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『映画に溺れて』第176回 居眠り磐音

第176回 居眠り磐音

令和元年六月(2019)
武蔵村山 イオンシネマ

 雑誌に連載された小説が単行本として出版され、やがて文庫化される。というのが、かつての出版の流れだった。それがいきなり最初から文庫本で出る、いわゆる文庫書下ろしの時代小説。先鞭をつけたのが佐伯泰英である。
 代表作『居眠り磐音 江戸双紙』シリーズは平成十四年に双葉文庫で開始、五十一巻まで続き、その第一巻『陽炎ノ辻』が映画化された。磐音を主人公とする壮大な歴史絵巻の序章である。
 時は明和九年、三人の若者が江戸詰めを終えて、豊後関前藩に帰国する。坂崎磐音、河出慎之輔、小林琴平、彼らは幼馴染で、琴平のふたりの妹のうち舞が慎之輔の妻となり、奈緒が磐音の許嫁であることから、親友であり義兄弟でもある。
 が、帰国早々惨事が起こる。悪意ある噂が誤解を生み、親友三人が剣を交え、二人が命を落とす。心ならずも友を斬った磐音は家を捨て、藩を離れ、奈緒への思いを心に秘めながら、江戸での浪人暮らしとなるのだ。
 裏長屋に住む磐音が大家金兵衛の世話で両替商今津屋の用心棒となり、初日に不逞浪人たちの押し込みを退治したので、主人の吉右衛門から重宝がられる。
 今津屋襲撃の背景には当時の貨幣事情があり、通貨の統一をはかろうとする老中田沼意次。これに加担する今津屋に対し、反対派が手先のならず者を雇って今津屋に脅しをかけてきたのだ。この争いに巻き込まれる磐音。
 気性は温厚だが、剣の腕は立つ。道場の師に「磐音の構えは春先の縁側で日向ぼっこをしている年寄り猫のようじゃ」と言われるほど、手応えのない居眠り剣法である。が、ひとたび立ち会えば、相手に斬り込ませて、これを倒す。
 松坂桃李が磐音を爽やかに演じて、久々に好感のもてる時代劇である。

 

居眠り磐音
2019
監督:本木克英
出演:松坂桃李木村文乃芳根京子柄本佑杉野遥亮佐々木蔵之介谷原章介中村梅雀柄本明