒーローだったのだ。
 ゼウスの息子である悪神アレスが父に背いて人間に争いの心を芽生えさせ堕落させる。ゼウスは人間界から隔絶した異界にアマゾネスの島セミッシラを創造し、アレスに対抗する。女王ヒッポリタの娘ダイアナは最強の戦闘能力を持つ戦士として成長した。
 ある日、ひとりの男がセミッシラに不時着する。異界の外は第一次世界大戦の最中であり、男は米軍スパイのトレバーだった。ドイツ軍の追跡をかわし偶然にも境界を飛び越えてしまったのだ。それを追って島に押し寄せるドイツ軍。アマゾネスとドイツ軍との壮絶な戦闘が繰り広げられる。多くの犠牲を出しながらも女たちは上陸したドイツ軍を全滅させる。
 外の人間界が戦争状態であるのは戦いの神アレスが力をふるっているからだ。ダイアナはトレバーとともにセミッシラをあとにし、海を渡ってロンドンへ赴き、第一次世界大戦を終息させようとする。休戦に反対のドイツ軍総監ルーベンドルフは強力な毒ガス兵器を開発し、一気に敵方ばかりか世界をも滅ぼそうと企てる。このルーベンドルフこそが、悪神アレスだと確信したダイアナはワンダーウーマンとなり、宝剣ゴッドキラーを手に、国境の塹壕を乗り越えて、最前線のドイツ陣営に迫る。
 第一次世界大戦塹壕を扱った映画は『西部戦線異状なし』から最近の『1917』までたくさんあるが、実際にスーパーヒーローが戦争に関われば、味方された側が勝利するに違いない。
 それにしても、ダイアナを演じる長身のガル・ガドット。セクシーな衣装と鍛え抜かれた肉体美の魅力にうっとりするばかり。

 

ワンダーウーマン/Wonder Woman
2017 アメリカ/公開2017
監督:パティ・ジェンキンス
出演: ガル・ガドットクリス・パインロビン・ライトダニー・ヒューストンデヴィッド・シューリスコニー・ニールセンエレナ・アナヤ

 

大河ドラマウォッチ「青天を衝け」 第18回 一橋の懐

 武田耕雲斎津田寛治)を首領と治した天狗党千人あまりが、慶喜(草彅剛)を頼り、京へと向かっていました。しかし慶喜は家臣にいいます。

「京を守るのが私の役目だ。天狗ども京に入れるわけにはいかぬ。私の手で、天狗党を討伐する」

 篤太夫吉沢亮)や成一郎(高良健吾)などの一橋の家臣たちに、出兵が伝えられます。篤太夫は集めた兵を連れることを命じられ、成一郎には別の任務が与えられます。

 元治元年十二月、一橋慶喜と弟昭徳(あきのり)の軍勢は、天狗党討伐のために、京を出発しました。篤太夫も鎧に身をかためています。

 成一郎は一人、越前の敦賀にやって来ていました。慶喜の密命を受け、天狗党の陣営に使者として遣わされたのです。幕府追討軍との戦い疲れ果てた天狗党の兵たちを成一郎は目撃します。成一郎は慶喜からの密書を耕雲斎に渡します。それは上洛をあきらめ、国元へ帰るようにと書かれていました。

「さもなくば追討の軍を指揮せねばならず、戦場で相まみえることとなろう」

 と、慶喜は結びます。これを読んだ天狗党結成者の藤田小四郎(藤原季節)は嘆きます。

「一橋様は、烈公のご意思を踏みにじるのか。烈公のご子息でありながら、国を思うわれらを切り捨て、身の安泰(あんたい)を図るとは、何という日和見(ひよりみ)の不孝者」

「ちがう」武田耕雲斎が声をしぼりだします。「わからんのか。われらが、これほどまでに一橋様を、追いつめてしまったことを」耕雲斎は首を振ります。「もはやこれまでじゃ」

