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『映画に溺れて』第294回 盲目のメロディ

第294回 盲目のメロディ

令和元年十二月(2019)
新宿 新宿ピカデリー


 事前になんの予備知識もなく、こういう映画に出合うと、私はうれしくてたまらない。さあ、この先、いったいどうなるのだろう。わくわくしながら観て、最後に満足感を味わう。詳しく最後まで筋を語る人には決して耳を貸してはならない、とつくづく思う。
 さて、広い畑、ウサギに食い荒らされたキャベツ、銃を持った農夫がウサギを追う。という場面から唐突に始まるが、いったいなんだと思っているうちに、都会のアパート、窓際の部屋でピアノを弾く青年アーカーシュ。盲人でピアノの腕前は相当のもの。コンテストに応募するために日ごと作曲に打ち込んでいる。生計はピアノの個人教師。
 ある日、町でバイクに乗った若い女性ソフィにぶつかり、それがきっかけで彼女の父親の経営するレストランでピアノを演奏することに。彼女ともだんだん親しくなり、アパートに誘う。実は、彼はほんとうは目が見えるのだ。聴覚をとぎすまし、音楽に集中するために普段から盲人のふりをしていただけ。だが、周囲はだれも彼の秘密を知らない。
 レストランの常連で元俳優の不動産業者プラモードが彼の演奏を気に入り、妻の誕生日にサプライズでピアノを弾いてほしいと頼む。指定の日時に部屋を訪ねると、美人の妻シミーが出てきて彼を部屋に導く。ピアノの前に案内され、何食わぬ顔で演奏するが、床に倒れ血を流して動かなくなっているのが依頼人のプラモード。
 オードリー・ヘップバーンの『暗くなるまで待って』など、盲人が犯罪に巻き込まれるストーリーはよくあるが、これは盲人のふりをした男が犯人から狙われる話。
 その後の二転三転、とんでもない犯罪コメディであり、先が読めない。
 アーカーシュ役のアーユシュマーン・クラーナーの弾くピアノがすばらしい。そして、悪妻シミー役のタッブーのうっとりするほどの美しさ。
 インド映画ではあるが、いきなりみんなで歌って踊ってのお決まり場面はなし。


盲目のメロディ/Andhadhun
2018 インド/公開2019
監督:シュリラーム・ラガバン
出演:アーユシュマーン・クラーナー、タッブー、ラーディカー・アープテー、アニル・ダワン