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『映画に溺れて』第50回 キックアス

第50回 キックアス

平成二十三年一月(2011)
渋谷 シネセゾン

 

 渋谷のシネセゾンは異色作を選んで上映する貴重な映画館だったが、残念ながら平成二十三年二月に閉館となり、私はここで最後に『キックアス』を観た。
 主人公は高校生の男の子。好青年ながら、好きなヒーローコミックを同級生のオタク仲間と語り合うのが趣味という地味でぱっとしないタイプ。腕力も度胸もなく、道で不良にたかられると黙って財布を渡してしまう弱虫。それを見て見ぬふりする周囲の大人。だれも助けてくれない。
 彼は考える。ヒーローに憧れる人はたくさんいるはずなのに、どうしてだれもヒーローになろうとしないのか。ならば、自分がヒーローになろう。通販で買ったコスチュームを着て、勇気を出して町に出る。その名もキックアス。が、現実は厳しく、チンピラにボコボコにされ、ナイフで刺されて病院へ。
 だが、諦めずに再び、ヒーロースタイルで町へ。チンピラに立ち向かうが、それを見た人たちが面白がってスマホで写真を撮りネットに流す。謎のヒーロー、キックアスがたちまち話題の人となるのだ。
 彼の前にビッグダディとヒットガールが現れる。バットマンスタイルの頑強な男と仮面の少女。元刑事とその娘が親子で凶悪な麻薬組織と戦っている。恐ろしく強い本物のヒーローだ。ヒットガールはまだ小学生ぐらいのあどけない女の子なのに、平気でばったばったと悪人を殺す。
 麻薬組織のボスが自分の不良息子を使ってヒーローの正体を暴き、反撃に出る。キックアスはビッグダディ親子と協力して悪と戦うことになる。
 痛快無比なヒーローコメディ。実は私、この映画にインスパイアされて時代小説を書いた。江戸のヒーロー『浮世頭巾』(双葉文庫)、興味のある方はどうぞ。

 

キックアス/Kick-Ass
2010 アメリカ・イギリス/公開2010
監督:マシュー・ヴォーン
出演:アーロン・ジョンソンクロエ・グレース・モレッツニコラス・ケイジ

 

 

朧屋彦六世直し草紙 : 1 浮世頭巾 (双葉文庫)

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