 翌日、武田耕雲斎は使者である成一郎と落ち着いて話しをします。

「ご公儀に下られるとのこと、承(うけたまわ)りました」

 と、成一郎は耕雲斎に頭を下げます。耕雲斎は力なくいいます。

「主君とも等(ひと)しき一橋様や、昭徳様に敵することは、決して望まぬ」

 横から小四郎が口を出します。

「そんなことどうでもいい。俺たちは、ただ負けたんだ」

 うつむく耕雲斎。成一郎が小四郎に対します。

「一橋様も、原市之進様も、他の国による討伐だけは避けたいと、案じておられた」

 陣にいる篤太夫は兵を下げることを命じられます。京の情勢もいまだに不穏なため、慶喜は戻らなければならないのです。篤太夫の初陣(ういじん)は、戦うことなく終わったのでした。

 京に帰った慶喜は、天狗党討伐総督である田沼意尊に述べます。

天狗党の反乱は、いわは水戸の身内の戦い。武田耕雲斎らは、できればこちらで引き受けたい」

「天下の公論もございますゆえ、それはできかねます。こちらで引き取り、公儀にて公平な処置をいたしますゆえ、どうかお任せいただきたい」

 慶喜は田沼のその言葉を信じます。

 しかし武田耕雲斎や藤田小四郎をはじめとする三百五十二人は首をはねられたのでした。

 成一郎が篤太夫にこのことを話します。

「なぜだ。なぜそんなむごいことになった。いくさは終わったでねえか」

 篤太夫が言い終わらないうちに、成一郎が大声を出します。

「幕府にあなどられたんだ」成一郎は座り込みます。「一橋家は今、満足な兵もいねえ。しかし天狗党を生かしておけば、いずれ殿がそれを取り込み、幕府を潰す火種になると考え、皆殺しにしたんだ」

「そんなことのために、国を思う者を無駄死にさせるとは」

「俺は見たんだ。あの誇り高きはずの水戸の兵が、飢えて痩(や)せ細り、寒さにガタガタと震えておった。あれが、俺たちの信じた攘夷のなれの果てだ。俺は」成一郎は立ち上がります。「攘夷などどうでもいい。この先は殿を、一橋を守るために生きる。おめえはどうする」

 篤太夫は答えることができませんでした。

 江戸城では将軍家茂(磯村勇斗)が、勘定奉行小栗忠順(上野介)(武田真治)と会っていました。小栗はフランスと組んで幕府を強化しようとしていました。フランス本国から陸軍教師を招き、幕府軍を西洋のように変革することも進言します。

「ぜひとも頼みたい」

 将軍家茂はうなずいていうのでした。しかし金が、と老中の阿部正外がいいます。そのことも小栗はいます。幕府を富ませるため、フランスとコンパニー設立の策を練っているというのです。

「二百五十年あまり、代々ご公儀のご恩をこうむってきたそれがしには、その恩も忘れ暴れ回る長州や薩摩、また京の朝廷が許せません。その者どもの動き、封じてしまいましょう」

 その頃、篤太夫慶喜に提言していました。

「先日、関東より兵を連れ戻りましたが、平岡様のお望みだった、殿に十分なお役目を果たしていただくための数には、まだ、到底満たぬと思われます。新たな歩兵の組み立てと、その兵を集める御用を、なにとぞ、それがしに仰せ付けいただけぬでしょうか」篤太夫は顔を上げます。「薩摩や、ご公儀にもあなどられぬ歩兵隊をおつくりいたしたいのです」

 慶喜は答えます。

「わかった。そなたを軍制御用掛、歩兵取り立て御用掛に任命する」

 篤太夫は、まず備中にある一橋領へ向かいました。

 篤太夫は一橋陣屋に集まった庄屋たちに語りかけます。領内の村々の次男、三男で志(こころざし)ある者を召し連れて欲しい。代官が返事をします。

「しからばこの庄屋どもに村々の子弟を呼び出すよう、申しつけまする」

 集まった男たちに、篤太夫は張り切って話しかけます。

「もはやこの日の本に、武士と百姓の別はない。民も一丸となり、国のために尽くす、千載一遇の好機である」

 しかし男たちは篤太夫の話を聞いていないのです。あくびをしたり、うつろな目で宙を見ていたりします。翌日は気さくな調子に変えてみます。集まった者たちの態度は同じです。さらに違う日には、下に降りて、必死な様子で訴えてみます。希望する者は一人も現れませんでした。

