日本歴史時代作家協会 公式ブログ

歴史時代小説を書く作家、時代物イラストレーター、時代物記事を書くライター、研究者などが集う会です。Welcome to Japan Historical Writers' Association! Don't hesitate to contact us!

『映画に溺れて』第507回 大怪獣のあとしまつ

第507回 大怪獣のあとしまつ

令和四年二月(2022)
立川 TOHOシネマズ立川立飛

 

 以前、ハヤカワ文庫から『キング・コングのライヴァルたち』と題するパロディ集が翻訳され、その中にフィリップ・ホセ・ファーマーの『キング・コング墜落のあと』という短編が収録されていた。ある老人が孫娘とTVで昔の映画『キング・コング』を見ていて、四十年以上前にエンパイヤステートビルから落下したキング・コングを現場で目撃したことを回想する。道路をふさぐコングの死体について、衛生局、警察、興行師、空軍、運輸省、劇場側などで様々な意見や要求が出て、ようやく交通妨害になるとの理由で片付けられた。
『大怪獣のあとしまつ』を観て、真っ先に思いだしたのがこの短編だった。
 私が子供の頃、一九六〇年代は怪獣映画の全盛期で、東宝は次々とゴジラの新作を作り、大映ガメラをシリーズ化し、TVではウルトラマンが毎週、怪獣たちと戦っていた。ゴジラはシリーズなので簡単には退治されないが、ウルトラマンは毎回、怪獣を倒して終わる。が、終わったあと、その死体をどうするのかなどとは、考えもしなかった。体長八メートルのコングと違い、怪獣たちはどれも恐ろしく巨大なのだ。
 そこに目をつけたのが『大怪獣のあとしまつ』である。監督が『転々』や『インスタント沼』の三木聡なので、遊び心満載。大臣たちが延々と会議を続けるのはシン・ゴジラだし、だれも責任を取りたがらず死体処理の担当がなかなか決まらなかったり、会議の結果、怪獣に付けられた名前「希望」を新元号のようにものものしく発表したり。大臣を演じるのが西田敏行ふせえり岩松了嶋田久作笹野高史といったアクの強い面々。設定からしてパロディであり、コメディである。東宝の怪獣映画やウルトラマンウルトラQマタンゴまで入っている。果たして怪獣の死体は始末されるのか。
 この映画の少しあとに『シン・ウルトラマン』が公開されたが、『大怪獣のあとしまつ』で国防大臣だった岩松了防衛大臣を続投、外務大臣だった嶋田久作が首相に出世していた。

 

大怪獣のあとしまつ
2022
監督:三木聡
出演:山田涼介、土屋太鳳、濱田岳眞島秀和ふせえり、六角精児、矢柴俊博有薗芳記、SUMIRE、笠兼三、MEGUMI岩松了田中要次銀粉蝶嶋田久作笹野高史菊地凛子二階堂ふみ染谷将太松重豊オダギリジョー西田敏行

 

大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第30回 全成の確率

 蹴鞠を教えていた平知康矢柴俊博)は、お役御免となり、京に戻ることになります。義時(小栗旬)の異母弟である北条時連(瀬戸康司)は、最後の授業を受けていたとき、縁の下にある人形(ひとがた)を見つけるのでした。

 頼家(金子大地)は人形を握っています。比企能員佐藤二朗)がいいます。

「鎌倉殿の、突然の病(やまい)。原因は、これにあったようです。一大事でございますぞ」

「誰がやった」

 と、頼家は比企を振り返ります。

「心当たりはひとりしかおりません」

「叔父上」

 頼家は阿野全成新納慎也)の顔を思い浮かべるのでした。

 全成の所に、比企の衆がやって来ます。頼家の命により、館の中を検(あらた)めるというのです。

 全成は頼家に呼び出されます。全成の前に館で見つけられた、人形を作る道具が並べられます。

 全成は自分ではないと、いい張り続けますが、比企の衆から、激しい暴行を受けることになります。

 義時は書庫で、比企能員と話します。

「全成殿は、今や、頼朝様のただひとりの弟。それなりの礼を持っていただかねば困ります」

 比企は書物を棚に返します。

「あの者は、鎌倉殿を呪い殺そうとしたのだ」

「全成殿は北条の縁者。度を過ぎれば、取り返しのつかないことに」

「わしはなあ、小四郎。これが、全成ひとりの仕業ではないと思っておる」

 義時は北条一族が顔をそろえる中、父の時政を怒鳴りつけます。

「ご自分のやったことが分かっているのですか」

 その場に、りく(宮沢りえ)が現れます。

「私たちは関わりないといったはずです。全成殿がご自分で考えたこと」

 実衣(宮澤エマ)が立ち上がって、りくに詰め寄ります。

「あの人に罪をかぶせるおつもりですか」

「もういい。命まで奪うつもりはなかったんじゃ」と、時政が白状します。「ちょっと病になってくれたら御の字だって」

 義時は時政を見下ろします。

「比企は一戦を辞さぬ構えです」

「よし、分かった」

 と、時政は立ち上がります。

「どちらへ」

 と、りくが聞きます。

「名乗り出てくる」と、時政は答えます。「全成殿を許してもらうんだ」

 義時が叫びます。

「それこそ比企の思うつぼ。向こうは、北条を潰してしまいたくて、仕方がないのです」

 ならばどうしたらいいのかと聞く時政に、義時は畠山重忠(中川大志)に、背を叩いて合図します。畠山が話し出します。

「まずはいくさの支度を整えます」

「比企と戦うのですか」

 と、義時の息子の泰時(坂口健太郎)が聞きます。

「やるか」

 と、時政は乗り気です。畠山は慌てます。

「そうではありません。ここは、応じる構えを見せる。そうしなければ、それこそ、容易に攻められてしまいます」

 義時が後を続けます。

「そしていくさにならないように、ほかの御家人たちに声をかける。仲裁してもらうんだ」

「乗ってきますか」  

 と、泰時が聞きます。

「来る」義時は断言します。「御家人たちにしてみれば、比企に勝たれても面白くない」

 畠山が継いで話します。

「まずは三浦、和田から声を掛けます」

「うちの人は」

 と、美衣がすがるようにいいます。義時が断言します。

「この策で必ず救い出す」

 実衣は頭を下げるのでした。義時は実衣の身も心配します。しばらく政子に預かってもらうことにします。

 義時は、三浦義村山本耕史)のもとに来ていました。

「命乞いか」

 と、聞く三浦。義時はいいます。

「できるだけたくさんの御家人の名前を集めて欲しい」

 畠山が言い添えます。

「つまり、梶原景時の逆をやるんです。それをもって、仲裁の訴えとします」

「集まるかなあ」というのは和田義盛横田栄司)です。「俺もそうだが、全成殿って、ぼんやりとしか知らねえんだよ。源氏の流れの坊主ってことぐらい」

 義時がいいます。

「これは全成殿だけに留まらないんだ。比企殿の思い一つで、首をはねられる。そんなことがあってはならない」

 またしても畠山が言葉を添えます。

「明日は我が身と思ってください」

「後は任せろ」と、三浦が請け負います。「それにしても面白くなってきたな。梶原はいなくなり、いよいよ北条と比企の一騎打ちか」

 義時の妻の比奈(堀田真由)は、少しでも何とかしようと、比企能員の所に来ていました。比企能員は、比奈の叔父に当たります。自分は比企と北条の架け橋だと延べる比奈。しかし比企能員は、橋というのは、川のどちら側の持ち物なのか、などと妻の道(堀内敬子)に問います。道はさらにいいます。木橋ならば、真ん中で分ければいいが、人ではそうはいかない。そこに兵を呼ぶ手はずが整ったとの知らせが入るのです。比企能員はいいます。

