森川雅美
森川雅美さんの新詩集『疫病譚』のクラウドファンティングが始まりました。 https://motion-gallery.net/projects/morikawa-poets?fbclid=IwAR0KWdBB6O-vXWHxMDeknAMLudUzYZMqUwQ2lHo_HUiiKMMaPPhSlN5jACg 上記リンク先にて購入&応援よろしくお願い致します…
明治一五一年 第21回 人の名前が錯綜する人の血筋が錯綜する境目のあざなえる膿み爛れつづける一八六八年のもう帰らない意識がさらに繋ぐ泥濘に深深と塗れる指先を掴むいくつかの掌は一八七七年のもう帰らない積み重なる様様な歪な思いの内に紛れつつ潰えこ…
明治一五一年 第20回 今日も一五一年の小さな波紋なのだと少しずつ衰えていく日日に爆ぜる名残として地面に拡がり続ける会津から北へ向かう足首の小さな裸形は具現する風の行方をいまだに晒すきみの手足だねって水に映る面影を追う静かに辿りながら戻らなく…
明治一五一年 第19回 いくつかの目の内側を すり抜ける私たちだから 小さな傷口が増えていく日日 の残景が過ぎていき どろどろに流れてく体の 感触が一五一年を伝う いつの私たちだった 壊れてしまった人の時間 かと聞きなれた声たちが流れ 荒れ果てたまま北…
明治一五一年 第18回 夕日の裏側をすり抜けていく幾つもの囁きにちいさく縮まっていく足の裏側の痛い感触は静かに海面を渡り佇む賑やかな午後の浜辺へ嘉永六年の夕暮れ時の静まり返る三号台場の江戸湾の入り江に進む亜米利加艦隊の船尾の裂きいく空気の方位…
明治一五一年 第17回 いくつかの記録の狭間に落ちていく 人の声を拾いながら 慶応三年の陸奥の背の すでに一五一年の影たち が燃える静かな刻限が近づき 明治二八年の大陸への貧しき傷の 北上する足と南下する足の吃音 の重なりは届かぬ野だと 明治三八年の…
明治一五一年 第16回 誰かの背中を眺めている誰かの背中を見詰める目の内側に広がる荒野はいまだに傷付いていく声の端の踏み外す一瞬であるなら東征する数えきれぬ足裏のすでに忘却される一五一年の記憶される土の香りの畔から途切れなくつづく面影の後に発…
明治一五一年 第15回 気がつけば傍らにいる誰かのうすれかけた小さな影がまだ違う記憶の水際に漂う呟きを掌に過去も今の時間だから包み込むならば消えた人たちの静かな太ももが不意にかたわらを通り積み重なる一五一年の過去も今の時間だからの時の間の埋も…
悲鳴は失われた形になるだろうわだかまる意識のかたちは水を剥ぐ骨髄の中心まで柔らかく穿つ悲鳴は失われた形になるだろう死者の言葉はいつまでも終わらぬ明治元年の唇の多くの掌もまた戻る悲鳴は失われた形になるだろう遠くに吊るされる人影の傾きを開く見…
失われた足を失われた眼が覗いている静まり返った光の内側を過っていく人があり呼ばれる掌のくぼみはいまだに終わらない繰り返される末後の風景だから人知れずに躓く明治の四十五年の死んだ人の影たちを踏みそばからまた始まるいくつかの記憶をちがう記憶に…
明治一五一年 第12回 いくつかの背骨を拾うためつづく並木はいくつかの不明の内にまだ洗われていく人たちの歩く道筋の彼方明治元年の帰らないには深深とした逃げいく足が平坦にならされ静かになる風向きに弱まる土に重なりつづく痛みだ明治二十八年の帰らな…
明治一五一年 第11回 森川雅美 途切れる記憶の内側を過ぎていくのは誰の瞳かといくつもの軽くなる足音たち多くの人がまた亡くなりましたが踏み締めるままに哀しみの破片なのだと越えていく掌の浅い窪みへあれは境界に触れる足でした散在する傷口の内側からの…
の内側にわたしの水が満ちていくそれは静かなままの下り坂だからが訪れる前に失われていく記憶の奥から呼ばれるいまだ不明のためを留めるいくつかの縊れし者たちもはやそこからは戻れないですかの内側にわたしの血が満ちていくかたことになる足音たちが刻ん…
ちいさな点が明滅しながらいくつも落ちていくそれは内側に灯る消えかけたささやきなのだと無数の明滅が一面に広がっていき音もない平原人の歩いた道なのですかたちもはや思いだせずに来た方角を見詰め漂うのは壊れかけた船だと明治元年の声が呟き片側だけの…
明治一五一年 第8回 無数の記憶が意識の内側を流れていくその静かな水辺であるならとは今も生きている記憶ですから問われるために剥がれいく訪れとしての意味にならぬ声の気配が明治元年のひたすら北上する消える前の揺らぎとともに紡がれいく度もぶつかり…
明治一五一年 第7回 森川雅美 私たち放たれいく世界は澄んだ水だからどこからか足音が進んでいき幾つもの傷は開く横側からの人たちの眼は見えなく様ざまな場所に残される泥濘に迷いつつ哀しみも東西南北から雪崩れこみ糾われ暗くなる日日の営みが滲んでいく…
明治一五一年 第6回 はじまりの足どりは長州やら薩摩やらはたまた水戸か土佐かなどとはや呟くいく人もの無念の生首が地面に転がり結びえない言の葉たちが無残に花開くさらに誰かの背から誰かの背へと結ぶ己か本分の忠節を守り義は山岳よりも重く死は鴻毛よ…
明治一五一年 第5回 森川 雅美 波が立っている延々と繰り返し波が立っているアメリカ東部ノーフォークから出港した黒船の甲板に立つ一人の水夫が闇に光る灯りを見詰め琉球の文書が波間に沈んでいき伸ばす手もなくより遠い海上に歪みいく風の行方を聞きなが…
明治一五一年4 森川雅美 見えない影を追っている見えない影の意識を追っているやがて視界を失う私たちの眼だから懐かしい声が聞こえいつまでも消えない掌の温みがゆっくり体に満ちていき失われた数知れぬ魂たちが静かに訴えかけてくるのです密かな佇みを注…
明治一五一年 第3回 森川雅美 ゆっくり下りていく 誰もいない静かな水辺だから 語られる諸諸の破片と して見えなくなる足首より ぶらさがる外れの漂う訪れの まま留まり淀みいく いく人もの人たちが小さく 響きあう隘路の外れへ 過ぎいくちぐはぐな言の葉 …
明治一五一年 第2回 牡丹雪が降る天上の彼方の初めの一滴として牡丹雪が降る人たちの歩いた後を包むように星のない空に手を伸ばせば今日の日は終わり残像が無数に連なっては闇の奥に紛れていくそれはまだ拾えない遠い記憶のかけらだから願いも叶わぬまま消…
明治一五一年 にぎるままの掌の内側陽射しが温もっていきぼくたちは青白い炎として燃える空はどこまでもただすみ渡っていたと記録には記されるよろめくままに踏みだし山道を登っていく降りつもる百数十年の雪のふかく残る人の足跡にほら小さな声はこだまし白…