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『映画に溺れて』第259回 素晴らしき哉、人生

第259回 素晴らしき哉、人生

平成二十四年一月(2012)
府中 TOHOシネマズ府中

 クリスマス映画はたくさんあるが、私はこれが一番。
 ジェームズ・スチュアート演じる主人公ジョージ・ベイリー。夢は金持ちになって世界一周すること。子供の頃、川で溺れかけた弟を助けて、冷水が耳に入って、片耳が聴こえなくなる。大学へ行く資金を貯め、町を出ようとしたその時、貧しい人たちにささやかな住宅を提供していた父親が倒れ、父の組合を引き継ぐために大学を諦める。幼なじみのメアリと再会して結婚、海外へ新婚旅行に出ようとしたそのとき、金融恐慌で債権者が組合に押し寄せ、旅行費用で急場をしのぐ。他人のためだけに生きているような人生。でも、夫婦仲はむつまじく、四人の子供に恵まれ、家庭は円満。
 ある年のクリスマスイブ。会計監査の直前に八千ドルの現金がなくなり、組合の資産を横領した罪に問われる。絶望したジョージは、家族に当り散らし、酒場で酒をひっかけ、車を大木にぶつけ、川に飛びこもうとする。
 そこへ現れるのだ。翼のない二級天使のクラレンスが。
 ジョージは天使に言う。何ひとつ夢は叶わなかった。何をやってもうまくいかない。八千ドルのために刑務所行きだ。自分なんか生まれてこなければよかった。
 なるほど、そうか。じゃ、あなたに見せてあげよう。ジョージ・ベイリーが生まれてこなかった世界がどんなものかを。
 やくざと娼婦がうろつく殺伐とした歓楽街。墓場の石碑には川で溺れた弟の名前。友人たち、母親、妻のメアリ。彼らの現状は。ひとりの人間が存在しないだけで、世界はこんなひどいことになっている。悪夢のようなパラレルワールド
 我に返って家に戻ると、四人の子供はちゃんとそこにいて、泣きながら子供たちを抱きしめる。今、ここにいることの幸せ。そして彼を待つ最高のクリスマスプレゼント。善人を絵に描いたようなジェームズ・スチュワートならではの役柄。
 何度観ても素晴らしい。ああ、素晴らしき哉、映画。


素晴らしき哉、人生/It's a Wonderful Life
1946 アメリカ/公開1954
監督:フランク・キャプラ
出演:ジェームズ・スチュアートドナ・リード、ライオネル・バリモア、トーマス・ミッチェル、ヘンリー・トラヴァース、ビューラ・ボンディ、グロリア・グラハム