「こんな大事な御用を任せていただいたというのに」

 と、篤太夫は血洗島の作男であった伝蔵(萩原護)に嘆きます。

 その頃、江戸城では、将軍家茂が、再び小栗忠順と会っていました。その場で長州がイギリスに近づいているとの話を耳にします。家茂はこぼすようにいいます。

「今までさんざん攘夷といっていた長州が、なぜみずから異国に近づくのだ。まさか」

 目付の栗本鋤雲がいいます。

「公儀にたてつく企てでございましょう」

 小栗が声を張ります。

「こうなれば、完膚なきまで打ち潰すしかありますまい」

 幕府は二度目の長州征伐へと向かうこととなるのでした。

 篤太夫は備中の寺戸村にて、漢学者の阪谷朗慮の塾にいました。他の塾生と共に阪谷の言葉を繰り返します。夜、篤太夫は阪谷と話します。自分は百姓の出身であり、ここより小さな塾で、論語朱子学、また水戸の攘夷の心を学んでいた。「攘夷」の言葉に阪谷は反応します。

「それは異なことを。一橋のご家臣でありながら攘夷を語るとは、感心できませぬな」

 篤太夫は怪訝な表情をします。

「拙者の塾のみならず、江戸や京の名だたる漢学者は皆、攘夷を教えていました」

「私は、港は開くべきと教えています」栄一の怪訝な表情に構わず、阪谷は話します。「今日、異国が通商を望むのも、異国の魂を広めるためではなく、互いの利のため。それをわが日本は、盗賊に対するようにむげに払おうというのは、人の道に外れるのみならず、世界の流れとも相反することになる」

「なるほど」篤太夫は感心します。「拙者は今もってなお、攘夷の心構えではありますが、先生のお話は、まことにおかしれえ」

 阪谷も篤太夫を常の役人ではないと認めます。二人は笑い合います。

 篤太夫は何日も通い詰め、塾生たちと交流を深めます。剣術の立ち会いなどもしてみせるのです。そんな中、塾生たちの一部が、篤太夫に自分たちも京に連れて行って欲しいと申し出るのでした。

 篤太夫は庄屋たちだけを集めて語ります。

「どっかで何者かがあれこれと邪魔立てし、志願したい者がおっても、できぬようにしておるのではないか」

 庄屋の代表がついに打ち明けます。

「お代官様が内々におっしゃったんです。このたびの一橋の役人は、成り上がりで、従来、お家にはねえことをいろいろ思いつき、面倒をいうてきとるが、今度の歩兵取り立てのことも、嫌でござる、ひとりも志願する者はおらんといやあ、それですむと」

 篤太夫は代官と二人で話します。

「拙者は、かように重大な役目ではるばる来たからには、御用を果たせぬとあれば、生きては戻れぬ」篤太夫は扇子を代官の首に当てます。「貴殿も拙者と同罪でございまする」

 代官は目をむきます。

 翌日、代官が再び庄屋たちに話を持ちかけると、多数の男たちが篤太夫のもとを訪れるようになります。篤太夫は吐き捨てるようにいいます。

「どこの国も、代官というのはやっかいだのう」

 京に帰って来た篤太夫は、慶喜に褒美の金子を渡されます。

「大役をし遂げ、大儀であった。褒美だ。取っておけ」

 礼を述べるものの、篤太夫に満足な様子は見られません。

「しかし、兵が増えるのは喜ばしい事ですが、その分、兵をまかなう金も、入り用になると存じます」篤太夫は頭を上げます。「武士とて、金は入り用。それがしは、水戸天狗党があのような結果になったのも、それをおこたったからだと存じます。いかに高尚な忠義を掲げようが、いくさにでれば腹は減る。腹が減り、食い物や金を奪えばそらあ盗賊だ。小四郎様たちは、忠義だけを尊(たっと)び、懐を整えることをおこたった」篤太夫慶喜に訴えます。「両方無ければ駄目なのです。それゆえそれがしは、一橋の懐具合を整えたいのでございます」

