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『映画に溺れて』第382回 時をかける少女(2010)

第382回 時をかける少女(2010)

平成二十二年三月(2010)
新宿 新宿ピカデリー

 

時をかける少女』はTVや映画で何度も映像化され、アニメにもなり、演劇になり、コミックにもなっている。ひとつの作品が様々な形でこれだけ繰り返されるのも珍しいが、それだけファンも多いということだろう。
 二〇一〇年版の『時をかける少女』は芳山和子の娘が主人公という後日譚で、高校生のあかりが母和子に代わって過去へ遡り、深町一夫に母の言葉を伝えるという設定である。その行き着く時代が一九七四年なのだ。
 あかりはその時代にたまたま出会った大学生涼太に二〇一〇年の未来から来たことを打ち明け、深町探しを手伝ってもらう。SF映画マニアの涼太は、半信半疑ながらも突然空中から出現したあかりに協力することに。
 涼太は二十歳の大学生でキューブリックファンの映画青年である。アパートの電気ごたつ、赤いマフラーの神田川未来惑星ザルドスのポスター、一九七四年当時の風景、風俗、みんななつかしい。
 あかりは手掛かりを求めて、少女時代の母に会ったり、涼太の映画作りを手伝ったり。そして時を越えて、涼太に淡い恋心を抱く。涼太は桜並木で自主映画を撮り終え、あかりに言う。三十六年後、君の時代にここで会おう。でも、その時には俺は五十六のオッサンだけど。
 理科室で深町一夫に会うことができ、母の伝言を伝えるあかり。そして、『ニュー・シネマ・パラダイス』のごとき切ないラスト。思わず涙せずにはいられなかった。
 あかりを演じた仲里衣紗の天真爛漫、活き活きとした演技に拍手。そして一九七四年の見事な再現にも脱帽。男の髪型、男女の服装、街のたたずまい、あの時代の空気そのもの。一九七四年に二十歳の大学生であり映画青年であった私には、忘れられないタイムスリップ映画である。

 

時をかける少女
2010
監督:谷口正晃
出演:仲里衣紗、中尾明慶、安田成美、勝村政信、石丸幹ニ、青木崇高石橋杏奈、千代將太、加藤康起柄本時生