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『映画に溺れて』第3回 椿三十郎

第3回 椿三十郎

昭和五十三年十一月(1978)
大阪 阿倍野 アポログリーン

 

 黒澤明監督の『七人の侍』は西部劇『荒野の七人』となったが、『用心棒』もまた西部劇になっている。セルジオ・レオーネの非公式リメイク、マカロニウエスタン『荒野の用心棒』で、クリント・イーストウッドがスターになるきっかけでもあった。
 三船敏郎ふんする流れ者の浪人が、宿場町にふらっと現れ、対立するふたつの博徒一家を操り、潰そうとする。『用心棒』はダシール・ハメットの『血の収穫』から着想を得ている。


 黒澤は『用心棒』の次に同じ三船の素浪人を主役に『椿三十郎』を作った。ある藩にぶらりと立ち寄った浪人が、重役の不正を糾そうとする若侍たちに味方し、悪人に幽閉されている家老を助け出し、黒幕一味を追い詰める物語である。
 前作で博徒から名を聞かれた浪人が桑畑が広がるのを見て、桑畑三十郎と答えるが、今回は満開の椿を見て、椿三十郎と名乗る。
 早まった若侍たちを救い出すため、単身で敵陣に乗り込み、あっという間に三十人を斬り捨てる場面はぞっとするほどの迫力。そして、ラストの仲代達矢との対決。すごいの一言であった。


 原作が山本周五郎のユーモア短編『日日平安』なので、前作『用心棒』とは打って変わってコメディ調になっているのもうれしい。
 若侍の加山雄三田中邦衛若大将シリーズだし、小林桂樹や団令子は東宝のサラリーマン喜劇によく出ているし、家老夫人の入江たか子といい、家老の伊藤雄之助といい、全体に明るく楽しい。黒澤明というと、重苦しい巨匠のように思われがちだが、こういう喜劇調の娯楽作をもっとたくさん撮ってほしかった。
『用心棒』もまた、いくつかのリメイクや類似作を生んでいる。『椿三十郎』は森田芳光監督でリメイクされたが、オリジナルと比べると、見劣りするのは仕方ないか。

 

 

椿三十郎
1962
監督:黒澤明
出演:三船敏郎仲代達矢加山雄三小林桂樹田中邦衛、団令子、入江たか子