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『映画に溺れて』第270回 チャンス

第270回 チャンス

令和元年五月(2019)
池袋 新文芸坐

 子供の頃からお屋敷に住み込みで仕えている中年の庭師チャンス。屋敷から一歩も出たことがなく、正規の教育も受けていないので読み書きができず、庭の手入をする以外は、ただ一日中TVを見て過ごしている。無垢で無欲で無感動。
 ある日、老いた主人が死に、弁護士から屋敷を立ち退くように言われる。トランクひとつに身のまわりのものを詰めて、初めて出る屋敷の外。黒人の愚連隊に脅されても、顔色ひとつ変えず、町をさまよい、路上の電器店の前で大型TVを見ていると、後ろから来た自動車にぶつけられる。
 これが大富豪の夫人の車で、そのまま宮殿のような大邸宅へ連れて行かれ、病気療養中の富豪の世話をしている医者の診察を受ける。
 庭師のチャンスと名乗ったので、チャンシー・ガーデナーを名前だと思われ、話し方は温厚、着ている洋服は主人のお下がりの上品なスーツ。富豪にも夫人にも気に入られ、豪邸の客となる。
 大統領が富豪を訪ねた際には同席し、物怖じせずに草木の話をすると、これが今の政界に対する卓見として、感心される。
 やがてソ連大使のパーティに出たり、TVのトークショーに出演したり、だれに対しても素直に思ったことを言うだけだが、謎の大物ガーデナー氏として世間から注目されることに。
 チャンスを演じたのが、温厚な紳士そのもののピーター・セラーズ。この映画が日本で公開される前年の一九八〇年に五十四歳で亡くなっている。
 富豪夫人のシャーリー・マクレーンはこのとき四十代半ばでとてもチャーミング。


チャンス/Being There
1979 アメリカ/公開1981
監督:ハル・アシュビー
出演:ピーター・セラーズシャーリー・マクレーンジャック・ウォーデンメルビン・ダグラス、リチャード・ダイサート