 利を得る道として、篤太夫は三つの例を挙げて見せます。一つは摂津や播磨の良質な米。二つには木綿。三つ目に硝石。篤太夫は打ち明け話をします。一橋に入ったのは公儀に代わって攘夷を果たしてもらえないかと、いわば様子見の、腰掛けで仕官した。

「しかし今、改めて、この壊れかけた日の本を再びまとめ、お守りいただけるのは、殿しかおらぬと。そのために、この一橋のお家を、もっと強くしたい」篤太夫はそろばんを取り出して慶喜の前に置きます。「懐を豊かにし、その土台を頑丈にする。軍事よりはむしろそのようなご用こそ、おのれの長所でございます」

「円四郎め。まことに不思議な者を押しつけよった」慶喜は篤太夫の前に立ちます。「渋沢よ。もはや腰掛けではあるまいな。ならばやってみよ。そこまで申したのだ。おぬしの腕を見せてみよ」

 

 

『映画に溺れて』第416回 インクレディブル・ハルク

第416回 インクレディブル・ハルク

平成二十一年一月(2009)
新橋 新橋文化

 

 エドワード・ノートンウィリアム・ハートティム・ロス。文芸大作に主演しそうな渋い三人でマーベルコミック『超人ハルク』の映画化。
 米軍が極秘で開発中のスーパーソルジャー計画は兵士の肉体を改造し、無敵の戦士を生み出す試みだった。科学者ブルース・バナーが自ら実験台となり、事故でガンマ線を浴びて怪物化し、同僚で恋人のベティを負傷させ、周囲を破壊し、軍の施設から逃亡する。と、ここまでがオープニング映像、せりふなしで簡単に紹介される。
 本編が始まると、そこはブラジルの都会である。米軍から身を隠し、密かに治療法を研究するブルース。怒りや興奮の感情によって緑色の巨大な怪物に変身するので、腕に心拍計をつけ、心を平穏に保ちながら、飲料水の工場で労働者として働いている。
 が、ささいなことから、米軍に身元を探知され、スーパーソルジャー計画の責任者ロス将軍率いる特殊部隊に襲撃され、逃げ回るうち、怪物に変身し、町を破壊して逃亡する。
 部隊に参加した有能な兵士ブロンスキーはロス将軍から怪物ハルクの秘密を聞き出し、自らスーパーソルジャー計画の実験台となって、肉体を強化する。
 恋人ベティと再会し、大学の研究室に細胞学者サミュエル・スターンズを訪ね、その協力で中和に成功するブルースだったが、巨大な怪物となったブロンスキーが立ちはだかる。
 怪物化したブロンスキーとハルクが戦う場面は東宝の怪獣映画『フランケンシュタインの怪物 サンダ対ガイラ』を思わせる。
 ハルクに逃げられ、スーパーソルジャー計画に挫折したロス将軍が酒場で酔いしれていると、ひとりの男が現れる。強い戦士を作る方法、それは生身の肉体よりも鉄ですよ。
 アイアンマン、ハルク、マイティ・ソーキャプテン・アメリカスパイダーマン、次々と映画化が続くマーベルコミックのヒーローたち。彼らがやがて集結するスペースオペラの前触れである。

 

インクレディブル・ハルク/The Incredible Hulk
2008 アメリカ/公開2008
監督:ルイ・リテリエ
出演:エドワード・ノートンリヴ・タイラーティム・ロスウィリアム・ハート、ティム・ブレイク・ネルソン

『映画に溺れて』第415回 スパイダーマン

第415回 スパイダーマン

平成十四年五月(2002)
渋谷 渋東シネタワー2

 