「もしいくさになれば、北条の者はすべて滅ぼす。お前は比企の家に生まれ、比企で育った。それをくれぐれも忘れてはならんぞ」

 頼家に仕える若武者たちが、実衣を引き渡すよう、政子の館にやって来ます。泰時が対応しますが、らちがあきません。そこへ政子が駆けつけるのです。若武者を代表して、北条時連(瀬戸康史)が話します。

「鎌倉殿が、姉上を連れてこいと申されています」

 政子がいいます。

「話を聞きたいのならば、自分でここに来るようにと、頼家にそう伝えなさい」

 話が通じないと知ると、政子は突き当たりの扉を開けます。そこには鎧に身をかためたにった仁田忠常(高岸宏行)が待機していたのです。

 政子は頼家の所に抗議に訪れます。

「全成殿はあなたの叔父ではないですか」

「その叔父に私は殺されそうになったのです」

 と、頼家はいい放ちます。御家人たちによる、全成の許しを願う申状(もうしじょう)が頼家に渡されます。比企能員がいいます。

「全成殿が鎌倉殿に呪詛(じゅそ)を掛けたことは明白。焚きつけた実衣殿も同罪にござる」 

 結局、頼家は、実衣を許すことにします。全成に対しては、流罪と決めます。

 宿老たちに大江広元栗原英雄)が呼びかけます。

「例の所領の再分配の件で、御家人たちから比企殿に、申し立てが来ています」

 大江は山ほどある文書を差し出します。比企は義時に意見を求めます。

「所領の少ない御家人たちは、土地を与えられることを喜んでおります。しかしその土地は、我ら含め、所領を多く抱える御家人から召し上げるもの。文句が出て当たり前」 

「無理があるんだよ」と、いい始めたのは八田知家市原隼人)です。「御家人にとって土地は命よりも大事。誰か、あのお方にお伝えした方が良いのではないか」

 義時が発言します。

「鎌倉殿は、主だった御家人が、ご自分に従うかどうか、試しておられるのかも知れません」

 比企能員が立ち上がります。

「鎌倉殿と話してくる」

 比企が立ち去ったあと、足立遠元大野泰広)が義時に近づきます。

「私もいた方がいいですか」

「宿老ですから」

 と、義時が返します。足立はぼやきます。

「十三人も今や九人。このところ、お父上や和田殿もお見えになっていないし、私のいる意味が」

 比企能員は、頼家の前にいました。頼家がいいます。

「再分配の何がいけない」

 比企は答えます。

「土地というものは先祖から受け継ぎ、さらに武功で勝ち取るもの」

「それを変えていくのだ」と、頼家はあっさりといいます。「わずかな者だけに、富が偏るのはいかん」

「もちろん、悪いことではありません。ここは、私に任せていただきましょう」

「任せてはおけん」

「申されましたな」

「良いことを考えた。まずは比企、お前が手本となって示せ」頼家は比企能員に近づきます。「おまえが持っている上野(こうずけ)(現在の群馬県)の所領をすべて差し出せ。それを近隣の御家人たちに分け与える」

 常陸国(ひたちのくに)に流されている全成を、比企能員は訪ねます。比企は実衣に危険が迫っていると、嘘をいって全成を脅します。頼家は実衣がそそのかしたと、いまだに疑っていると、呪詛の道具を投げてよこすのです。

 全成が頼家を呪詛していたとの知らせが、頼家に伝えられます。八田知家は自分が行って、討ち取ってくると出向いていきます。

 呪文を唱えた全成が、八田知家の前に連れ出されます。天気が一転し、大雨が降り注ぎます。雷が近くの木に落ち、驚いた斬手の太刀が外れます。八田知家がみずからの手で、全成を仕留めるのでした。その瞬間に嵐が止んで青空が広がります。

 その様子を聞いた実衣は、

「やってくれましたね。最後の最後に」 

 と、涙を流しながら笑い声をたてるのでした。

 義時は比企能員待ち伏せします。比企が来ると、義時がいいます。

「全成殿に、呪詛の道具を渡した者がおります」

「わしだというのだな」

「先日鎌倉を離れましたね」

「所領に戻っておったのだ。わしが全成をそそのかしたと。おかしなことを申すのう」

「今、最も鎌倉殿に死んで欲しいのはあなたです。あの方に従えば、所領は大きく減る。断れば、今の立場が危うい。意のままにならない鎌倉殿に、もはや用はない」

「もうよい」

 比企は引き返そうとします。その行く手を、善児(梶原善)が阻むのでした。比企はため息をつきます。

「仮の話として聞け。頼家様にとって、わしは乳母(めのと)に過ぎん。しかし、一幡様が後を継げば、わしは鎌倉殿の外祖父(がいそふ)。朝廷とも直(じか)に渡り合える。京へ上って、向こうで暮らし、武士の頂(いただき)に立つ。そんなことを夢見たわしを、愚かと、思われるかな」

 義時は比企に近づきます。

「比企殿には、鎌倉から出て行っていただきます。必ず」

「強気に出たな」

「ようやく分かったのです。このようなことを二度と起こさぬために、何をなすべきか。鎌倉殿の元で、悪い根を断ち切る。この私が」

 義時は今の話を聞かせるために、頼家を呼んでいたのでした。しかし扉を開けてみると、そこら頼家はいません。頼家は倒れてしまっていたのでした。

 

第11回日本歴史時代作家協会賞決定‼

第11回日本歴史時代作家協会賞(2022年度)

新人賞

 千葉ともこ『戴天』文藝春秋

 [候補作]

  稲田幸久『駆ける 少年騎馬遊撃隊』角川春樹事務所

  小栗さくら『余烈』講談社

  夜弦雅也『高望の大刀』日本経済新聞出版

 

文庫書き下ろし新人賞

 筑前助広『谷中の用心棒 萩尾大楽:阿芙蓉抜け荷始末』アルファポリス文庫

 [候補作]

