『映画に溺れて』第170回 リヴァプール、最後の恋
第170回 リヴァプール、最後の恋
平成三十一年一月(2019)
六本木 キノフィルム試写室
シェイクスピア映画ではないが、『ロミオとジュリエット』がちらりと出て来る実録もの。
一九七九年、イギリスで舞台俳優を目指す青年ピーターがひとりの女優と出会う。かつてハリウッドで活躍したグロリア・グレアム。ハンフリー・ボガードの相手役も務め、アカデミーの助演女優賞も獲得しているが、今は忘れられたスター。年齢も六十近く、映画の仕事はなくなり、イギリスでの舞台に再起を賭けている。
年の離れたふたりだが、お互い俳優として意気投合し、演劇の夢を語り合う。
「ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに入ってジュリエットを演じたいの」
彼女の言葉に彼は笑って「乳母じゃなくて」
激怒する彼女。あわてて謝る彼。そして彼は二倍も年上の彼女と恋に落ちる。映画館でいっしょに観た『エイリアン』、カリフォルニアでの日々。
やがて、甘い恋はいきなり破局を迎える。
一年後、『ガラスの動物園』の初日を前に倒れたグロリアを、リヴァプールの実家に引き取り看病するピーター。息子の恋人だった映画スターを温かく迎える両親。
グロリアの病状は深刻で、もはや回復の見込みはない。寝たきりの彼女を、ある日、ピーターは劇場に連れ出す。舞台に椅子がふたつ、無人の客席。彼が取り出した本は『ロミオとジュリエット』
第一幕第五場、ロミオとジュリエットが初めて言葉を交わす場面。
「こうしてあなたの唇が、私の唇から罪を拭い去る」
「それなら、その罪が私の唇に移るはず」
グロリアを演じたアネット・ベニングはこのとき、五十代後半、まさに晩年のグロリアと同年齢で、しかも面影も似ていて、ぴったりの役柄である。
グロリア・グレアム。一九八一年に死去。私の大好きな『素晴らしき哉、人生』ではジェームズ・スチュワートに気のある色っぽい幼馴染を演じていた。
リヴァプール、最後の恋/Film Stars Don't Die in Liverpool
2017 アメリカ/公開2019
監督:ポール・マクギガン
出演:アネット・ベニング、ジェイミー・ベル、ジュリー・ウォルターズ