 ヒーローコミックが低予算のTVシリーズとなり、やがてスターを起用した大作映画に生まれ変わるのは、今はなきクリストファー・リーヴ主演の『スーパーマン』あたりからか。
 そして、ティム・バートン監督の大人向き『バットマン』が出て、次がサム・ライミ監督の青春映画風『スパイダーマン』である。
 主人公のピーター・パーカーは地味でぱっとしない高校生で、隣に住む同級生のMJワトソンに密かに恋心を抱いているが、彼女には見向きもされない。
 理科の課外授業で大学の研究室を見学した際、容器から抜け出した遺伝子操作のスーパースパイダーに噛まれ、その夜から特殊能力の持ち主となるのだ。
 並外れた身体能力と手から飛び出す蜘蛛の糸を操り、ビルの谷間を跳び回る。そして、悪人退治のスーパーヒーローに。
 同じ頃、友人ハリーの父親で軍事産業に従事するオズボーン博士が軍の要請で自ら筋力強化剤の実験台となり、特殊能力を身につける。が。同時に心の中の邪悪さも増強される。
 内気な高校生がヒーローとなり、やり手の科学者が怪物になる。善のスパイダーマンと悪のグリーンゴブリンの対決。
 博士役のウィレム・デフォーは、筋力強化剤の力を借りずとも、もともと悪役そのものの顔。だから、ジキルとハイドのように二つに別れた自分の人格で苦しむ場面は多少白々しくもある。
 それにしても、大学の研究室でピーターを噛んだ蜘蛛はどこへ逃げたのだろう。この蜘蛛に噛まれたら、みんなスパイダーマンになってしまうのだろうか。おそらく続編は、この蜘蛛に噛まれた不良少年が悪のスパイダーマンとなってピーターの前に立ちふさがるのでは、と思ったが、そうはならなかった。
 サム・ライミ監督のスパイダーマンは三作続き、その後、アメイジングスパイダーマンが二作、さらに若返ってアベンジャーズにつながる。

 

スパイダーマン/Spider-Man
2002 アメリカ/公開2002
監督:サム・ライミ
出演:トビー・マグワイアウィレム・デフォーキルスティン・ダンストジェームズ・フランコクリフ・ロバートソンローズマリー・ハリスJ・K・シモンズ

 

大河ドラマウォッチ「青天を衝け」 第17回 篤太夫、涙の帰京

 元治元年(1864)六月。篤太夫吉沢亮)と成一郎(高良健吾)は、一橋家のために集めた人々を連れて、江戸に向かっていました。そこへ中の家(なかんち)の作男である伝蔵(萩原守)がやって来ます。伝蔵は惇忠(田辺誠一)が放免になったことを二人に伝えます。

 京では慶喜(草彅剛)のもとへ、長州兵が大挙して押し寄せてきたとの知らせが入ります。長州の目的は、天子をさらうことでした。

 薩摩はこの機に乗じて、京での主導権を取り戻そうと動き始めました。西郷吉之助(博多華丸)が慶喜のもとを訪れます。

「長州は、潰してしまいもうそう」西郷は慶喜にいいます。「わが薩摩は、天子様のためならと、よう調練された兵をかき集めておりもす。禁裏御守衛総督様は、どげんなさるっとでございもすか」

 慶喜は答えません。

 江戸城にある一橋邸で、篤太夫と成一郎は、京にいるはずの一橋家家臣の猪飼勝三郎(遠山俊也)と出会います。猪飼の口から、二人は平岡円四郎(堤真一)が賊に命を奪われたことを聞かされます。衝撃のあまり篤太夫はその場に座り込んでしまいます。

 長州軍が京に入り込んできます。慶喜は御所に向かい、天子に勅命を請います。孝明天皇ははっきりと命を下します。

「長州を討て」

 慶喜は頭を下げます。

「これよりこの臣(しん)慶喜、ご叡慮(えいりょ)に従い、長州を征伐(せいばつ)いたします」

 慶喜は鎧に身をかため、馬上、兵たちの前に出ます。

 元治元年七月十九日、帝への影響力を一気に強めようと目論む長州は、御所に突入します。蛤御門の周辺で、激闘が展開されます。江戸幕府開府以来初めて、京を舞台にした大きな内戦「禁門の変」が始まります。。