  進藤玄洋『鬼哭の剣』ハヤカワ時代ミステリ文庫

  柳ヶ瀬文月『お師匠様、出番です! からぬけ長屋落語人情噺』ポプラ文庫

シリーズ賞

 坂岡 真「鬼役」「鬼役伝」光文社時代小説文庫、「はぐれ又兵衛例繰控」双葉文庫などのシリーズ作

 氷月 葵「御庭番の二代目」(18巻完結)二見時代小説文庫、「神田のっぴき横丁」二見時代小説文庫、「仇討ち包丁」コスミック時代文庫のシリーズ作

作品賞

 矢野 隆『琉球建国記』集英社文庫

 吉川永青『高く翔べ 快商・紀伊國屋文左衛門』中央公論新社

 

功労賞

 なし

 

選考委員長 三田誠広

選考委員 菊池 仁  雨宮由希夫  理流  加藤 淳

(2022年8月6日、選考会を実施)

 

 2022年8月8日

 

日本歴史時代作家協会

 

『映画に溺れて』第506回 リーグ・オブ・レジェンド

第506回 リーグ・オブ・レジェンド

平成十五年十月(2003)
渋谷 渋東シネタワー1

 

 十九世紀末のロンドンで近代兵器による組織犯罪が行われる。ヨーロッパ各地に暗躍する悪の組織ファントム。大規模な陰謀が世界大戦に発展するのを阻止するため、大英帝国情報部のMが正義のヒーローたちを召集する。
 リーダーとなるのが『ソロモンの洞窟』の主人公アラン・クォーターメイン、他には『海底二万里』のネモ船長、透明人間、吸血鬼ミア・ハーカー、ドリアン・グレイ、ジキル博士、アメリカからは諜報部員となった青年トム・ソーヤーが参加する。
 が、悪の組織のほんとうの狙いは、彼らを集結させることだった。
 まるで、後のマーベルコミック『アベンジャーズ』を思わせる。みなそれぞれ、十九世紀の文芸作品に登場するヒーローであり、それが力を合わせて巨大な敵に立ち向かうのだから。
 ただし、物足りないのは十九世紀のヒーローたちが集結していながら、大事な文芸作品のヒーローがひとり欠けているのではなかろうか。コナン・ドイルが創作した伝説の名探偵がなにゆえ仲間に加わらないのか。
 そう思ってみると、大英帝国情報部のMの存在が気にかかる。が、これ以上はネタバレになるので、興味のある方はインターネットの筋書きは読まないで、映画そのものをDVDなり配信なりで、きちんと御覧になることをおすすめする。
 一番最初、ショーン・コネリーふんするアラン・クォーターメインの身代わりにアフリカで殺される老人を演じているのがデビッド・ヘミングス。一九六〇年代に脇役で不良青年をよく演じていた。『キャメロット』ではアーサーの不義の息子モードレット。『別れのクリスマス』という監督作品もある。あのヘミングスが老人になって殺されるとは。ショーン・コネリーはこのときも相変わらずかっこよかったが。

 

リーグ・オブ・レジェンド/The League of Extraordinary Gentlemen
2003 アメリカ/公開2003
監督:スティーブン・ノリントン
出演:ショーン・コネリー、ナセールディン・シャー、ペータ・ウィルソン、トニー・カラン、スチュアート・タウンゼント、シェーン・ウェスト、ジェイソン・フレミングリチャード・ロクスバーグ、デビッド・ヘミングス

 

大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第29回 ままならぬ玉

 源頼家(金子大地)や宿老たちの前に、首桶(おけ)が並べられます。阿野全成新納慎也)が経を唱えていきます。

 館に帰った義時(小栗旬)は、妻の比奈(堀田真由)に話します。

「梶原殿がいなくなり、この先は、否が応でも北条と比企はぶつかることになる。その間に立って、丸く収めるのが私の役目だ」

 比奈は、何があっても自分と離縁しないという起請文を持ってきます。比奈はいいます。

「比企と北条がぶつかるのはもうしょうがない。でも私を比企に帰すなんて、くれぐれもいわないように」

 そこへ善児(梶原善)が、女性を連れて、庭にやってきます。善児は彼女を、二代目、と紹介します。

「トウ(山本千尋)と申します」

 と、女性はいいます。善児は彼女に、お見せしろ、と命じるのです。トウは激しい動きで、短刀をさばいていきます。

 宿老たちが評議を始めようとします。13人いたはずが、だいぶ減っています。

 梶原景時の死から三日後、三浦義澄(佐藤B作)が亡くなります。頼朝に長く仕えていた安達盛長(野添義弘)も世を去ります。

 比企能員佐藤二朗)が頼家に話します。

「奸賊、梶原景時が、いなくなりましたなあ。義澄と盛長も去り、もはや宿老たちの評議は、あってないようなもので」

「これからは好きにやらせてもらう」

 と、頼家がいいます。

「どうぞ。おやりください。この比企が支えまする」

「支えんでもよい」

「ご遠慮なさいますな」

「遠慮ではない」

 比企能員は威嚇するような大声を上げるのです。

「鎌倉殿のために、申し上げておるのです」比企は穏やかな調子に声を戻します。「比企能員に、万事お任せあれ。その上で、お好きになさるがよろしい」

 北条時政は、国主に就任します。源氏一門以外の御家人が国主になるのは、これが初めてのことでした。これで北条は、名実ともに、御家人の筆頭となったのでした。

 畠山重忠中川大志)が、寺社の訴訟を持ってきました。取り次ぎを待たずに頼家がやって来て、素早く決済をしてしまうのです。頼家は宣言します。

「今後、所領のことはわしが調べて処断する」頼家は、比企を振り返ります。「好きにさせてもらったぞ」

 この年、つつじが男子を産みます。善哉(ぜんざい)と名づけられたこの子の乳母(めのと)は、三浦義村です。

 比企能員が義時を待ち伏せしていいます。

「小四郎。鎌倉殿の、第二子誕生、まことにめでたいことである」比企は義時を抱き寄せるようにします。「はっきりさせておくが、嫡男は一幡様だからな」

 義時は比企から離れます。

「されど、頼朝様のご意向は、つつじ殿のお子が、おのこである」

 比企は、音を立てて、足下のものを蹴り飛ばします。

「文書(もんじょ)に記されておらんではないか。そんなものは受け入れられん」

 りく(宮沢りえ)は、時政に、今年で九歳になる頼家の弟を鎌倉殿にすることを望みます。そのために、全成に頼家呪詛を依頼します。

 全成は悩みながらも、人形(ひとがた)をつくっていきます。 

 頼家は、若武者たちと蹴鞠(しゅうぎく)を行っていました。この年、坂東は台風に見舞われ、多くの被害が出ています。義時の息子の頼時(坂口健太郎)は頼家に話しかけます。

