『映画に溺れて』第146回 色ごと師春団治
第146回 色ごと師春団治
平成十三年八月(2001)
京橋 フィルムセンター
私が子供の頃、大阪のTV局は土曜や日曜の昼間、平日の深夜など、繰り返し繰り返し松竹新喜劇の舞台を放送していた。劇場で生の舞台はそれほど観ていないのに、けっこう新喜劇に詳しいのは、TVでは数え切れないほど観ているからだ。ほとんどが藤山寛美主演。どの作品も古典的な上方落語を思わせる人情喜劇で、笑いに品があった。
その藤山寛美が巨額の借金のため、松竹を一時期追われ、東映で主演したのが映画『色ごと師春団治』である。同じ長谷川幸延原作で同じ館直志の脚色なので、森繁主演の『世にも面白い男の一生 桂春団治』と内容はほとんど変わらない。
主人公の初代桂春団治は借金を抱え、差し押さえの紙を口に貼るというエピソードが残されているほどの遊び人で、寛美と通じるところが多い。昔の芸人は、少々無茶な遊びをしても、あいつならそれぐらいやるだろうと、世間は呆れながら笑いの対象にしたのだ。羨望と侮蔑の入り混じった賞賛である。
妻がありながら、商家の未亡人と深い仲になり、「後家殺し」とあだ名されて話題になる。若い素人娘に手を出し、結局女房は去る。
芸の上では、古い上方落語の形式をどんどん変えて、爆笑落語を作っていく。現在の派手で笑いの多い上方落語に多大の影響を与えている。
東映版では女房が南田洋子、後家が丘さとみ、だまされて後妻となる若い女が藤純子。人力車で昇天する場面までまったく同じ。今回の人力車夫は長門裕之だった。
田中春男は森繁版、寛美版の両方に出ている。大阪ものには欠かせない味のある名脇役である。
色ごと師春団治
1965
監督:マキノ雅弘
出演:藤山寛美、南田洋子、藤純子、丘さとみ、長門裕之、茶川一郎、山城新伍、人見きよし、田中春男、汐路章