 慶喜は馬上、兵を叱咤します。長州の鉄砲が慶喜の周辺の武士たちを倒していきます。

「御所に筒先を向けるとは、何が尊皇だ」

 慶喜の闘志は衰えません。

「玉(ぎょく)(天皇)を探せ」

 と、長州の侍たちは叫んでいます。

「そろそろ行きもんそか」

 と、西郷がいいます。西郷は、幕府方が窮地に至るまで、様子を見ていたのです。薩摩の大砲が火を噴きます。

 薩摩軍が参戦すると、圧倒的な打撃を受けて長州は壊滅。禁門の変は、幕府軍の勝利で終結しました。

 西郷は通り過ぎる慶喜にあいさつします。慶喜が行ってしまうと

「しばらく、仲ようしちょた方がよさそうじゃのう」

 と、家臣にいうのでした。

 数日後にはイギリスら四か国の軍艦も、長州軍の砲台を打ちのめし、長州はようやく攘夷をあきらめます。

 江戸城では、将軍徳川家茂(磯村勇斗)が、勝利の祝いの言葉を家臣たちから受けていました。家臣たちが去った後、家重は天璋院(上白石萌音)にいうのです。

「早く港を開けと脅すばかりのエゲレスと違い、フランスはこの先、公儀が国をまとめる手助けを申し出ているとのこと」

 天璋院は驚きます。

「夷狄が公儀を助けると申すのか」

「いえ、フランスの公使はまことに物腰柔らかで品があると聞きました。公儀は、この話に乗ってみようと思っておりまする」

 篤太夫は京の戦いの様子の描かれた瓦版を読んでいました。成一郎がいいます。

「長州まで逆賊となると、前に平岡様がおっしゃっていた通り、もう攘夷は終わりなんだな」」

 二人の前に猪狩勝三郎がやって来ます。慶喜が天子を守ったことを誇らしげに語ります。

「われらの兵は間に合いませんでした」

 という成一郎に猪狩はいいます。

「いよいよ公方様も(長州の)征討に出られるかも知れぬ。おぬしらも兵を連れ、急ぎ京に戻れとの命だ。天狗党の件もある」

 筑波山天狗党本陣では、藤田小四郎(藤原季節)が水戸藩執政である武田耕雲斎津田寛治)に訴えていました。

「一部の隊の暴発のせいで、我らはまんまと凶悪な賊の汚名を着せられてしまいました。長州も京で破れ朝敵となり、今や真に尊攘の志(こころざし)を抱く者は、われらしか残っておりませぬ。そのわれらまでもこのままでは、いかにも無念」

 天狗党の面々は武田耕雲斎の前に膝を突き、深く頭を下げるのでした。藤田がいいます。

「耕雲斎様、お願いです。どうかわが軍の大将となり、われらをお導きください」

 篤太夫と成一郎は、集めた兵を率いて中山道を京へと向かっていました。一行は岡部藩の深谷宿までやって来ます。成一郎はいいます。

「ここから血洗島まで、たった一里というのに、家のもんに会えねえとはなあ」

 そこに隠れるようにしていた惇忠に声をかけられるのです。

「役人の目もあるので長居はできぬが、どうしてもお前たちの話が聞きたかった」

 二人は惇忠の口から、それぞれの妻が近くの宿に向かっていることを聞かされます。

 その夜、篤太夫と成一郎は、妻たちのいる宿にやって来ます。再会を喜ぶ二組の夫婦。それぞれの子供も連れられてきています。篤太夫は千代と部屋で話します。

「俺に道を開いてくれた恩人を亡くしちまった。兄ぃたちにも迷惑をかけ、かつての仲間が、筑波山で幕府と戦ってる。俺は、俺の信じた道は」

 そこまでいって篤太夫は黙り込むのでした。千代は篤太夫の手を取ります。

「大丈夫。千代はどんなに離れていても、お前様の選んだ道を信じております」千代は篤太夫の手をその胸に持っていきます。「お前様が、この胸に聞いて選んだ道を」

 篤太夫はうなずきます。

「そうだ。平岡様にいただいた務めを果たすことが、俺の今の為すべき事だ」篤太夫は千代を見つめます。「落ち着いたら、共に暮らしたいと思っておる。それまで信じて待っていてくれ」