「坂東中が不作に苦しむ今、他にやることあるのでは」

 しかし頼家は

「蹴鞠は遊びではない」

 といって取り合いません。

 頼家は、頼時に、褒美(ほうび)を取らせる、といいだします。自分と同じ「頼」の文字を持っていては、お前も心苦しいだろう。頼家は「泰時(やすとき)」の名を頼時に与えます。泰時は礼の言葉を述べようとします。

「ありがたき幸せ。これからも、鎌倉殿の側で、力を尽くしとうございます」

「それはもうよい」冷たく頼家は言い放ちます。「お前はうるさい。父のもとで励め。泰時」

 全成は、頼家呪詛のための、人形を完成させていました。

 義時は妹の実衣(宮澤エマ)から、全成の様子が妙なこと聞きます。義時は父の時政に問いただしに行くのです。ひょっとして、全成は呪詛をかけているのでは。

「馬鹿をいえ、鎌倉殿はわしの孫だぞ」

 と、聞かれてもいないのに、時政は白状してしまいます。義時はさすがに怒気を放ちます。

「余計なことはもうやめていただきたい」義時は訴えるようにいいます。「比企と争う時は、終わったのです」

 三人の僧が捕まり、頼家の前に連れて来られます。西国から流れてきた者で、念仏さえ唱えていれば、何をしてもいいと民をまどわしている、と頼家に伝えられます。

「斬り捨てよ」

 と、頼家は命じます。しかし義時の異母弟である、時連(瀬戸康史)が抗議するのです。

「民が念仏等をありがたがるのは、暮らしが厳しいゆえにございます」

「お前までわしの邪魔立てをするか。お前も所詮は北条の手先か」

 時連は頼家の前に膝を突きます。

「鎌倉殿を案じて申しあげているのです」

「また出た。皆、同じことをいう。わしのためと称して、腹にあるのは、おのれの家のことだけではないか」

 結局、頼家は僧たちを解放するのでした。そこへ、せつ(山谷花純)がやって来ます。頼家は善哉のもとに行こうとしていました。せつがいいます。

「たまには私と一幡のもとへもお越し下さい」

 頼家はせつをにらみつけます。

「お前の後ろの比企が、わしには煩わしいのだ。

「嫡男は善哉様で結構。私はただ、あなた様とお話しがしたいのです。私と一幡を側に置いて欲しいのです。比企は関わりございません。そういう者もおるのです。それも退けては、鎌倉殿は本当にお一人になってしまいます。鎌倉殿をお支えしとうございます」

 建仁二年(1201)七月。頼家は、征夷大将軍に任官します。

 全成は時政の妻であるりく(宮沢りえ)になじられていました。

「いつになったら効くのです。この役立たず」

 弱々しく全成はいいます。

「だからわたくしには無理だと」

 時政も全成にいいます。

「無理でもやるんだよ」

 全成は、頼家の髪の毛を手に入れに行きます。

 全成は夜、蹴鞠をする頼家の後ろ姿をうかがっていました。そこへ義時がやって来て、頼家と話します。

「父が心から笑っておられるお姿を見たことがなかった」頼家はうつむいてしゃべります。「父の気持ち、今なら分かる気がする」

 義時がいいます。

「頼朝様は、人を信じることをなさらなかった。お父上を越えたいのなら、人を信じるところから始めてはいかがでしょう」

 そこへ蹴鞠の師である平知康矢柴俊博)が姿を現します。頼家は立ち上がって義時にいいます。

「小四郎。決めたぞ。わしは一幡を跡継ぎにする。比企の顔色をうかがっておるのではない。せつだ。せつは強い。父上が母上と手を携えて、このかまくらをつくったように、せつとなら、鎌倉をまとめていけるような気がする。わしは弱い。信じてくれる者を頼りたい」

 義時はうなずきます。

「良いと思います」

 頼家は平知康を呼びます。

「わしはもう蹴鞠に逃げることはせん」

 頼家は平知康の、お役御免を宣言するのです。頼家の投げた鞠を拾おうとして、平知康は、古井戸に落ちそうになります。助けようとした頼家まで引きずり込まれてしまいます。それを隠れて見ていた全成が手助けをします。全成は頼家の手を握って引き上げるのです。

 全成は帰って来て、実衣の前に人形を並べていきます。時政に頼まれ、頼家を呪詛していたことを告白します。御所の床下に並べておいた人形をすべて持ってきた、といいます。何の効き目もなかった、と全成は自嘲します。

「ほっとしている」

 と、全成は笑顔を実衣に向けます。実衣は全成に近づきます。

「全部集めてきたんでしょうね。残ってたら、またえらいことになりますよ」

 しかし残っていた人形があったのです。何者かが、それをつかみます。

 

『映画に溺れて』第505回 フロム・ヘル

第505回 フロム・ヘル

平成十四年二月(2002)
日比谷 シャンテシネ2

 

 一八八八年、ロンドンで実際に起こった猟奇犯罪、連続娼婦惨殺事件。被害者は腹部を切り裂かれ、内臓が露出するというおぞましいものだった。犯人は切り裂きジャックと呼ばれたが、正体は今も不明のままなのだ。
 なにゆえ犯人が不明なのか、という視点で描かれているのがジョニー・デップ主演の『フロム・ヘル』である。
 娼婦街ホワイトチャペルで残忍な手口の殺人が発生し、霊視能力を持つアバーライン警部が事件を担当する。
 娼婦のアンが育ちのいい若者と結婚し、仲間から祝福されて苦界から抜け出す。その若者こそが、ヴィクトリア女王の孫、クラレンス公アルバート・ヴィクター王子だった。
 女王はフリーメイソンの医師ガル博士に隠蔽を依頼し、ガルはアンを精神病院に隔離し、脳手術で廃人にする。
 アンの相手がどうやらやんごとなき王子らしいと気づいた娼婦仲間がこれを金蔓にしようとして、ひとりひとり惨殺される。
 アバーラインは猟奇犯罪の裏にある陰謀を突き止め、ガルを追い詰めるが、辞職に追い込まれ、切り裂きジャック事件は未解決となる。
  以前、映画館で公開されずVHSビデオのみ販売だった『黒馬車の影』は、霊能者による真相の霊視、アルバート王子と娼婦との関係、王室関係者による犯罪。ほぼ『フロム・ヘル』と同じ内容だった。ただし、事件に取り組むのはクリストファー・プラマー演じる名探偵シャーロック・ホームズ。一八八八年はホームズが活躍した時代であり、切り裂きジャックと対決してもおかしくないのだ。
『黒馬車の影』はその後DVDにはなっているが、劇場未公開のまま。残念である。

 

