明治一五一年 第11回
明治一五一年 第11回
森川雅美
途切れる記憶の内側を
過ぎていくのは誰の瞳かと
いくつもの軽くなる足音たち
多くの人がまた亡くなりました
が踏み締めるままに
哀しみの破片なのだと
越えていく掌の浅い窪みへ
あれは境界に触れる足でした
散在する傷口の内側
からの死者たちが静かに集う
喉元までの裂け目が
多くの人がまた亡くなりました
埋もれる側からの開く眺めは
もっと眩しい光が
射していた忘れかけた安らぎと
ひとつずつ消えていきました
途切れる囁きは静かな脊髄
に弱る震えと共に届き
失われた心音の痛みを見出す
多くの人がまた亡くなりました
記録の淀みの狭間へ
割れる暗さに曝される
時代の傾きは足裏に留める
帰れず沈みました
水もまた重さを持つ
のだから体の中心に傾くのは
幾重もの吐息に似た言葉の
多くの人がまた亡くなりました
ぶれに訪れる古い声と
途切れるもう会えない人人
の眼に光るために綴り
何度も亡くなっていきました
違う切り傷になる
片割れに会う踏みだせない端へ
傾き見られているなら
多くの人がまた亡くなりました
かたちになるより早く満つ
散らばる名残を結びながらも
追われていく背中は
いつまでも張り付いていました
ごく小さな波紋になるまで
繰り返し拡がりいくと
途切れる命の連鎖を
多くの人がまた亡くなりました
紡ぐためささやかな空を放ち
はるか遠い彼方に連なりいく
ながい列の始まりへ
まだ戻っていいですか
目を凝らしゆっくり歩調を
整えながら種子を包む
額とは大きな影だから歪に
多くの人がまた亡くなりました
伸びる言の葉の裏側は
ざらつく荒れ野の
ままに燃えない熱い火を放てと
いつか振り返りました
途切れる記憶のさらに奥に人
の現在の予感は兆し
また違う眼の内側に芽生える
多くの人がまた亡くなりました
澄んだ残響の結晶へ
つぶやく傷ついたいくつもの
古い声たちを結わく
留まり続けました
新しい営みの始まりに
繁茂する葉影が揺れ一瞬は
まだ止まらずに眩い
多くの人がまた亡くなりました
骨片が延々と降る野を行くと