 そして翌日。篤太夫たちは深谷宿を出て、岡部の領内を抜けようとしていました。その行く手を役人たちがさえぎります。岡部代官の利根吉春がいいます。

「このご同勢の中に、もとは当領分の百姓がおります。この者ども、渋沢と申します。疑うこと多きゆえ、なにとぞ一度お戻しいただきませぬか」

 篤太夫は世間の理不尽を、この利根を通して知ったのでした。利根の方も、反抗的だった篤太夫を良く思っていなかったに違いありません。進み出ようとした篤太夫でしたが、猪狩勝三郎が利根の前に立ちふさがります。

「お頼みのおもむきは申し伝えますが、今、ここで急に渋沢両人に村方に帰られては、一同が困りまする。両人は縁あって当家には入り、今となってはかけがえのなき家中の者。一橋家としては到底承服しかねることゆえ」猪狩は利根を見すえます。「お断りいたす」

 利根は猪狩の方へ踏み出しますが、一行が迫る勢いでいるのを見て、後退します。

「しからば、しからばどうぞご通行ください。道中、どうかご無事で」

 篤太夫の目は涙で濡れていました。利根の脇を通り過ぎます。涙を流しながら篤太夫は成一郎に話します。

「この気持ちを、平岡様にもお伝えしたかった。なにもかも、平岡様のおかげだ」

 篤太夫たちは京に戻り、慶喜に拝謁します。慶喜は篤太夫と成一郎に声をかけます。

「ご苦労であった。円四郎は、そなたたちがきっと無事に兵を連れて戻ると私に申しておった」慶喜は考え込むようにいいます。「円四郎は、父が私に遣わせたのだ。それがなぜ水戸の者に殺されねばならんのか、そなたたちに分かるか」

「いえ。それがしには分かりかねます」

 と、篤太夫はいいます。

「私には分かる。円四郎は、私の身代わりとなったのだ」皆が黙り込みます。「尊皇攘夷か。まこと呪いの言葉に成り果てた」

 慶喜は席を立ち、篤太夫らの前から去って行きました。

 天狗党は、耕雲斎が首領となり、勢いを取り戻しましたが、度重なる幕府の追討軍や、水戸軍との戦いにより、しだいにその人数を減らしていきました。武田耕雲斎は皆にいいます。

「京へ向かわぬか。こうして水戸で血を流し続けたところで攘夷など到底果たせぬ。ならば上洛し、天子様にその真心を知っていただくべきではないか」耕雲斎は天狗党の旗印を見上げます。「烈公の尊皇攘夷のお心を朝廷にお見せするための上洛じゃ。京にはそのお心を一番良く知る一橋様がいらっしゃる。決してわれらのことを見殺しにはいたすまい」

 天狗党が京に向かうことを知った慶喜は、家臣にいいます。

「私が少しでも天狗どもを擁護すれば、公儀に歯向かうことになろう。京を守るのが私の役目だ。天狗どもを京に入れる訳にはいかぬ」慶喜は家臣を振り返ります。「私の手で、天狗どもを討伐する」

 

 

『映画に溺れて』第414回 シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい

第414回 シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい

令和二年十二月(2020)
有楽町 ヒューマントラストシネマ

 