フロム・ヘル/From Hell
2001 アメリカ/公開2002
監督:アルバート・ヒューズ、アレン・ヒューズ
出演:ジョニー・デップヘザー・グラハムイアン・ホルムジェイソン・フレミングロビー・コルトレーン、スーザン・リンチ、イアン・リチャードソン

 

『映画に溺れて』第504回 ネバーランド

第504回 ネバーランド

平成十七年五月(2005)
飯田橋 ギンレイホール

 

 中堅劇作家のジェームズ・バリは新作風俗喜劇が当らず打ち切りとなり、意気消沈。家では妻との仲もしっくりいかず、落ち込んでいる。そんなとき、偶然にもケンジントン公園で少年たちを連れた未亡人シルヴィア・ルウェリン・デイヴィスと出会う。
 バリはルウェリン・デイヴィス家の子供たちと仲良くなり、頻繁に交流する。そして子供たちと遊びながら、新しい舞台劇を思いつく。児童劇の名作『ピーターパン』の誕生秘話である。
 ジェームズ・バリ役を楽し気に演じるジョニー・デップは当時の軽い流行作家の雰囲気をよく表している。
 シルヴィア役のケイト・ウィンスレットは見た目が健康的で、病弱で薄幸な未亡人はどうかと思うが、史実ではシルヴィアは未亡人ではなく、夫妻でジェームズ・バリと交際していたとのこと。余談だが『レベッカ』や『鳥』の作者ダフネ・デュ・モーリアはシルヴィアの父方の姪である。
 バリは『ピーターパン』の登場人物にルウェリン・デイヴィス家の子供たちの名前をつけた。ピーターパンのモデル、ピーター・ルウェリン・デイヴィスを演じたフレディ・ハイモアは、このあと『チャーリーとチョコレート工場』で主演する。
 バリとシルヴィアの仲が社交界で噂になっていると忠告する友人アーサー、口髭のこの人物こそ、シャーロック・ホームズの生みの親アーサー・コナン・ドイルである。実はジェームズ・バリとコナン・ドイルは仲が良く、舞台劇を共作したこともあるのだ。
 コナン・ドイル役のイアン・ハートジョン・レノン役や『ハリー・ポッターと賢者の石』の教師役が印象に残る脇役俳優で、TVではジョン・H・ワトスン役も演じていたそうだ。
『ピーターパン』はやがてディズニーアニメーションとなり、原作の舞台劇はわが国でも繰り返し上演され、私が新宿コマ劇場で観た舞台のフック船長は宝田明だった。

ネバーランド/Finding Neverland
2004 イギリス・アメリカ/公開2005
監督:マーク・フォスター
出演:ジョニー・デップケイト・ウィンスレットダスティン・ホフマンジュリー・クリスティフレディ・ハイモアラダ・ミッチェルイアン・ハートケリー・マクドナルド

 

大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第28回 名刀の主

 十三人の宿老たちが、訴訟についての評議をします。この結果を鎌倉殿(源頼家)に取り次ぐのです。常陸(ひたち)の御家人大谷太郎と、その弟次郎の土地争いについて話し合われていました。太郎は、父親から受け継いだ所領の一部を、次郎が欲しがるのは不当といい、次郎は、死んだ父のいいつけで、自分が譲り受けたといっています。北条時政坂東彌十郎)が述べます。

「次郎のいう、いいつけってのは、あれだろう、口約束だ。ほっといていいんじゃねえか。大谷の太郎はわしもよう知っとる。頼むよ」

 比企能員佐藤二朗)がいいます。

「待て待て。それはどうだろうか。誰それを、良く知っているというだけで、そちらの肩を持つというのはいかがなものか」

 三浦義澄(佐藤B作)が思い出します。

「そういえは、大谷の次郎の妻は、比企の出ではなかったか」

 政(まつりごと)に私情をはさむな、と、時政がいい、評議は紛糾します。義時(小栗旬)が梶原景時中村獅童)にささやきます。

「弱りましたね」

 その時、八田知家市原隼人)が発言するのです。

「どうも引っかかる。その土地で、ずっと米を作らせてきたのは、太郎ではなく、次郎のはずだ」

 調べてみるとその通りでした。なぜ太郎は今になって、との声が上がります。義時が発言します。

大谷太郎は、鎌倉殿が変られたのをいいことに、この機に乗じて、次郎の土地を奪おうとしているのではないでしょうか」

「新しい鎌倉殿につけ込むとは」

 と、比企能員が声をあげます。

「いいがかりじゃ」

 と、抗弁する時政。

「そこまで」と、梶原景時が声を放ちます。「よしみを重んじ、便宜(べんぎ)をはかるのは、政の妨(さまた)げになるので、以後、やめていただきたい」

 梶原は宣言します。いま一度、双方の言葉を聞き、評議をやり直す。

「無駄な時でござった」

 との台詞を吐き、梶原景時は去って行きます。

 鎌倉殿を継いだ源頼家(金子大地)は、自分が選び出した六人の若い御家人たちにいいます。

「あいつらの魂胆は分かっておる。裁きを下すのはわしで、十三人は補佐役。そんなものは建前だ。補佐役なら、二、三人いれば足る話。寄ってたかって、わしをのけ者にするつもりだ」

 正治元年六月。北条政子小池栄子)を不幸が襲います。二女が闘病の末、亡くなったのです。頼朝が亡くなったまだ半年のことでした。

 琵琶を習っている実衣(宮澤エマ)は、師の結城朝光(高橋侃)といい雰囲気です。夫の阿野全成新納慎也)が嫉妬に苦しむほどに。その結城がいいだします。

「実は、私にも一つ悩みが」

「あら、うかがってしまおうかしら」

 と、実衣は無理にも聞き出す態度です。

「実は、ちょうどこの間、ここで仁田殿と雑談をしていたのですが」

 結城は、過去を話します。

 弓を射ながら、結城は仁田にいいます。

「仁田殿はどう思われます」

 仁田は訴えるようにいいます。

「これからです。鎌倉殿はまだお若い」

「宿老方に耳を貸さず、蹴鞠(しゅうきく)に興じるお姿は、とても鎌倉を率いるにふさわしいとは思えない」

「長い目で」

「頼朝様には、もっと生きていて欲しかった。忠臣は二君に仕えず」

 結城に矢を渡していたのが善児(梶原善)だったのです。その翌日、結城は梶原に呼ばれます。

「鎌倉殿に対しての誹謗。聞き流すわけには参らぬ」

「お待ちください」

 結城は、梶原に申し開きをしようとします。

「今の鎌倉殿を蔑(さげす)み、もっと頼朝様にお仕えしたかったとは何事か」

「戯れ言にございます」

 梶原は「忠臣は二君に仕えず」の言葉を出して結城を追いつめます。唐(から)ではこの言葉を吐いて、命を断った者がいる。頼家に仕えるくらいなら、死んだ方がましか。不穏な振る舞いをすればどうなるか、皆に知らしめる。こうして結城は謹慎の身になったのでした。

 若武者たちと廊下を渡る頼家に、義時の息子である頼時(坂口健太郎)が話しかけます。

「鎌倉殿。やはりお考え直しください」

「おぬしが指図することではない」

 と、頼家は冷たく言い放ちます。

「人の道に反しております」

「うるさい」

 頼家は歩き去ります。

 頼時は梶原と話します。

「よう伝えてくれた」

 と、梶原はいいます。

「鎌倉殿を、止めてください」

 と、頼時は訴えます。

「お前の父を呼んでこい。急げ」

 と、梶原は命じます。

 安達盛長(野添義弘)とその息子の安達景盛(新名基浩)が、若武者たちを従えた頼家の前に座ります。頼家の要求は、景盛の妻を自分のものにすることでした。

「それだけはご勘弁を」

 と、景盛は頭を下げます。頼家は安達盛長に、息子になんとかいうようにと促します。安達盛長は述べます。

「私は、頼朝様が伊豆に流されてきた時から、仕えて参りました。鎌倉殿はそのお子、異を唱えることなどもってのほか。しかしながら」安達盛長は声を張ります。「こればかりは承服する訳には参りません」

 頼家は冷たい目で安達盛長を見すえます。

「わしに背くは、父に背くことぞ」

 盛長はひるみません。

「力ずくで人の妻を奪ったとなれば、鎌倉殿の名に、傷がつきます。そのことを申し上げておるのです」

 頼家は激昂します。

「家を焼き払われても良いのか」

「家を焼き払われようが、鎌倉を追われようが、たとえ首をはねられても、私の心は変りませぬ。お父上を悲しませてはなりませぬ」

 頼家は苦笑を見せます。

「よう申した」

 頼家は、若武者たちに、安達親子の首をはねるようにいいつけるのです。すると今まで黙って座っていた、梶原景時が口を開きます。

「お待ちくださりませ。これは大きな分かれ道にございます。このようなことで安達親子を討てば、必ず騒ぎになります。御家人たちが黙っておりません」

 頼家は笑って見せます。

「面白いではないか」

 そこへ北条政子と、義時がやってくるのです。政子は頼家の正面に立ちます。

「いいかげんに目を覚ましなさい」

 頼家は辺りを見回します。

「誰が呼んだ。平三(景時)か」

 政子は頼家に近づき、若武者たちにいいます。

「安達殿に手を触れてはなりません」

「口出しはしないでいただきたい」

 という頼家を、政子は叱りつけます。

「自分のやっていることが分かっているのですか」

 義時もいいます。

「恐れながら申し上げます。藤九郎(盛長)殿ほど、頼朝様や鎌倉殿に忠義の心を持つお方は、私は知りません。こんなことで首をはねるなど」義時は叫びます。「許されることではございませぬ」

 政子もいいます。

「頭を冷やしなさい。頼家」

 梶原景時は、文官たちに、結城朝光に死んでもらう、と宣言します。安達の一件以来、頼家は御家人たちの信用を損ねた。結城を見せしめにして、御家人たちを引き締める。

 実衣は何とか結城を助けて欲しい、と訴えます。義時は親友の野村義村(山本耕史)に、梶原に御家人たちの気持ちを伝えて欲しい、と頼みます。弱いな、と三浦はいいます。人数を集めて訴状に名を連ね、鎌倉殿に処分を訴え出る。

 野村は御家人たちをまわり、一筆を頼みます。北条時政比企能員も名を連ねます。最終的に六十七人の数になります。

 梶原景時に対する沙汰が行われます。頼家の前に梶原は座ります。宿老たちも居並んでいます。三善康信小林隆)が述べます。調べによれば、結城朝光に謀反の疑いはない。頼家は御家人たちが名を連ねた書状を手に取ります。比企能員が述べます。

「梶原殿の行いは、目に余ります」

 北条時政もいいます。

「断固たる御処分を下されるべきでございましょう」

 頼家は梶原にいいます。

「いわれておるぞ、平三」

 梶原は落ち着いた様子を見せています。

「すべては鎌倉殿がお決めになること」

 義時が発言します。

「梶原殿は、鎌倉を守りたい一心であったはず。私欲はござらん」

 和田義盛横田栄司)がいいます。

「分からねえぜ」

 頼家が梶原に呼びかけます。

「平三。申し開きしたけれはしてみよ」

「この梶原平三景時。恥じ入るところはただの一点もござらぬ」

 頼家は梶原に対し、役目を解き、謹慎を申しつけます。

 義時は謹慎となった梶原を訪ねます。梶原は話します。

「それがしのあやまちは、おのれを過信したこと。鎌倉殿と御家人たち、どちらも意のままに操れると思い込み、どちらからも疎(うと)まれた」

 梶原は上皇から、誘いの書状が来ていることを義時に伝えます。

「いかがなされるおつもりですか」

 と、義時は聞きます。

「鎌倉にいても先は見えた」

「いてもらわねば困ります」

「それがしはもはや」

 冷徹な梶原が涙を流すのでした。

 三浦義村が結城朝光にいいます。

「しばらく姿を隠せ。すべては、こちらの思い通りに進んだ。例のこと、くれぐれも、他言は無用で頼む。実衣殿に相談を持ちかけたのはあくまで、おぬしの一存」

 三浦は結城に、砂金の袋らしいものを渡すのでした。立ち去ろうとする三浦に、結城がいいます。

「そんなに梶原殿が憎いですか」

 三浦は答えます。

「別に。ただ、あいつにいられると何かと、話が進まないんでね」

 京から梶原に、誘いのあったことが頼家の耳に入ります。梶原は流罪を命じられます。

 正治二年正月。梶原景時は比企の館に押し入り、頼家の子である一幡を人質にとって立てこもります。義時は説得に訪れます。梶原が話します。

「刀は、斬り手によって、名刀にもなまくらにもなる。なまくらで終わりたくはなかった」

 梶原は一幡を返します。比企の者たちが刀を構えます。梶原は流罪先に行くと叫びます。

「通して差し上げよ」

 と、義時もいいます。梶原は、置き土産だ、といって善児を義時に差し出すのでした。去って行く梶原を見ながら、義時は息子の頼時にいいます。

「すぐに兵を整えよ。梶原殿は、必ず西へ向かわれる。東海道で討ち取る。分からぬのか。梶原殿は、華々しくいくさで死ぬおつもり。武士らしくな」 

 

『映画に溺れて』第503回 SHERLOCKシャーロック 忌まわしき花嫁

第503回 SHERLOCKシャーロック 忌まわしき花嫁

平成二十八年一月(2016)
新橋 スペースS汐留

 