 十九世紀末のパリ、若き詩人エドモン・ロスタンは二年前にサラ・ベルナールのために書いた詩劇が失敗に終わり、次の仕事がなく困窮していた。
 そこへ突如、ベルナールの紹介で人気喜劇俳優コンスタン・コクランのための喜劇を書くことになる。
 ぱっと思いついた主人公は三銃士と同時代の実在人物シラノ・ド・ベルジュラック。だが、三週間後に初日というのに、まだ一行も書けていない。
 衣装係ジャンヌに惚れた親友の俳優レオのために、ロマンチックな言葉を指南し、恋文を代筆して、劇中のシラノとクリスチャンとロクサーヌの関係を思いつく。
 レオそっちのけで、代筆の恋文を書き続け、ジャンヌからの返事に戯曲の着想を次々と得ていく。作家にはミューズが必要なのだ。
 そして、ロスタンの周囲で起きたことが、そのまま『シラノ・ド・ベルジュラック』の戯曲として肉付けされる。
 パリの娼館でロスタンと出会うロシア人アントンの一言がラストシーンの閃きとなったり。このロシア人、友人からチェーホフと呼ばれていた。
 短期間での執筆はなかなか進まず、借金まみれのコクランは劇場から追い立てを食らっており、敵役に抜擢されたコクランの息子は素人以下の大根役者。これでほんとうに初日の幕が開くのだろうか。
 もちろん、エドモン・ロスタンの『シラノ・ド・ベルジュラック』は演劇史に残る傑作として、今なお上演され続け、何度も映画化されている。同時代の喜劇作家ジョルジュ・フェドーも絶賛するほどに。
 エンドロールにコクラン、ジャン・マレーホセ・フェラー、ドパルデューなど歴代のシラノ映画名場面が流れるので、途中退出はもったいない。

 

シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい/Edmond
2018 フランス・ベルギー/公開2020
監督:アレクシス・ミシャリク
出演:トマ・ソリベレ、オリビエ・グルメ、マティルド・セニエ、トム・レーブ、リュシー・ブジュナー、アリス・ド・ランクザン、イゴール・ゴッテスマン、クレマンティーヌ・セラリエ、ドミニク・ピノン、シモン・アブカリアン

 

『映画に溺れて』第413回 メリーに首ったけ

第413回 メリーに首ったけ

平成十一年二月(1999)
新宿歌舞伎町 新宿グランドオデヲン

 

 ここまでやるかというぐらいに悪乗りの下ネタ満載、大いなる悪ふざけではあるが、微妙なところで下品になりすぎない。というか、下品さがさほど不快に感じられない。そこはベン・スティラーマット・ディロンといったベテランスターの格、演技力によるのかもしれない。
 そして、キャメロン・ディアスの魅力。セクシーで可憐な女性には男はみんな参ってしまうのだ。
 高校生のテッドは内気で不器用で見た目もぱっとしない冴えないタイプ。みんなが憧れる美女メリーとひょんなきっかけで知り合い、プロムに誘って承諾してもらう。純情青年、がんばれと応援したくなる出だし。ところが、有頂天で彼女の家に行くと、不運にも人生最大の悲劇となり、その後、二度と彼女に会えないで今に至る。
 三十過ぎてトラウマをいつまでも引きずる彼に友人が助言する。マイアミに引っ越したらしい彼女の行方を探偵を雇って調べてはどうか。この探偵が胡散臭いチンピラ詐欺師。違法な手口でメリーを探し当て、自分が彼女に一目ぼれして、テッドに嘘を報告する。今のメリーは醜い肥満女で子だくさん、男たちに捨てられ生活苦にあえいでいると。
 実際のメリーは学生時代以上に若々しく美しく、しかも独身だった。探偵は盗聴からメリーの理想のタイプを調べあげ、それになりすまし、偶然を装って近づくという展開。そこへメリーの友人で身障者の建築家が立ちふさがり、探偵の嘘を暴く。
 テッドはメリーが忘れられず、苦労しているなら力になりたいとマイアミへ。さらにメリーの昔のボーイフレンドの変態男が。
 メリーの周りを取り巻く男たちが全員、クズばかり。変な男にしか愛されない美女の悲劇という風に見ても面白い。最終的には純情男が数々の不運を乗り越えるロマンチックコメディとなるのだが。

 

メリーに首ったけ/There's Something About Mary
1998 アメリカ/公開1999
監督: ボビー・ファレリー、ピーター・ファレリー
出演:キャメロン・ディアスベン・スティラーマット・ディロン、リー・エバンス、クリス・エリオット、W・アール・ブラウン、リン・シェイ、ジェフリー・タンバー、リチャード・タイソン、リチャード・ジェンキンス