 二〇一〇年から始まったBBCのTVシリーズ『SHERLOCKシャーロック』はコナン・ドイルの原作を踏まえながら、舞台を二十一世紀、現代のロンドンに設定している。ベネディクト・カンバーバッチのホームズはパソコンを使って推理し、タクシーで犯人を追い、マーティン・フリーマンのワトスンはインターネットのブログで事件の手記を公表する。原作に登場する脇役のハドソン夫人、レストレード警部、マイクロフト、メアリ・モースタン、悪役のモリアーティもすべて現代人である。
 ホームズを現代に置き換えるというアイディアは好評で、三シーズン九作のTVシリーズが放送された後、今度は特別版として『SHERLOCKシャーロック 忌まわしき花嫁』が英国で放映され、わが国では劇場公開された。
 この特別版の見どころは、舞台設定が十九世紀末のヴィクトリア朝時代であること。つまり、現代版『SHERLOCKシャーロック』の配役がそのままコナン・ドイルの世界を演じるという趣向なのだ。霧のロンドンを馬車が走り、鹿撃ち帽にインヴァネスコートのカンバーバッチがパイプをくわえて登場する。
 ウェディングドレス姿の既婚女性による銃の乱射と自殺事件。
 レストレード警部の依頼で、ホームズとワトスンは死体安置所に犯人リコレッティ夫人の亡骸を検分する。
 その夜、死んだはずのリコレッティ夫人が夫を射殺する。自殺したはずの女性による殺人。その謎を解明するうち、第二の事件が。
 コナン・ドイルの原作中、ワトスンが題名のみ表記した事件が数多くあり、語られざる事件と呼ばれる。
『マスクレーヴ家の儀式書』の中でワトスンは「足の悪いリコレッティと忌まわしい妻」の事件に触れているが、それがこの『忌まわしき花嫁』なのだ。

 

SHERLOCKシャーロック 忌まわしき花嫁/SHERLOCK The Abominable Bride
2016 イギリス/公開2016
監督:ダグラス・マッキノン
出演:    ベネディクト・カンバーバッチマーティン・フリーマン、マーク・ゲイティス、アマンダ・アビントン、ルパート・グレイヴス、ルイーズ・ブリーリー、ユーナ・スタッブス、ナターシャ・オキーフアンドリュー・スコット

 

 

大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第27回 鎌倉殿と十三人

 建久十年(1199)一月。後鳥羽上皇尾上松也)は、頼朝の死について推理を巡らせていました。殺されたのか。いや、今、頼朝が死んで、得をする者は鎌倉にいない。だとしたら事故か、隠さねばならないような。武家の棟梁である、頼朝にあるまじきこと。馬から落ちたか。頼朝が上洛したとき、やけに水を飲んでいた。病によって、水が足りぬことで目まいを起こしたか。後鳥羽上皇はいいます。

「頼朝の跡目。さぞ重かろう」

 鎌倉の御所では、新たな鎌倉殿である源頼家(金子大地)が、母の政子(小池栄子)に、初仕事のあいさつに訪れていました。同席していた義時(小栗旬)がいいます。

「鎌倉殿には、ご自分の信ずるところを大事に、のびのびやっていただきたい。何かあれば、我ら宿老が対処いたします」

 政子は、あなたに渡したいものがある、といいます。義時が運んできたのは、しゃれこうべでした。政子が話します。

「頼朝様は挙兵の折、ドクロに誓われました。この命、おぬしに賭けようと」

「となたのものですか」

 と、頼家が聞きます。

「頼朝様の父君、義朝(よしとも)様です」

 これは真っ赤な偽物と、政子は言い添えます。義時がいいます。

「しかし、すべてはこのドクロから始まったのです。偽物が、人々の心を突き動かした」

 政子が命じます。

「これからはあなたが持っていなさい。これは、鎌倉殿に代々受け継がれるべきもの。上に立つものの証(あかし)」

 頼家は、ドクロを捧げ持つのでした。

 頼家は、文官たちの働く書庫で述べます。

「私は、父、頼朝が成し遂げてきたこと。また、成し遂げることがかなわなかったことを引き継ぐ。その上で、父を超える」

 比企能員佐藤二朗)が話します。これから、鎌倉殿のご判断をあおぐときは、必ず自分を通すように。それに対して北条時政坂東彌十郎)がいいます。その役目は自分が引き受ける。二人の言い争いに割って入ったのは、梶原景時中村獅童)でした。

「鎌倉殿からお話しがござる」

 頼家は微笑んで顔を上げます。

「皆の者、これより遠慮は無用。訴えがあれば、私がじかに聞く。私は比企や北条を特別扱いするつもりはない」頼家は立ち上がります。「私は、家の名で人を選ぶことを良しとはせん。誰であれ、力のある者を登用していくつもりだ」

 頼家は密かに梶原と話します。

「あれで良かったか」

「お見事にございました」と、梶原は答えます。「あの者たちを信じてはなりません。頼朝様は最後まで、御家人を信じてはおられませんでした。それがしを除いては」

「肝に銘じておこう」

 そのやりとりを、義時が見ていたのです。

 比企能員は妻の道(堀内敬子)と悔しがっていました。娘のせつも正室から外されています。

 北条時政は妻のりく(宮沢りえ)に、比企と頼家が一枚岩でないことがはっきりした、といわれます。二人は喜び合うのでした。

 義時は息子の頼時(坂口健太郎)と、異母弟の時連(瀬戸康史)を従え、政子と会っていました。

「どうやら鎌倉殿は、梶原殿を最も信頼しておられるご様子」

 そう告げる義時に、政子はいいます。

「あの方は、私心無く働くお方です。よろしいのでは」

 義時は頼家から、若くて力ある者を集めるようにいわれていました。頼時と時連にそれに加わるように命じます。

 この頃、京で事件が起こっていました。後鳥羽上皇の後見役である土御門通親関智一)に対する暗殺計画が発覚したのです。とらえられたのは、公家の一条ゆかり御家人たちでした。

 その話が鎌倉まで伝わってきます。とらえられた御家人たちは、頼家の助けを待っている、と比企がいいます。ここは守ってやるべき、と時政も同意見です。上皇から、鎌倉が御家人たちを処罰せよ、といってきていました。情勢にかんがみ、どうすべきかは明らか、と梶原が述べます。頼家の決断は、御家人たちの処罰でした。

 政子や義時の妹である実衣(宮澤エマ)が琵琶を習おうとしていました。師となるのは結城朝光(高橋侃)です。結城は真っ直ぐに実衣を見つめ、

「琵琶の名手といえば、唐(から)の国の楊貴妃。絶世の美女にこそ、琵琶は似合います」

 などと、穏やかでないことをいうのです。

 頼家は、集合した若者たちにいいます。

「よう集まってくれた。わしは共に政(まつりごと)をやる若い力が欲しい。やる気のない者、やる気はあっても力のない者。どんどん落としていく。そのつもりでいてくれ」

 若者たちは頭を下げるのでした。

 政の基礎は、訴訟の裁きです。御家人同士でいさかいが起きたとき、双方の話を聞いて、どちらが正しいかを判断します。主なものは、土地に関する事柄です。御家人たちは、土地を守ってもらう代わりに、いざという時、武具を取り、鎌倉殿を守るのです。

 三善康信小林隆)が、盆に訴訟の書状を積んで、頼家に差し出します。

「ずいぶんあるな」

 と、頼家は口にします。三善は、口調穏やかに話します。

「代替わりされ、新たな鎌倉殿のご判断を、あおぎたいという訴えが山のように届いております。これらを裁き、頼朝様の徳の高い政を受け継いだことを、知らしめましょう」

 頼家の前に、和田義盛横田栄司)と梶原景時が座ります。和田は自分が侍所別当であったのに、梶原にかすめ取られた、と訴えます。梶原は、頼朝から直に侍所別当になるように命じられた、と反論します。頼家は席を立ってしまいます。

 政子は頼家の正室である、つつじ(北香那)に会っていました。御台所(みだいどころ)の心得などを話します。そこへ頼家がやってくるのです。

「くだらぬもめ事が多く、うんざりします」

 と、吐き捨てます。政子が言い聞かせます。

「当人たちにとっては大事なこと。耳を傾けておやりなさい」

 そこへ頼家の側室である、せつ(山谷花純)がやってくるのです。

「鎌倉殿、探しました。まあ母上も。皆さんおそろいで何を話しておられたのかしら」

「どうかしたのか」

 と、頼家がたずねます。

「一幡(いちまん)が歩いたんです。ちゃんと自分の足で」せつは挑発するように、つつじに話します。「知ってました、子供ってね、日に日に顔が変るんですよ。京は鎌倉殿に似ている。今日は比企のおじじ様に似ているって」

 つつじも負けてはいません。

「私と鎌倉殿の子はきっと、源氏の血筋を引く、鼻筋の通った子になることでしょう」

 頼家はここでも席を立ってしまうのでした。

 義時は梶原と話します。

「こういうのはいかがですか。訴訟に関しては、これまでのように、事前に文官の方々に評議をお願いするのです。とるべく道をあらかじめ絞り、その上で、鎌倉殿に取り次ぐ」

 梶原がいいます。

「確かに、今の鎌倉殿には荷が重すぎたようだ」

「文官四人に梶原殿を加えて五人衆とし、当面の間は、訴訟を請け負ってもらいます。梶原殿には、文官と鎌倉殿の間を、取り持っていただきます」

「それが良いようだ。鎌倉殿には、わしから話しておこう」

 義時は、このことを比企能員に話します。梶原が入っているのになぜ比企が入っていないのだ。と、いいだします。自分も入れて六人衆にしろと要求します。

 義時は父の時政にも伝えます。

「しょうがねえ。だったらわしも加えてもらおう」

 と、時政は七人衆を宣言します。

 それを聞いた比企能員は、安達盛長(野添義弘)を引き込みます。

 時政は対抗し、幼なじみの三浦義澄(佐藤B作)に頼みます。

 三浦義村は、和田義盛に声をかけます。

 時政は畠山重忠中川大志)にも声をかけますが断られます。

 畠山は義時に話します。

「全く」と、義時は嘆きます。「父上も何を考えておられるのか」

 畠山がいいます。

「下手をすれば、鎌倉中の御家人に声をかけることになりかねない。小四郎殿の本意ではないはずです。頼朝様という柱を失い、今の鎌倉は崩れる寸前。やはりここは、誰かが新しい柱にならなければ」

「それは、鎌倉殿が」

「あの方に、それができると本当に思っておられますか」

 義時は、畠山の顔をじっと見つめるのでした。

 比企は北関東を納める、八田知家市原隼人)を呼び出し、味方に加えることに成功します。

 梶原が義時に紙を渡します。

「知らぬ間に十二人衆になっている。北条方が四人。比企方が三人。文官衆四人と、この梶原を入れて十二人。数でいえば北条がやや有利ではあるが、比企は文官たちを味方に取り込もうとしている」梶原は義時に詰め寄ります。「こういうことではないのだ」

 義時は頭を下げます。

「申し訳ありませぬ」

「つまらぬ内輪もめに使われては困る」

「これ以上増やすことは、断じてさせませぬ」

 義時は政子に十二人について報告します。政子はいいます。

「もう一人加えて欲しい人がいるの」

 政子は義時を見つめます。

「私はやめましょう」

 と、義時はうつむきます。

「十二も十三も一緒でしょ」

「私が入れば、鎌倉殿が気を悪くされるかと」

「頼家はまだまだ若い。嫌なことがあると、すぐに逃げ出してしまいます。叔父として、側にいてあげて欲しいのです」政子は義時に近づきます。「十三人目はあなたです」

 義時は夜、蹴鞠の練習をする頼家に行き会います。頼家はいいます。

「わしはそんなに頼りないか。わしなりに、精一杯やっているつもりだが。それが気にいらんか」

 義時は言葉に力を込めます。

「少しでも、鎌倉殿がやりやすい形を探っているのです」

「お前は入っておらんのだな。この先、何があっても、お前だけは私の側に」

 義時は顔を上げます。

「尼御台(あまみだい)のお考えでございます」

 頼家は大声を出します。

「おのれの好きなようにやれと申したのは誰だ。もう北条の者の言葉は信じない」

「お父上のことも、そうやってお支えしてきました」義時は立ち上がって頼家に近づきます。「頼朝様は、はじめから鎌倉殿だったわけではございませぬ。どうか、我ら御家人を、お信じください。鎌倉殿は、新しい鎌倉を、皆で築いて参りましょう」

「十三人とは。増えたものだな」

「むしろ、良かったのかも知れません。少ないものに力が集まれば、よからぬことが起こる。頼朝様は、いつもそれを心配しておられました」

 十三人が頼家の前に集まります。大江広元三善康信中原親能二階堂行政北条時政。三浦義澄。和田義盛足立遠元比企能員安達盛長八田知家梶原景時。江間義時。これが十三人です。梶原がいいます。

「これより、訴訟取り次ぎは、この十三人によって執り行います」

 しかし、私はだまされない。と、頼家はいいだすのです。丸め込んだつもりでいたかもしれないが、最初から自分はお前たちを信じていない。頼家は北条時連や北条頼時を含む、若者たちを呼び出します。

「わしが選んだ。手足となって働いてくれる者たちだ。信じられるのはこやつらだけよ」頼家は十三人に向き直ります。「これより、わしの政は、わしとこの者たちで行う。もちろん、お前たちと切磋琢磨してのことだ。新しい鎌倉を、皆で築いて参ろうではないか。